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最終話 追放勇者、女神をぶん殴る【その7】

「ボッサは異常に勘が良かったわね。だから私、教会でのクーデターに侵入したの。でも説得の甲斐なく。仕方ないから彼に『制限(ロック)』を掛けたわ。人を殺せず、私のことを話せないように、ね」


 クリエにとっては、この世界の人間は全て、大切な魔王の食事(データ)なのだ。特に、常に死と隣り合わせだった勇者の情報量は他に抜きんでていた。だからこそ、人類を無下に減らされることも、勇者が死ぬことも、クリエにとっては痛手だった。

 ボッサは、それが判っていた。


「ボッサも、制限の穴を探してかなり四苦八苦してたみたい」

 クスクス、と、彼女は笑った。何がおかしいのか、サックには理解できなかった。


「でも、それ以上に想定外を起こしたのは……あんたよ、アイサック=ベルキッド」

 急にクリエの眼光が急に鋭くなった。それは目下のサックに向けられた。


「勇者を追放された、ってのも驚きだけど……それより! なんで折角準備した『隠しシナリオ』壊すかなぁっ!」

 アッハッハ! とクリエは笑った。しかしそれは表面上だけであった。内心は腸が煮え繰り返るほど怒っていた。


 いまのサックなら、彼女の内心を鑑定できる。いや、女神はあえて、鑑定させているのかもしれない。


「隠しシナリオって……どういう意味だよ……」

「文字通りに受け取ってもらって結構よ」


 するとクリエは、指を鳴らした。パチンと乾いた音に合わせて、クリエとサック、魔王を囲むように無数のパネルが現れた。一枚一枚は冊子ほどの大きさで、それ自体が明るく光り、暗闇を照らしていた。


 いきなり現れたそれに、サックは一瞬身構えるも、目を凝らすとそこには、見慣れた文字と、簡単なイラスト付きのプロット図が示されてあった。


「魔王城突入後に解放される、隠しシナリオ『ミクドラムの悲劇』は、えーと──、あ、これこれ」

 クリエが光るパネルの一枚を指差すと、それは滑るようにサックの目の前に移動した。


 そこにも他と同じように、文字と図が並んでいた。『シナリオ』から始まるそれに目をやると、よく知った人物の名前が記されていた。


 クリエがサックに、そのパネルの説明を始めた。

「野盗に娘を殺された母が、娘を蘇らせんと暴走し、ミクドラム全体を巻き込む悲劇! それ用に、イチホ=イーガスに死せる大魔術師(エルダーリッチ)の素質埋め込んでたのに……あなたが(ニオーレ)を野党から助けちゃったから、もうメチャクチャ」


 すると、サックに示されていたプロット図に新たに線が引かれ、別に表示された図面に繋がった。

 新しい(みち)が、示されたのだ。


「これが、女神の『仕込み方』か」

「ええ……そうよ。あ、そうそう!!」

 クリエは、なにかを思いついたらしい。するとサックに示されていたパネルの絵が変わった。

 それには『モンスター図鑑』と記され、あのエルダーリッチと化したイチホ=イーガスの姿が写し出された。


「ち・な・み・に!」

 クリエの意思によるものか、写し出された画像がスライドし、別の絵が表示された。そこには、彼女たちの変わり果てた姿が映し出されていた。


「……くノ一姉妹は、そのミクドラムボス戦で、アンデッド忍者として登場予定だったのよ」


 その言葉を聞く前に、サックは動いていた。『韋駄天足』は効果を失い、単なる派手な靴に成り下がっていたが、そんな事は関係ない。元勇者の身体能力だけを頼りに、彼は高く飛んだ。

 鬼気迫る顔。彼は怒りに任せて、クリエに殴りかかっていた。


 しかし、彼の拳はクリエに全く届かなかった。魔王が彼と彼女の間に割って入ってきていた。

「邪魔だあああっ!!」

 構わず、サックはパンチを繰り出すも、魔王の目は衝撃を吸収し、そして、再度衝撃波に巻き込まれた。


「無理よー、道具が使えない環境で、魔王に挑むなんて無謀すぎ。あと、絶対勝てないようにステータス弄ってるからね^^」

 先ほど以上に遠くに飛ばされたサックに、クリエが大きな声で呼びかけた。

 ボロ雑巾よろしく吹き飛ばされたサックは、しかし、まだ立ち上がろうと体を動かし、そして、クリエを睨みつけてきた。


「勝機が皆無なのに、希望を捨てず立ち向かう、か。もっと絶望持ってほしかったのだけど……あんたの性格上、難しそうね」


 すると、彼女は目の前に、パネルを呼び出した。シナリオを示していたそれと違いはなく、しかし、殆どが文字で構成されていた。

「そろそろ飽きたわ。せっかくの貴重な勇者(データ)が壊れちゃう」


 小気味よく彼女はパネルをタップしだした。文字を叩くとさらに異なるページへ飛び、そこには名簿のように、数多くの人物の名前が列挙されていた。


「とんとん、っと、」

 その中から、彼女は彼の名前──『アイサック=ベルキッド』を見つけ出した。


「自由度が高すぎたわね、次回からは、もっと抑えましょ」

 名簿に記されている名前の先頭には、全て四角いマークがついていた。彼女はそれ──チェックボックスを押し、チェックマークを付けた。


「クリエ……いや、クソ女神!!」

 いつの間にか立ち上がっていたサックが、遠くからクリエに叫ぶ。

 しかしクリエは、その言葉に耳を傾けることなく、目下の作業をつづけた。


「まあ、でもあれね……」

 クリエは独り言をつぶやきながら、パネルの右上に表示されている『機能停止』ボタンに触れた。


 ──────────

【CAUTION】

 指定されたキャラの機能を停止しますか?

『Y/N』

 ──────────


「AI相手だったけど、あんたとの漫談は、結構楽しかったわよ」

 にこり。と、クリエは笑った。あの悪戯が成功したときに見せる、無邪気で残酷なスマイルだ。


 そして女神は、「Y」のボタンをタップした。


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