氷の女王と呼ばれる姉は、実は肉食獣でした
長くなりそうだったんで、短めです
「いやー、凄い見られてたね~。これは明日またニュースになるかも」
「……そうだな。スマホで撮ってる人もいたし、ネットにアップされてスキャンダルにされる可能性はあるな」
「あはは…。でも大丈夫だよ!ほら、私ってば恋愛オッケーアイドル認定されてるから」
「恋愛オッケーアイドルて…。マジで前代未聞だな」
鹿野さんの手を引いてしばらくして、そんな会話をする。
正確には『好きな人が出来たら引退』ってことみたいだから、アイドルの内に恋愛するのはマズいだろう。
俺が鹿野さんにアタックを仕掛けてる最中程度に映れば、問題は無いのかもしれないけど、さっきのことを考えるとそんな風に思われる可能性は低いな…。
彼女の服装を褒めただけだが、鹿野さんが満更でもない反応したからな。後で事務所から怒られないことを祈る。
そして俺は夜道に気を付ける…。オリオンファンに刺されないように。
「と、ところで桐ヶ谷君…」
「ん?」
「その……手なんだけど…」
「手?あ。ごめん…」
鹿野さんが視線を下に向けながら言うので、その視線を追うと、俺と鹿野さんの手が繋がった状態だったことに気付く。
しまった。さっきの場所からはだいぶ離れたし、もう鹿野さんの手を引く必要はない。ていうか手を取る必要すらなかったのでは?
とりあえず鹿野さんが気にしているみたいなので、彼女の手を離そうとする。
しかし彼女は、離れようとする俺の手を、逆にガッチリと掴んできた。
……えっ?なんで?離してほしそうだったじゃん。
「鹿野さん?」
「えっと……その、出来ればいいんだけど、お願いがあって…」
「お願い?俺の出来ることだったら、いいけど」
俺がそう言うと、鹿野さんは目を右往左往させる。やがて何かを決心したように、繋いでいる方の手をうごうごと動かし始める。
彼女が何をしようとしてるのかわからず、黙ってなされるがままだったのだが、少しずつ俺の指と彼女の指が交差していくのを見て、何がしたいのかわかってしまった。
……なるほど。それがしたかったのね…。
「……………で、出来た…」
「あー……うん。そういうこと…」
「えっと……ダメ、かな?今はもうそこまで人いないし、こうやって桐ヶ谷君と一緒に歩きたいの」
恥ずかしそうに顔を赤らめて、上目遣いで繋がれた手を見せる鹿野さん。
俺と鹿野さんの指が交差した状態で繋がれたそれは、俗に言う恋人繋ぎと呼ばれるものだった。
「あ、ああ…。別にいいけど…」
「~~~っ!やったー!一度桐ヶ谷君とやってみたかったんだ、これ!」
鹿野さんは声にならない歓喜を上げて、無邪気に喜んだ。
……薄々気付いていたけど、どうやらアタックを仕掛けに来てるのは俺だけじゃなかったらしい。恐らく鹿野さんは、俺を落とす為に『好きな人が出来たら引退する』ってことを言ったんだ。
ぶっちゃけもう落ちてるし、なんならここで告白したい衝動に駆られている。
でもダメだ。まだそれは出来ない。
いや本当はすぐにでも告白するつもりだったんだぞ?だけどうちのお姉様が……
『いい?誠。女の子はロマンチックな告白が好きなの。いきなり家に呼んで告白だけはよしなさいね?たぶんお互いが一生に一度の初恋なんだから。思い出に深く残るような告白をするのよ。私?総ちゃんが落ちたのを確認したら、即襲うけど?これも十分思い出深く残るでしょ』
肉食系なお姉は嫌いじゃない。でも聞きたくなかったな…。お姉と総司が付き合ったら、それは二人がそういうことをしたってことになるんだから。
俺はなんてやべぇ姉を持ったんだ…。『氷の女王と呼ばれる姉は、実は肉食獣でした』とか……ラノベかよ。
まぁそれはどうでもいいとして……お姉の言うことは一理ある。いや即襲うとかじゃねぇよ?記憶に残るような、ロマンチックな告白の方だよ。
今日はそんなロマンチックな雰囲気になるような場所にはいかないけど、いつか良い雰囲気になるような場所にデートしに行きたいと思っている。
別に日和ってる訳じゃないぞ?今日は本当に、鹿野さんに俺の好きなのことを知ってもらいたいから、デートに誘ったんだ。
……本人にデートって名言してない辺り、やっぱ若干日和ってんのかな…。
「ふんふんふ~ん♪桐ヶ谷君と手繋ぎデート~♪」
「……………」
「あれ?否定しないの?」
「……うるせぇ。事実を否定してなんになる?」
「はぅ~…。やっぱり桐ヶ谷君、今日はなんかおかしいよ~…」
少女漫画のヒロインみたいに鈍い鹿野さんは、カウンターを貰ったせいで、せっかく引いたのにまた顔を真っ赤に染めた。
……どっかでスポドリ買うか。このままだと鹿野さんが熱中症と脱水症状になってしまいそうだ。
皆さんは肉食系と草食系、どちらが好みですか?
作者は肉食系です。
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