表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロと黒歴史  作者: ムツナツキ
第十二章『神の名を冠するもの』
146/187

第146話「潜入」

「まさか、あんたが来るとはな」


 闇夜をひた走る、一台の軽自動車。

 クロはその助手席に座り、ドアの方に肘をついてもたれかかりながら、横目でちらりと運転手の顔を見た。


「俺もびっくりだよ。また会うことになるとは思わなかった」


 缶バッジのついた帽子。腰からぶら下がった、装飾品の鎖。遊び人のようにも見受けられる格好をした彼は、通り魔事件の調査時にクロと()(とせ)が相対したあの青年だった。

 名を、『(いわ)()(けん)()』というらしい。先日、千歳から受け取ったのは、彼の連絡先だ。

 二人は現在、セレスの潜伏予想区域をぐるぐると回っていた。広く浅く捜索を行いつつ、発見の報告が上がればすぐにそちらへ向かう、という方針のようだ。


「警察に捕まったんじゃなかったのか?」


「条件つきで釈放されたんだよ」


「条件?」


「今まで率いていた不良の連中を使って、治安維持活動に協力すること、だってさ。隠密行動を命じられてるから、基本的には情報収集とその伝達だけだけどね。どうやら、犯罪者の手も借りたい程、この国の人員不足は深刻な状態にあるらしい」


 (にせ)(がみ)が死んでも尚、この国の治安は改善の兆しを見せてはいないようだ。

 いや、死んだからこそ、かもしれない。得体の知れない超常的な存在が消滅したのだ。その真偽がどうであれ、抑圧から解放されたと感じる人々は少なくないのだろう。


「まあ、そこまではわかんなくもないけど……でも、七五三(しめ)と繋がってるのは意外だったな。あいつ、規則とか法律に厳しいタイプの人間だろ?」


「そうなのかい? 俺はそこまで付き合いが長くないからわからないけど……でも、釈放の提案をしたのは彼女だよ」


「七五三が?」


「ああ。だから、こうして彼女の下で動いてるわけだしね」


 初対面のときの発言からは、考えられない行動だ。千歳の心境の変化がクロには不思議に感じられたが、深く考えないことに決めた。

 柔軟に対応できるようになったのは、決して悪いことではないはずだ。恐らくは、(らい)()と接していくうちに絆されていったのだろうと、そう判断した。


「っていうか君、自分の持ち場は大丈夫なのかい? 最近は魔導具の発生と、それらの違法使用が増えてるみたいだけど」


「魔導具?」


「……まさか、知らないのかい?」


「あー……今は別件に集中しててな。ニュースも見てないから、情報が更新されてないんだよ」


「ふーん? まあ、俺も詳しいわけじゃないけどね。神が死んだとされるあの日以来、どうにもその手の事件事故の割合が増加してるみたいだよ」


 僅かな沈黙が生まれたその時、空気を読んだかのように着信音が響く。

 クロはポケットからスマホを取り出して確認するが、画面にそれらしき表示はない。どうやら、健吾のものが鳴っていたようだ。


「おっと、すまない……仲間からだ」


 取り出したスマホを耳に当て、運転を続ける健吾。器用なものだと感心しながらも、クロは彼の会話に意識を向けた。


「俺だ。何かわかったか?」


 だが、電話相手の声が聞こえるはずもない。クロはすぐに視線を車窓に向け、景色が右から左へ流れていくのを眺め始めた。


「……そうか、了解した。今からそっちに向かわせる。近辺で活動している仲間全員に、さりげなく撤退するよう伝えてくれ。あとはこっちでなんとかする……ああ、またな」


 通話の終了に気づいたことで、クロは再び視線を戻す。それにより、景色の流れが逆転した。

 なんの用件だったのか。そう尋ねるよりも早く、健吾がその口を開いた。


(みどり)()少年を発見したみたいだ」


「本当か!」


 雷貴もまた、独自にセレスを探している。何かしらの確信があって動いているのかどうかはわからないが、彼を追えば彼女のことも見つけられるかもしれない。


「場所は廃工場だ。ここからだと……車で急いで五分ってところかな」


「……車に、急ぐとかあるか?」


「わかってないな」


 健吾が、不敵に笑う。


「法定速度ってのは、超えるためにあるんだよ」


 直後、エンジンの音が大きくなった。

 アクセルペダルがべた踏みにされたのだ。当然、車はそれに従って加速を始める。

 明確な速度違反だ。速度計を見ずともわかる。夜間で車通りが少ないからこそできた芸当か────そこまで考えて、クロはかぶりを振った。

 時間帯に関係なく、してはならないことだ。

 それでも、止めることはできなかった。下手に干渉すれば、車の制御が利かなくなる恐れがあったからだ。

 事故を起こさないように。警察に見つからないように。そう祈ることしか、彼にはできなかった。


「────はい、到着」


 停車した直後にエンジンが切られ、たちまち夜の静寂が訪れる。幸い、と言うべきかはわからないが、五分も経たずに目的の場所へ到着できたようだ。

 もっとも、正面に見えるのは件の廃工場ではなく、なんの変哲もないコンビニだったが。


「トイレでも行くのか?」


「いや、車で送れるのがここまでなんだ。目の前で降ろしてあげたいのは山々だけど……誰の目につくかわからないからね」


 十を超える死亡者の情報を握り潰せる程の組織。その一員がどこに潜んでいるかわからないと、健吾は暗に告げているのだろう。


「工場自体はここからでも見えるはずだから、あとは一人で頑張って」


「あんたは……来ないよな」


「悪いね。連絡してくれればまた迎えに来るから。それまでは、この辺りをテキトーに走っておくよ」


「ああ、ありがとう」


 クロはドアを開き、道路へと降り立つ。それからすぐに車が再発進し、進行方向を照らしながら去っていった。


「さてと」


 反対車線の、更に向こう。そこに、目的地である廃工場らしき建造物の輪郭が見える。


「行くか」


 屈伸、伸脚など、軽い準備体操を行ってから走り出した。誰にも姿を見られないことが理想ではあるが、慎重になりすぎても逆に怪しまれてしまうと考えたのだ。

 さもジョギング中の一般人であるかのように振る舞いながら、クロは廃工場に近づいていく。幸い、これといった妨害を受けることもなく、即座に侵入できる距離へと達した。


(……結構でけえな)


 人目につかない位置まで移動してから忍び込もうと考えていたが、予想していた以上に廃工場の敷地面積が広い。このまま走り続けても、曲がり角へ辿り着くまで五分はかかりそうだ。

 逃げ足の速い相手を捕まえなければならない今、一分一秒も時間を無駄にするわけにはいかない。

 クロは一旦立ち止まり、近くに人の姿がないことを確認すると、疑似強化を使うことで軽々と柵を跳び越えて内部へと侵入した。


「あ、そうだ」


 着地してすぐ、何かを思い出したかのような声を上げる。それから、闇で全身を包み込み、自らの身体的特徴を捕捉されないようにした。


「これでよし、と」


 久しぶりの、鎧の出番。防護性能が皆無に等しいのは、ご愛嬌だ。


「んじゃ、探すとするかね」


 当てもなく、再び駆け出した。

 明かりがほとんどないこの場所でも、クロならば目が利く。闇属性の魔力を有する者の特権だ。疑似強化と違い、体に異変を生じることなく使用できるのも、魅力の一つ。込める魔力量を間違えた瞬間、瞳が破裂しそうになる程の痛みに襲われるが。


「……くっせ」


 油の匂いだろうか。兜越しでも伝わる程の不快な匂いが、クロの鼻孔をくすぐっていた。


(ってか、どこにいるんだ……?)


 セレスの魔力はクロのそれに類似しているため、他者のものよりも感知しやすいはずだが、進めども進めども魔力反応が一切感じられない。

 もしや、この場所にはいないのだろうか。そんなことを考えながら建造物の角を曲がった直後、彼はその足を止めた。

 視線の先に、一人の男がいたからだ。


「あの」


 男の方も、クロの姿を捉えたらしい。見るからに怪しい風貌のはずだが、意にも介さぬ様子で近づいてきた。


「ワタシ、迷子。駅、探してマス」


 片言の日本語に、いかにもというような風貌。その男もまた、セレスによって葬られた者たちとの共通点を有していた。それだけで充分警戒に値するが、他にも怪しい点がある。

 鼻と口元を覆った、ガスマスクのようなもの。およそ、日常生活を送るうえで必要なものとは思い難い。百歩譲って、この工場の関係者と言うのであれば話は別だが、先程の言葉からしてそういうわけでもないらしい。


「俺も知らないです」


「そう、デスか」


 では、と続けながら、男が自身の懐に手を入れる。


「死ね」


 そこから引き抜かれたのは、一丁の拳銃。容赦なく発砲されるが、その時には既にクロは駆け出していた。

 相手の背後へと回り込み、首に手刀を浴びせて気絶させる。それから男の背中を蹴り、自身が元いた方向へと押し出した。

 そこにはもう一人、別の男が立っていたのだ。同様に拳銃を所持していたが、両者の間にできた遮蔽物によって発砲は阻まれた。

 その隙に、クロは気絶した男を三角跳びの要領で跳び越える。


(『ヤリ』)


 向けられた銃口に闇の槍を放ち、器用にそれだけを破壊した。着地した直後、相手に肉弾戦を仕掛けられたが、クロは難なくそれを制して相手の体を地面へと押さえつける。


「お前ら、何者だ?」


 その問いに、男が答える素ぶりはない。増援を呼ばれても厄介だと思い、クロは仕方なく相手を気絶させた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ