暗殺一家の落ちこぼれ
2作目の作品になります。前作、[異世界の事情]に比べて、シリアスな内容となっております。
拙い作品ですが、楽しんで頂けたら、幸いです。
是非、前作[異世界の事情]共々、宜しくお願い致します。
少年は、真夜中の森を、駆けていた。
「はぁはぁ、はぁはぁ・・・。」
いや、正確には、逃げていた。
彼の名は、ユーリ・ザシード。
トランザ帝国の侯爵家の次男坊で、年齢は10歳だった。
ザシード家は、表向きは侯爵家でありながら、裏の顔を持っていた。
それは、国家の存亡・秘密を守るの為の裏仕事、〈暗殺〉だ。
暗殺一家の息子として、生まれたユーリは、幼少の頃から、暗殺術を、叩き込まれていた。
そして、今日が、初の〈暗殺〉の任務だった。
しかし、ユーリは、〈暗殺〉に失敗した。
暗殺対象が、ユーリと同じ歳ぐらいの、少女だったから、〈暗殺〉を躊躇したのだ。
〈暗殺〉に失敗は、許されない。
その為、ユーリは、ザシード家の暗殺部隊に、追われていた。ようは、粛清だ。
ユーリは、もう、ザシード家の人間として扱われなくなっていた。
〈暗殺〉の英才教育を、受けていたのにも関わらず、〈暗殺〉が出来なかった理由は、ユーリの前世にある。
ユーリは、此処とは異なる世界。地球と言う星の、日本の高校生だった。
それが、交通事故に遭い、命を失ない、生まれ変わったら、暗殺一家の子供だった。
ユーリには、前世の記憶があった。
だから、どんなに〈暗殺〉の英才教育を受けても、人を殺す事に、戸惑いを持ってしまったのだ。
傷が痛む。
暗殺部隊に追い込まれたユーリは、斬られた脇腹を、抑えながら、逃亡を続けていた。
暗殺部隊は、プロだ。ユーリのように、躊躇はない。
追いつかれたら、間違いなく、ユーリの命は尽きる。
だから、どんなに傷ついても、逃げる事を諦める訳にはいかなかった。
しかし、どんなに鍛えていようとも、所詮は子供。
遂に、暗殺部隊に追いつかれてしまった。
暗殺部隊の一人の男が、ユーリに向かって、ナイフを振りざした。
ユーリは、そのナイフをかわしたが、足場を踏み外して、崖から転落した。
相当な高さの崖だ。
暗殺部隊は、ユーリの生存は不可能だろうと、その場を去っていった。
崖から転落したユーリは、かろうじて、息をしていた。
だが、それもここまでのようだ。
身体中のあちこちの骨が折れ、今にも、息を引き取りそうな状態だった。
ユーリは、思った。
何故、あんな家庭に、生まれてしまったのかと。
貧乏でも、普通の家庭に生まれていれば、こんな事にはならなかったと。
ユーリは、薄れゆく意識の中で、今度、生まれ変わる機会があれば、普通の家庭でありますようにと、その意識を失った。
鳥の鳴き声が聞こえる。
意識を取り戻したユーリが、初めて感じた感覚は、それだった。
ユーリは、知らない部屋で、ベットにふせていた。
身体の痛みはない。ああ、また、生まれ変わったのかと、ユーリは思ったが、手を見ると、違うことに気がついた。
見慣れた手だったからだ。
ユーリは、ベットから起きると、部屋に置かれた姿見で、自分を見た。
蒼みがかった肩まで伸びた銀髪に、蒼い瞳。
穢れをしらない白い肌と、整った容姿。
年相応の身長をした、ユーリ自身の姿だった。
ユーリは、何故、自分は生きているかと、疑問に思った。
すると、部屋のドアが開き、見慣れない老人が、スープの入った容器を持って、こちらを見ていた。
「良かった。どうやら、元気なようじゃな。」
と、白髪に、長い髭を生やした老人が、語りかけた。
ユーリは、
「あ、あの・・・。」
と、話かけようとしたが、老人が、それを遮り、
「とりあえず、飯にしよう。腹が空いてるじゃろう。」
と、言って、ベットの脇に、スープの容器を置いた。
すると、
「ぐぅ〜〜〜。」
と、ユーリの腹が鳴った。
老人は、
「遠慮などせず、食べなさい。」
と、言って、ユーリに食事をすすめる。
ユーリは、黙って、ベットに着くと、
「・・・いただきます。」
と、言って、スープに手をつけた。
暖かい、優しい塩味のスープだった。
ユーリは、泣いていた。
スープの塩味か、涙の味か、分からないが、今までに食べた、どの料理よりも、美味しく感じた。
スープを食べ終わると、老人は、
「まだ、落ち着かんじゃろう。しばらく、休んでいなさい。」
と、言って、スープの容器を持って、部屋を出て行った。
ユーリは、再び、ベットに横になり、此処は、一体、何処なんだろうと思いながら、今まで、感じた事もない、安心感を
待ちながら、深い眠りにつくのだった。
誤字等あると思いますが、楽しんで頂けたけたら幸いです。なるべく間隔を開けずに投稿しますので、続編も宜しくお願いします。
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