自爆する鹿野さん
日をまたいでスミマセンでした…。
終業式が終わって放課後。普通の学生であれば、午前中に帰れていい気分になれる訳だが、こうして鹿野さんと街中を歩いているとそんな気分は味わえない。
だってこの人、全く変装してないんだもん…。
おかげでキャップを被ってる俺も、今話題の桐ヶ谷誠だとバレてしまう。
だから周りの人たちの視線が無遠慮に飛んでくるし、すれ違う人たちは必ずと言っていいほど振り返って来やがる。
「ん~?なんか凄い見られてるね?」
「そりゃ変装のへの字もしてない君がいれば、注目を浴びるって」
「えー。でも私だって変装くらいするよ。完全プライベートの時とか」
この間のデートではちゃんと変装してたしな。そのくらいの心得はあるか。
「いやだったら今もしろよ…」
「なんで?私と桐ヶ谷君は友達だし、変装なんかしたらたぶん逆に怪しまれちゃうよ?」
「……じゃあこの間一緒に遊びに行った時は、なんで変装してたんだ?」
「~♪」
鼻歌で誤魔化しやがった。
この人、実は変装が面倒くさかっただけだろ。そうなんだろ。
思えばこの人が変装してるところを見たのは、あのデートの時の一回だった気がするな。
……いや、アレはただのオシャレだった可能性もあるな。どっちにしろ目立ってたし。
「それより桐ヶ谷君!早くカラオケ行こうよー!次のライブの為に、一杯練習しなきゃだしね」
「? ……ああ。そういうことね……はいはい、でも三時間だけだぞ?」
鹿野さんから急に次のライブの為とか、聞かされてない話題を振られたが、変に角が立たないようにする演技だと気付いて乗ってあげた。
流石は女優としても名高い鹿野さん。誰も彼女の本音に気付いてない。
「延長お願いしますっ!」
「帰ってゲームしたい」
「えー!?私とゲーム、どっちが大事なの!」
「ゲーム以外にあると思うかい?」
「ぶーぶー!それじゃ女の子にモテないよ」
別にモテなくていいよ。イケメンはよく羨ましがられるが、その人たちだってその分苦労してる。
女の子関連のトラブルによく巻き込まれたりな(偏見)
俺はそんな人たちのようにはなりたくない。面倒くさい…。
「モテても良いことないって言うぞ」
「ん~……確かにそうかも…」
鹿野さんは俺の顔をまじまじと見ながらそう言う。
彼女が今思ってることはある程度理解出来るが、それは気付いてないフリでもしておこう。
「何考えてんのか知らないけど、もうすぐカラオケに着くよ」
「お。本当だーっ!よーし、いっぱい歌うぞー!」
「……………よくよく考えたら、俺ってばこの後鹿野さんの生歌聞き放題なのか…」
ダッシュでカラオケ店に向かっていった鹿野さんを見ながら、自分はこの後トップアイドルの生歌を特等席で聞けるという贅沢が味わえることに気が付いた。
やっぱり普段の鹿野さんと一緒にいると、そのことを忘れてしまうな。まぁ、ありのままの自分を受け入れて欲しいと願う彼女からしたら、その方が嬉しいのかもしれないけど。
――――――――――――――――――――――――
「お願い筋肉!めっちゃチヤホヤ~♪」
「カラオケで歌ったらめっちゃ盛り上がる奴」
鹿野さんが先陣を切り、一発目。何を歌うのかと思ったら、カラオケで歌ったら盛り上がること間違いなしのアニソンを歌い出した。
アイドルがマッスルポーズを取りながら歌うというギャップが凄いな。というかシュール!
「仕上げて行くよー!仕上げて行くよー!はい!はい!はい!はい!うーんッ!ナイス、バルク!」
「仕上がってるよーッ!」
「ふーんッ!」
そんな鹿野さんに対して、俺も盛り上げていく。
この曲は魔性だ。この曲を聴いた者は否が応でもテンションが爆上がりする中毒性がある。
というかあのポーズはリズム○国っていうリズムゲームでよく見る奴。思わず笑っちまった。
「ふ~。スッキリした♪」
「楽しそうに歌うなぁ」
「うん!だってやっと桐ヶ谷君と一緒にカラオケに来れたんだもん。だからいつもより歌に力が入っちゃった」
「……そうかい…」
鹿野さんは全力で歌ったことにより、少しだけ汗ばんでいた。
そんな彼女の笑顔からいつもより色気を感じてしまい、思わず目を逸らした。夏服だから余計にそう感じる。
目を逸らした先がモニターだった為、鹿野さんの歌の点数が視界に入った。
九十五点ってマジか…。
「はい!次は桐ヶ谷君の番だよ!」
「ああ。わかったよ。でもあんまり上手くないから、期待しないでくれよ」
「わかった!期待する!」
「鬼畜」
俺が選んだ曲は、これもまた万人受けして盛り上がること間違いなしのアニソンだ。
いつ聞いても懐かしいと感じ、当時の感動も蘇る。
歌ってる最中、鹿野さんがタイミング良くタンバリンで合の手を入れてくれるので、こっちの気分も上がるというものだ。
「とま~りがぁちな脚だ~けどぉ♪それでも~諦めれなぁい♪」
結果は八十七点と、割と普通だった。
でも前に歌った時よりも五点くらい高いな。もう少し頑張れば九十行けそう。
「凄いよ桐ヶ谷君!レッスンを積めば歌手としてもやっていけるよ!」
「それは大袈裟だろう。俺は良くも悪くも平凡だよ」
「でもそんな平凡が、今じゃ一躍有名の俳優なんだよ?それに演技を通して声の出し方が上手くなったり、バレーのおかげで肺活量とかも増えてるだろうし、基礎を習ったら絶対に光るよ!プロの私が保証する!」
「お、おう……わかった。わかったから、離れてくれ。近い近い」
あと少しで唇が触れそうなくらいまで近付いて来た鹿野さんを優しく押し離す。
……凄く良い匂いがしたな…。なるほど。これが女の子の匂いという奴か。
彼女はそのことを理解すると、顔を赤く染めながら次の曲を選び始めた。
「ごごご、ごめんね!さぁて、次は何を歌おうかなーっ!」
「ふぅ……焦った…」
一瞬自分は変態かと思ったが、それはたぶん男として正常な反応なんだろう。
……俺が匂いフェチじゃなければだが。
「あ。桐ヶ谷君!これデュエット出来るんだって。一緒に歌おうよ!」
「ん?ああ。『頭部爆裂少女』か……え?」
それって結構際どい歌詞があった気がするんだが……それを女の子と一緒に歌うの?
ほぼほぼ公開処刑じゃんか。
「よーし!思いっ切り歌っていこう!」
「あ、ちょ……それは男の俺と一緒に歌って良いものなのか?」
「ん?なにが?」
「……………いや、鹿野さんが気にしないなら、いいんだけど…」
「?」
その後、彼女はとある歌詞を歌い、それに気付いた時に顔を真っ赤にさせながら『頭部爆裂少女』を歌い切った。完全に自爆だ。
しかし流石プロ。羞恥心に呑まれながらも、しっかりした音程で九十点を叩き出した。俺の音程もなんとか鹿野さんと噛み合ったな。
……まぁ。その後はソファに横たわって、顔を両手で覆ってぷるぷると震えていたが…。俺が三曲歌うまで。
なんかこの反応もまた新鮮で可愛かったので、俺的には少し役得感があったな。……性格悪いって思われるかな…?
明日、というか今日の午後はこちらの銀髪美少女の方を投稿する予定です。
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