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第9話 追放勇者、ケジメを付ける【その9】

熟達の武装戯(ウェポンマスタリー)


 契約した武器庫(ストレージ)から、思い描く場所に武器を一度に『召喚』する、サックの『奥の手』だ。

 武器庫の中身を全て正確に知り、置き場所を覚えている必要がある。そのためサックはボッサに会いに行くに際し、事前にわざわざ詰所に戻り武器を整理整頓していた。


 無数に展開された魔法陣一つ一つから、別々の武器や防具、道具の一部が頭角を表した。と同時に、ボッサの上空に召喚された武器が、頭上に降り注いだ。


「そういうことですか小癪な! ただの安物の……店売り武器を落とすだけ!」

 向かってくる武器は、いずれも、街の武器防具店でも見かける、一般的な装備ばかりだった。鉄のオノや、鋼の剣、銀製のナイフに、銀の盾……。

 ボッサはそれらを、勇者武器『嵐を運ぶもの(ストームシーカー)』で薙ぎ払おうとした。

「唸れ、ストームシーカー! 巻き起これ嵐よ!」

 槍の切先から、暴風雨と雷光が走り、落ちてくる武器を吹き飛ばす……はずだった。


 ただただ、自由落下をしている、シンプルな武器防具だったのだが、それらはいずれも、サックによって事前に『解放』されていた。


 表面を磨かれた『銀の盾』は【属性攻撃反射】が付与され、『鋼鉄の槍』は雷を集める【避雷針】スキルが付与されていた。


「なにっ!!」

 槍から放たれた雷が、ボッサのところに丸々反射してきた。同じく、激しい暴風もボッサを中心に巻き起こり、風の刃で傷を負った。

 落ちてきた鋼鉄の槍は雷を招き、それはボッサに電撃を浴びせた。しかし、彼も槍を構え、雷を相殺させた。


「サック、貴方という人は……っ!」

 ボッサが、今度はサック本体に向かって武器を掲げた。|耐性薬【風、雷】《レジストウィンド、サンダー》が付与されていても、少なからずダメージは受けていたし、荒れ狂う風は足止めにもなる。効果が無いわけではない。


 だが、それを先読みしたサックは、バラまかれた武器を拾い、装備しながらボッサに突っ込んでいった。


 拾った瞬間に装備される武器防具。戦闘中で装備変更な【早着替え】スキルである。

 目の前に巻き起こる嵐は、

『オオカミの毛皮のマント』【付与;風完全防御】

『ルーンメイス』【付与;属性攻撃吸収】

 そして、

『疾風のブーツ』【付与;倍速移動】

 を使った高速移動で、瞬時に切りぬけた。


「ぬおおおっ!!」

 嵐の壁を貫き、突然サックがボッサの目の前に現れた。想定よりはるかに早かったサックの動きに、ボッサの攻め手が止まった。

 その隙を逃さんと、サックは『スレッジハンマー』に持ち換えて、殴りかかった。


「……いけません!」

 しかしすかさず、ボッサが左手の掌を翳した。すると、分厚い光の壁が何重にも目の前に現れた。福音奏者(エバンジェリスト)が使える『絶対障壁』。攻撃をシャットダウンする防御スキルだ。


 だが、それはサックは織り込み済みだった。

 まるで手品の如く、サックはハンマーから『クロスボウ』に持ち換えた。左手一本しか使えないはずだが、まるで手が何本もあるかのような早業だ。


「貫けぇぇぇぇっ!!」

 サックの一声とともに、『クロスボウ』から一本の矢が発射された。武器自体は店で販売されている、量産型の自動弓矢である。しかし、サックによって能力が付与された弓矢は、通常の威力を易々凌駕する。


『クロスボウ』に付与された力は、【バリア貫通】だ。

 対バリア用に能力を付与された武器は、例外なく、バリアを貫く。それは、如何なる強力な力で生成されたものであっても。


 突き抜けた矢は、ボッサの右足を抉った。予想だにしていなかった攻撃に対応できず、また、自分が傷を負うことを想定していなかったこともあり、彼は右足に意識が向いてしまった。


「ボッサぁっ!!」

 サックの、渾身の一撃。左手に持つ武器は、巨大な槌に変わっていた。

「くっ!!」

 ボッサは咄嗟に、持つ槍でガード体制をとった。しかしそれこそ、サックの狙いだった。


 ハンマーの一撃を受けた槍が、大きく(ひしゃ)げた。ボッサは、この槍がここまで曲がったことを見たことがなかった。

 勇者武器がひとつ、『嵐を運ぶもの(ストームシーカー)』は、この時役目を終えた。

 サックの持つ『スレッジハンマー』には【付与;武器破壊】がされていた。

 激しい音を発し、勇者専用武具は、店売りのハンマーによって真っ二つに折れた。


 そして、そのハンマーによる叩きつけの勢いは、槍を越え、ボッサの体を簡単に吹き飛ばした。武器でガードし、それが壊れたことで、だいぶ威力は抑えられているようだが、しかし、彼の体は軽々と吹っ飛び、中央広場の女神像の足元まで転がる羽目になった。


「そんな、店売りのアイテムで……」

 ボッサは倒れ込んだまま、折れた槍をまじまじと見ていた。伝説の武器が軽々とへし折られたことが、未だ信じられないといったボッサに対して、サックは言い放った。


道具師(アイテムマスター)に、道具に頼った戦いを挑んだ時点で、お前の負けだよ」


 サックの武器はまた変わっていた。魔法攻撃を防ぐ効果を追加で付与された『ルーンメイス』だ。

 サックが、警戒しながらもボッサに近づいた。ボッサは、吹き飛ばされたときのダメージが意外に残っているのか、立ち上がることすらままならない。


「諦めな、ボッサ。槍以外の『攻め手』は無いんだろ」


「……貴方、『視えて』いたのですね」

 じりじりと、サックはボッサとの距離を詰めていった。ボッサは両手両膝を付いたまま、サックを睨みつけていた。


「まあな、これが俺の力だからな」

 サックは特に表情を見せることは無かったが、額にはびっしょりと汗を掻き、呼吸が乱れていた。先ほど能力を使った反動だろうか。彼は肩で息をしていた。しかし、ゆっくりとボッサとの距離を縮めていった。


「貴方の負けです、サック」

「負け惜しみを」

「いえ……貴方が、私を女神像まで吹き飛ばした時点で、貴方の負けです」


 すると、ボッサは右手で何かの印を結んだ。同時に、呪文の詠唱を始めた。彼の持つ【早口】スキルは、瞬時に詠唱を終えさせた。


「私を『鑑定』するのに必死で、本来の目的を忘れていませんかね」

 ボッサが結び終えた印を展開させた。すると、中央広場の女神像を中心に、それの左右から巨大な光の柱が走った。まるで、街全て……いや、もっと広域を囲うような勢いだ。


「私の術式は、今しがた完成した! 私の心願成就の賜物!」


大浄化術式(イア=ナティカ)っ!!!』


 もろ手を挙げ、光の壁にさらに力を注いだ。彼の願いは高速で広がる光に乗り、世界を包み込もうとした。それは、彼なりの女神への復讐だった。



 そして光は、大陸全土を覆う……はずだった。




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