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クロと黒歴史  作者: ムツナツキ
第三章『再出発』
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第37話「火の証」

 目が覚める。

 クロの背中には、またしても柔らかな感触があった。


「クロ!」


 フランの声だ。それが聞こえた方に顔を動かすと、フラン、ハク、テッロの三人がいることがわかった。

 見覚えのある部屋。前回倒れたときに運ばれた宿と同じだろう。


「俺、確か……」


 試練を受けて、最終的に前回とほとんど同じような攻撃で気絶させられたことを思い出す。


「あだだだだっ!?」


 そしてその瞬間、体中に激痛が走った。

 自身の体を見て初めて、前回よりも厳重に包帯が巻かれていることに気づく。道理で体を動かしづらいはずだ、と納得した。


「せっかく治りかけていた骨が、また折れたり砕けたりしたせいで、前回よりも酷い怪我になっている。二週間は絶対安静だ!」


 テッロが大声で忠告する。大事なこと故に大声なのか、単純に声を抑えるのが苦手なのかはわからないが、どちらにせよ、クロには鬱陶しく感じられた。


「それより、試練は……」


 傷だらけのテッロを見たことで、クロは言葉を呑む。最も深いのは闇の斬撃によるものだが、それ以外にも生傷が全身に存在していた。


「合格だ。お前が気絶した後、残った二人が見事俺を倒してみせた」


 合格。

 たった二文字の言葉を上手く飲み込めないクロは、開いた口が塞がらなかった。


「私たち、勝ったんだよ!」


「三人で力を合わせたおかげだね」


 ハクとフランが、クロに笑顔を向ける。


「そっか。勝てたのか……」


 布団に隠れて見えないが、クロは両手を強く握りしめた。


「証は既に譲渡してある。怪我が治るまでは、ここでゆっくりしていろよ!」


「テッロさん。何から何まで、ありがとうございました」


 ハクが深く頭を下げる。続いて、他の二人も。それらを見て、テッロは豪快に笑った。


「気にする必要はない。番人の責務を果たしたまでだからな。そうだ、どうせまだ出発はできないんだ。近々行われる、花火大会でも見ていくといい。たまには羽目を外すのも悪くないだろう」


 ではな、と手を上げて、テッロが部屋を去る。その後ろ姿を見送ってから、クロは自身の手元あたりへと視線を落とした。


「……本当に、勝ったんだな」


 嬉しさこそあるものの、決着時に気絶していたためか、未だに実感が湧いてこない。


「全員が、自分のできることや、やるべきことをしっかりと果たしたからこそ、得られた勝利だよ。力を合わせれば、不可能なんてないという証明ができた気がするかな」


「でも、あの無茶は良くないよ!」


 フランが、しかめっ面でクロの方を見た。

 あの無茶、とは言わずもがな、捨て身で放った斬撃のことだろう。


「悪い悪い。もし命が懸かってたら、また別の方法を考えたって。今回は、大丈夫って確信があったから動いたんだよ」


「全身骨折で、大丈夫、ねえ」


 フランから、物言いたげな視線が送られた。

 大丈夫で済まされる範囲を大幅に逸脱していることは、クロとてわかっている。苦し紛れの答弁だった。


「まあ、クロが頑張ってくれたおかげで、その後僕たちが勝利を手繰り寄せられたのも事実だから、今回は大目に見るけど」


「え、そうなのか?」


 瞬間、ハクがクロを睨む。大目に見ると言っていたため、許してもらえたのかと思ったが、そうではなかったらしい。


「……クロがテッロさんに負担をかけておいてくれたおかげで、反撃する猶予が生まれたんだよ。でも、今後は同じような真似はしないでね」


「ほーい」


 一瞬の判断を迫られたときに、この言いつけを思い出せるかどうかはわからないが、それを口に出すとまた話が長くなりそうだったため、クロは大人しく返事をした。


「にしても、二週間絶対安静か。暇だなあ」


 先を急ぐ旅だが、現状、立ち上がることすらままならないため、言われたとおりにするしかない。出てくる言葉とは裏腹に、クロは二人に申し訳なく思っていた。


「二人は花火大会見に行くのか?」


「うーん、どうする?」


 フランが困ったようにハクの顔を見る。


「僕は行こうと思ってるよ。少し、気になることがあるからね」


「じゃあ私も!」


「フランはクロを見ていてほしい」


「えー!」


 行きたい気持ちが強かったのか、フランは目に見えて肩を落とした。

 それなら最初から言えばいいだろうと思いつつ、クロはハクに視線を向ける。


「気になることって、ルカさんのことか?」


「……うん」


 ルカ。風邪に効く薬を譲ってもらうために訪ねた、研究者のような男。

 彼からか、はたまた彼の部屋からかは判断できなかったが、クロとハクが二人して不穏な雰囲気を察知したのだ。明らかにおかしい。


「ルカさんって?」


「フランの薬を作ってくれた人だよ。花火大会に参加するための花火も作ったらしいんだけど……どうも怪しくてね」


 フィーマとのやり取りからして、悪人とは思えないが、疑念は晴れない。


「ええ……私そんな人の薬飲んだの?」


「俺が毒味しておいたから大丈夫だよ。多分」


「く、口つけたの!?」


「つけるわけねえだろ馬鹿」


「ば、馬鹿とは何さ!」


 ハクが咳払いをすると、二人は即座に口を閉じた。

 普段温厚だからこそ、彼を怒らせてはならない。二人の間の共通認識だ。


「とにかく、僕は調査するために潜伏してくるから、フランはクロを見ていて」


「……うん」


「逆じゃ駄目なのか? なんか企んでたとして、フランなら顔割れてないから警戒されないだろ」


「夜道を女の子一人で歩かせる趣味は持ち合わせてないよ。たとえどれ程強くてもね」


「じゃあ、二人で行ってこいよ。少しの間なら一人になっても問題ないと思うし」


「いや、それも厳しいよ。もし何かあったとき、その怪我では動けないはずだ。花火大会までに全快はしないだろうし」


「……悪いな、フラン」


 粘ったが、説得することはできなかった。前者の案は自分で言っていて気が引け、後者の案は自分の体だからこそ、難しいと判断したのだ。


「いや、気にしないで! 私、ちゃんとクロの護衛するから!」


 どうやら、気持ちを切り替えてくれたらしい。フランは見るからにやる気に満ちていた。役目があることで、自らのやる気を引き出せたのだろうか。少なくとも、彼女の癖である空元気の類ではなさそうだった。


「ありがとう。助かるよ」


「ハクも、無理するなよ。危険だと思ったらすぐ戻ってこい」


 自分より、ハクは数段上の強さを持っているとクロは思っている。ただ、やはり心配せずにはいられない。それだけ、あの胸騒ぎが心に引っかかっているのだ。


「うん。わかってる。無理はしない。約束するよ」


 もし逆の立場だったら、きっと自分は深く考えずに同じ答えを返すだろう。そう思えていたからこそ、クロの、ハクを心配する気持ちが弱まることはない。

 だが、あまりしつこく言うのも、相手を信用していないことの表れのような気がしたため、同じやり取りは繰り返さなかった。


「じゃ、私そろそろ部屋戻るね」


「ああ。色々悪かったな」


「平気平気。ハク、クロのことちゃんと見ておいてね!」


「うん。また後で」


 フランが去り、部屋には男子二人が残される。


「全く。小さな子供じゃあるまいし、これ以上無茶なんてしないっての」


「フランなりに、クロを気遣ってるつもりなんだよ」


「ほんとかねえ……そういえば、試練。ハクの決定打とやらで倒したのか?」


 その後の詳細をまだ聞けていなかったと思い出し、クロは暇潰しがてら尋ねることにした。


「うん。まあ、結構ぎりぎりだったけどね。杖に溜めておいた魔力も、空になっちゃったし」


「ああ、そういえばそんな機能もあったっけ」


「クロの斬撃と、最後の一撃がなかったら負けてたよ」


「最後……あれ、ちゃんと撃ててたのか。良かった」


 クロが土壇場で編み出した新技『クロキホウゲキ』は、しっかりと役立ったようだ。欲を言えば、その威力を実際に確認したいところだったが、彼にはより心残りなことがあった。


「あーあ、俺もハクのとっておき見たかったなあ」


 クロは大袈裟にそう言ったが、決して嘘ではない。番人を打ち負かす程の魔法を見逃したことが、かなり悔やまれる。


「まあ、旅をしていれば、そのうち見れるさ」


「それもそうだな」


 いつまで続くかわからない旅だが、そうすぐに終えられるものでもない。気長にそのときを待つことにした、クロなのであった。

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