告白はしない。今はまだ―――
お待たせしました。
家の中に通されて、理乃先輩がいるリビングか桐ヶ谷君の部屋で話をするか、どちらか選べと言われた。
あんな目が笑っていない笑顔は初めて見た。最近は桐ヶ谷君の考えていることがわかるようになってきたけど、今の桐ヶ谷君は何を考えているのか全然わかんない!
怒ってるのは確実だろうけど…。
正直、理乃先輩がいる前なら桐ヶ谷君もそんなに怒らないと思う。でもこの件は、私と桐ヶ谷君の問題。
だから私は、桐ヶ谷君の部屋を選択した……んだけど…。
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
気まずいっ!
かれこれ五分くらい、私は正座、桐ヶ谷君が胡坐のまま沈黙が続いてるよ!
さっきの桐ヶ谷君の笑顔が怖くて、今は俯いた状態でずっっっと桐ヶ谷君の前で縮こまってる状態。
本当にどうしたらいいの?怒られるより沈黙の方が怖いよ…。
私から何か話すべき?いやでも昨日の件を優先した方がいいだろうし、下手に私から話題を振ったら「あ゛ぁ?」って言われそう!結局どっちに転んでも怖いじゃん!
お願い桐ヶ谷君……叱るなら早く叱ってぇ…。私の心がもたないよ~…。
「……はぁ~…」
桐ヶ谷君のため息に思わずびくりと身が跳ねる。
これは来るか?来るのかっ?いよいよお叱りの言葉が飛んで来るんだね!?
そう思って目を瞑って桐ヶ谷君の叱責に身構える。
だけど……桐ヶ谷君が取った行動は、全然違った。
「そんなに怯えられると、怒るに怒れねぇよ…」
そう言って彼は、優しく自分の胸に私を抱き寄せた。
そしてそのまま、頭を撫でてくる。
「よしよし、怖くない怖くない。別に昨日の番組のことを本気で怒るつもりで呼んだ訳じゃねぇよ。それは建前だ。怖がらせてごめんな」
怯えた私をあやすみたいに言う桐ヶ谷君。
最初は理解が追い付かず、頭の中が真っ白になってしまった。
だけど桐ヶ谷君にされていることがわかると、一気に自分の顔が熱くなるの感じた。
「ひゃーっ!き、ききき、桐ヶ谷君!?何してるの!?」
ようやく出た言葉がこれだった。
思わず桐ヶ谷君から離れようとするけど、彼はその分力を入れて離してくれなかった。
なになに!?本当にどうしたの桐ヶ谷君!?なんか今までの桐ヶ谷君と違くない!?
今まではこう……スマートっていうか、女の子に対してこんな力強く接する(物理)ことなんて無かったじゃんっ!
それにこんな、こんな~……胸に抱いてなでなでとか、ドキドキし過ぎて心臓がぶっ壊れちゃいそう…。
「よーしよしよし。怖くないぞー(棒)」
「私は動物か!?」
「動物だろ?人間っていう名の」
「違う!そうじゃない!」
なんかいつもと立場が逆転してない?
いつもは桐ヶ谷君が離れようとして、私が無理矢理くっつくみたいな感じだったのに。
今は私が離れようとすると、桐ヶ谷君がそれを許してくれない。なぜ?
「さて、おふざけはこれぐらいでいいか」
桐ヶ谷君はそう言って、撫でるのをやめて私から離れた。
「あ…」
だけど私は、それが凄く寂しく感じてしまい、情けない声が漏れた。
「どうした?やっぱり抱かれたまま話したかったか?」
「そ、そうじゃないよ…。ただ、なんていうか……撫でられると、気持ちいい、から…」
……私、何言ってるんだろう…。
これじゃ完全に変な子だよ。さっきは嫌がってる感じを出してたのに、なんだかんだ撫でられたいとか…。
「そうか。じゃあ失礼して…」
「えっ?」
だけど桐ヶ谷君は、特に何の抵抗や疑問も抱くことなく、また私の頭を撫でてくれる。
優しく、丁寧に……私の気持ちいいところを的確に撫でてくれる。
「えっと……桐ヶ谷君…」
「なんだ?」
「その……今日はなんか、おかしくない?」
「いつもおかしい君に言われたくないな」
彼の言葉にむってなるけど、それだと話を逸らされそう。
だから努めて気にしないようにして、問い詰めることにする。
「そもそも、今日はなんで私を呼んだの?」
「昨日のこともそうだけど、さっきも言ったようにそれは建前だ。本音は鹿野さんと遊びたかったからだ」
「っ!……じゃ、じゃあ、急に私のことを抱いたり、こうやって撫でているのは?」
「言い方よ。……別に、君を撫でるのはいつものことじゃねぇか」
「だって、いつもだったらかなり渋るじゃん?どうしてそんな嬉々としてやってくれてるの?」
私が桐ヶ谷君の言葉が嬉しくて、いちいち身悶えする心を必死に抑えながら聞く。たぶん顔真っ赤っか…。
だけど桐ヶ谷君の次の言葉に、私は完全にやられてしまった。
「俺はずっと、鹿野さんにこうして触れたいって思ってたけど?」
ドクンっ!と心臓が跳ねた。
私の顔を覗き込むように言う彼の言葉に、思わず顔を両手で覆ってしまった。
「ふしゅ~…」
「なに悶えてんだよ?」
「そりゃ悶えるよっ!だって、だってぇ……うぅ~…」
言葉が出て来ず、桐ヶ谷君を睨む。
あんなセリフずるい…。今まで仕方なくやっていたのかと思ったら、実は全然そんなことはなくて、むしろ好きでやってたとか…。
「本当にどうしたの…?凄く変だよ~…」
「……君がアタックして来ていいみたいなこと言ったんじゃねぇかよ…」
「え?ごめん、なんて?」
「なんでもねぇ」
その後も桐ヶ谷君は、私がいいって言うまで頭を撫でたまま、昨日のバラエティ番組の件で一応と小言を言ってきた。
でも全然怒ってなかったし、むしろ怒ってないって安心させる為なのか、凄く優しい目で話してくれた。
その目が凄く魅力的で、私は彼の顔をまともに見ることが出来なかった。
(う~っ!桐ヶ谷君の、天然たらしーーーッ!)
鈍感難聴系ヒロインも良いと思う。
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明日もこちらの作品を投稿します。




