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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

三蛍

時代背景は大正です。


カララララと、扉が動く音がした。

昼間、年の離れた兄の葬式の手伝いでくたくたに疲れていたけれど、控えめなその音に何故か目が覚めてしまった。


(・・・便所)


くあっと口を開けて大きなあくびを一つ。

とりあえず厠へ行くことにした。


その途中の廊下を歩いていると、中庭に人影が見えた。


(ホタルさんだ)


兄嫁のホタルさん。背が高く、長い艶やかな黒髪で、月明かりでも丁寧に手入れされた髪だとわかる。


俺は中庭の縁側に座り、置いてあった下駄をはいてから、声をかけた。


「眠れませんか、ホタルさん」

「・・・あ、ごめんなさい、起こしちゃたかしら」


気を付けてたんだけど、とホタルさんは言った。


夫を亡くして葬式をあげた日に眠れる嫁なんかいないよな、と俺は一人でそう結論づけた。


「蛍が、とても綺麗だったから・・・」


「確かに、とても綺麗ですね」


広い庭に、数十匹の蛍が光りを放ちながらあちこちに飛んでいる。


「あ、見て。あそこ」


ホタルさんが指をさした先に、光っている三匹の蛍が集まっていた。


「ふふっ、私達みたいね」


「兄とホタルさんと俺・・・ですか?」


なんだか少し、みんなと離れて固まっているように見えるからだろうか。





年の離れた兄は、長生きは出来ないと言われていた。

広い庭を持つこの屋敷は、跡取りは兄じゃなくてお前だと、小さい頃から言い含められてきた。


そんな兄が布団から出られなくなる一年前に、兄はホタルさんと喫茶店で出会ったそうだ。

小さかった俺は、二人の馴れ初めを何度も兄にせがんで聞かせてもらった。


珈琲の飲めない兄のくせに、ホタルさん目当てで喫茶店通ったんだなと、今の大人に俺にはわかる。


突然、綺麗な人を連れてきた兄は、結婚を認めてくれと、親父達に二人して土下座をしていたところを、俺は目撃している。

そこで俺は乱入して、言ってやった。


『次期当主のオレは、兄さんの結婚を許可するよ!』


別に反対されてるわけもなく、順調に結婚式を二人はあげた。

天涯孤独のホタルさんだったらしく、親族の席はなく、職場や近所の知り合いで構成されていたようだが、結婚式はみんなに祝われていた。


『結婚の挨拶した時のお前の言葉。一生忘れられんわ』


と力なく笑う兄の最期の会話だった。






三匹の蛍、私達みたいねと言い放つホタルさん。


寄り添うように見える二匹と向かいあった一匹の、向かい合っているほうがオレだな、と思った。




「・・・落ち着いたら、出ていこうと思ってるの」


「なんでですか、居ればいいじゃないですか。兄の世話、最期まで介護してもらったのに」


そういうと、驚いたように、ホタルさんは俺を見る。

弱っていく兄を甲斐甲斐しく世話をしていたのは嫁のホタルさんだった。


今ならわかる。

金のかからない労働力という利点をあったから、結婚させてもらったんだろうって。


金持ちのくせに、妙なところにケチなんじゃねぇかと、怒った日もあった。



「・・・こういうことになるのは、わかってたから」


「でもね、ホタルさん。俺はホタルさんが、俺の知らない所に行かないでほしい」


俺はホタルさんの腕を掴み、そう懇願した。


「・・・あなたは、義理とは言え、家族よ」


「そうですよ、俺達は家族なんです。だから、出ていかせない」


「こ、子供も作れない私に、この家にいる意味も」


「わかってますよ。子供、作れない、理由も」


ひっ、とホタルさんが息を飲む音が聞こえた。


「俺は兄のこと大好きだよ・・・だから、兄の生きる理由だったホタルさんに感謝してる」


何度も入院と退院を繰返して淀んでいく兄が、急にキラキラとしだしたから。


庭の隅の離れに、簡素な建物で二人寄り添い、理想の二人だと。

俺は、二人を見てて内緒で心癒されてた。


握っていたホタルさんの腕を離し、二人の家のほうを見る。


「私が、その・・・女の成り損ないって知ってたの?」


「たとえ、ホタルさんの性別がなんであろうと、兄はきっとホタルさんだから、結婚したんですよ・・・俺はそんな二人が大好きなんですから」


俺は離れの建物を指差し、


「あそこ、喫茶店にしようと思ってます。親父にも話を通した」


だから、居なくならないでください。


「酷なこと、言うけれど・・・兄の、側で、生きててください」


ホタルさんの両手を握って、力強く頭をさげた。

これは俺のエゴだ。見えないところに、行かないでと、いう。小さな小さな。


はぁ、と小さなため息が聞こえてきて。


「じゃあ、喫茶店の名前。三つ蛍にしてね。良いでしょ、ね?」


俺達兄弟の名前にも、蛍と言う字が入っている。

さっきの、三匹の蛍ということも掛けているんだろう。


見上げると、月と、蛍と、ホタルさん。

一枚の絵画のような構図に、泣きたくなるほど心からの。


「あぁ、とても良いですね」







そして、流行ってはいないけど、飲むと不味くはないけどとても良い香りの珈琲が出る喫茶店

が長らく営業してましたとさ。




ーちょっと設定ー

弟くん。

ホタルさんに淡い初恋だった。小さい子あるある。

二人のイチャイチャを偶然見ちゃって気付いちゃった子。

兄と兄嫁は推し


ホタルさん。

胸もあるし、下もついてるけど機能はない。

元々、女の子として育てられてはいた。

両親は災害で亡くし、天涯孤独。


兄。

身体が弱いし胃も弱いので、珈琲飲めません。でも匂いは好き。喫茶店でホタルさん見つつ、珈琲の香りに癒されながら、あんみつ食べるのが好きだった。


喫茶店の名前は、みつほたる、です。


三蛍と、いう文字を見て思いつきました。

寄り添う二匹の蛍と、離れて見てる蛍はオレだなっていう場面が見えたので書かせていただきました。


以上、読んでいただきありがとうございました。


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