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最終話 追放勇者、女神をぶん殴る【その6】

「いつ頃から、気付いていたの?」

「確証は今の今まで無かった……けど、最初に違和感を覚えたのは、ブロクダートの公園だ。アイスキャンディー食いながら、昔話をしてた時だよ」

 ええ! と、クリエは大げさに驚いた。


「早っ! さすがにそこでは『ボロ』は出していないと思ったんだけどなぁ?」

「『既にシナリオを書いていた』って言って、俺の偽自伝書を見せたろ。その言いぐさが、ずっと気になっていた」

「ウッソ! これのこと!?」


 するとクリエは、何もない空間から一冊の本を呼び出した。

 この空間では、道具師の武器庫(ストレージ)能力すら使用不可のはずなのに、彼女は易々とそのルールを破った。彼女が本物の女神(クリエイター)である証左とも言える。


『勇者で道化師、役立たずで大した力もなく追放させられたけど名声だけ利用して田舎で薬屋経営したらBクラスの冒険者にも認められず詐欺がバレて破産しました!』

 ~~道化師アイサック=ベルキッド 認定自伝~~


「今回用意した(シナリオ)の中でも、自信作なのよ、これ。コメディタッチで描かれるアイサックの珍道中!」

 ぺらぺらと、綴じられた本をめくるクリエ。だが、すぐにその本を手品のように消した。


「……大人しく引退してれば、こんなゆるふわ余生(スローライフ)も用意できたのにね」


 ふわり。と、クリエが空に舞った。まるで重力を感じさせない飛び方だった。光る翼等はもう必要ないのだろう。彼女はゆっくりと移動し、そして、魔王の横に付いた。


「今回は試験的に、NPCのAI自由度を最大にしてみたの」

 彼女は優しく、魔王に手を触れた。表面は魔瘴気で覆われているのだが、彼女は全く意に介しなかった。


「そしたら皆で、まあ好き勝手動いてくれちゃって。用意した道筋(シナリオ)修正、大変だったわ……けど、おかげで想定以上のデータを造れた」

「データ……だと?」

 魔瘴気に体を預け無事な人間を目の当たりにするも、サックはそれにたじろぐことなく彼女の言葉に耳を傾けていた。


「いい質問ね」

 サックの問いに、クリエはさも嬉しそうに答えた。


「Machine-learned

 Artificial intelligence for

 the Operation of

 Urgency system。

 頭文字をとって、MAOU……魔王システム。私の最高傑作よ」

 彼女は『魔王システム』と呼ばれたそれを撫で、そして顔を近づけ、頬ずりを始めた。その顔は法悦としていた。


「これを完成させるのに、負の感情……特に人間の、死中求活(しちゅうきゅうかつ)の感情が足らなかったの。リアル(こっち)での検体が少なすぎたのよ」

 死中求活。『死中に活を求める』。つまり、死の間際に迫られながらも『生きたい』と望む思いのことである。


「その中でも、いうなれば『火事場の馬鹿力』の発現。その条件を魔王に学習させたかったの……だから『擬似的に』世界構築して、追い込まれた人類の力を……」

「……疑似的って、どういう意味だよ」

 するとサックが口を開き、彼女の言葉を遮った。彼女の言葉の半分は理解できていなかったが、聞き捨てならない言葉に、彼は口を開いたのだった。


「そのままの意味よ。疑似的。そうね、分かりやすく言えば……『(まが)い物』」

 クリエは懇切丁寧に、分かりやすい言葉に言い換えた。しかしそれは、彼の神経を逆撫でするのに十分だった。


「ざけんじゃねぇっ!!!」

「あら、ふざけてないわ。大真面目よ、私」

 鬼気迫るサックとは裏腹に、さも当たり前のように、クリエはキョトンとした。


「あなたが勇者として旅立ったのも、その後の追放生活も全部、うそ、偽り、捏造、虚言、仮初(かりそ)め」

「全て、嘘な訳ないだろ!」

「思うのはご自由に。でも、これが真実よ」

 だんだんと熱くなるサックに反して、クリエの顔は冷徹なものになっていった。まるで、壊れたゼンマイおもちゃを見つめるような顔だった。


「この世界(シナリオ)は、(クリエイター)が作ったんだもの」

「例え、作られた命であったとしても……女神の創作物であったとしてもっ!」


 サックは『ムーンエクリプス』を両手で携え、クリエに飛び掛かった。


「勇者としての旅立ち、その後の追放生活も! サザンカと出会ったことも! 彼女との約束も! 別れも! あの時の額の冷たさも! 抱いた時の温もりも! 一緒に食ったパンケーキの味も! ヒマワリの未来も!!」


 斧を握る手に力を込め、振り上げ、斧に全力で力を注いだ。球体の魔王ごと真っ二つせんとするほどの勢いだった。


「全部が全部、てめえの『紛い物』だなんて、言わせねぇ!!」

「はい、ざんねーん」


 サックの振り下ろした斧は、魔王に触れることすら叶わなかった。

 サックは能力の解放を試みるも、斧に全く力が行きわたらなかった。

 結果、魔王の目玉から発せられた衝撃波がサックを飲み込み、遥か彼方まで吹き飛ばされたのだった。


「わー、飛んだわねぇ。おーい、生きてる?」

「……がはっ! ごほっ!」

「おお、流石勇者。丈夫ね。でも……回復できないでしょ? ごめんなさいね、あたり一面を『アイテム禁止』ルールに変更したわ」


 魔王の衝撃波は、サックを易々と地面にたたきつけた。

 サックの反撃スキル(オートポーション)は発動したのだが、いくらポーションを浴びても、サックの傷は癒えなかった。


(回復しない……チート能力ってレベルじゃねぇな、クソ女神)

 負った怪我は治らなかったが、サックは何とかゆっくり立ち上がった。そして自らの足で、クリエたちに近づいていった。足をくじいたためか、歩くたびに激痛が襲う。


 それを見たクリエは、感心した表情とともに、サックに拍手を送った。

「すばらしい! その力が欲しいの! 死中求活の馬鹿力!」


 クリエは、魔王を連れてサックに近づいた。空中移動という速さを越えた、座標軸を転換させ移動する、瞬間移動の類だった。


「いろいろ、ズルいな、クソ女神」

女神(クリエイター)ですもの……でもね、いまは貴方の(データ)が欲しいわ」


 クリエが再度、瞬時に移動した。

 サックが気がついたときには、魔王の球体の上にちょこんと陣取り、足を組んで座っていた。


「しかし今回は……手を焼かせてくれたわね、特に……」

 魔王に腰かけ、女神が微笑む。この世界を構築したという女神(クリエイター)は、この世界で発生した『イレギュラー』について語りだした。


「ボッサとアイサック(あんた)。よくもまあ、面倒なことをしてくれて……けど、貴重なデータも収集できたわ、ありがとう」


 女神は笑顔でサックを見やった。しかしその笑顔は、クリエが冗談を口にしたときに見せる、あの笑顔だった。


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