不意に膨れ上がる気持ち、想い
ドラマが終わった後、いきなりお姉にシャツを捲られて腹筋を見られた、翌日。
ドラマで見た筋肉が本物か確かめる為に弟を辱めるお姉は嫌いだよ…。確かめるなら腕だけでもいいじゃない!
そんなお姉の朝ご飯を美味しく頂き、忘れ物がないかチェックしてから登校しようとすると、お姉から声がかかった。
「誠。これを付けて行きなさい」
「ん?」
お姉が渡して来たのは白いキャップだった。これはお姉が上はパーカー、下はジーンズの時によく被ってる帽子だ。
なんでこんな物を?
「それ。誠にあげるから、変装用に使いなさい。昨日の今日だと、たぶん相当声をかけられると思うから」
「あぁ……確かにそうか…。ごめん、失念してたわ」
「仕方ないわよ。ついこの間まで一般人だったんだから」
「でもそれだったら、マスクも付けといた方がいいか?」
「それだと怪しい人に映っちゃうから、帽子だけにしておきなさい。あとは堂々としていれば、そうそうバレないわよ」
ほう。妙に詳しいな、お姉。
一体どこ情報なのか知らんが、お姉の言うことは大抵当たっている。
今回もお姉の言うことを信じて帽子だけ被って行くか。ダメなら他の方法を考えればいい。
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「などと楽観視していた俺がバカだった」
現在登校中の俺。変装で帽子を被っている訳だが、これが全然意味を成さない。なぜなら……
「桐ヶ谷君!いよいよ来週は期末テストだね!その後は夏休み!」
「そうだな」
「見ててね桐ヶ谷君。私は今度こそ、全科目を高得点にしてみせるよ!」
「そうかい。頑張れ~」
トップアイドルなのにも関わらず、一切変装しないで登校している人が一緒だからな!
誰かなんて言わずともわかるだろう?そう。鹿野さんだよクソったれ…。
この人が一緒に歩いている人なんて凄い限られている。同じシリウスの二条院さんと藤堂さん。ごく稀に隆二と総司が一緒に歩いてるくらいだ。
隆二は最近早めに登校してるし、総司もお姉に独占されてるから、この二人と一緒に歩くことはもう無さそうけど。
そんで最近シリウスメンバーの二人を差し置いて、鹿野さんと最も一緒に登校している人物がいる。
……そうだよ、俺だよ…。だってこの人もう毎日のように家の前で待ってるんだもん。
さっきだって、実は玄関で座って待ってたし。もう夏らしい気温になってるから、外で待たすのも可哀想だしさ。
鹿野さんが原因で住所特定されるのはそう遠くないかもしれない。それで本人を責めるつもりは少しだけある。少しだけ。
とにかくそんな鹿野さんと一緒に登校してるもんだから、帽子程度の変装ではすぐにバレる。
「ねぇねぇ。あれ桐ヶ谷先輩だよね?」
「うん。オリオンちゃんと一緒にいるし、間違いないよ」
「どうする。声かけてみる?」
「え~。同じ学校の生徒だけど、知らない人が声をかけたら迷惑じゃない?」
「おい。お前サイン貰って来いよ。一生自慢できるぞ」
「そんなこと言うならお前が行って来いよ…。それにオリオンも一緒なんだぞ?緊張してまともに喋れる気しねぇよ」
「ど、どどどどどどどうする!?サイン貰う?貰っちゃう!?」
「落ち着けって。とりま水飲みな。あと限界ヲタクみたいだからマジで一回深呼吸しろ。ちょっと引く」
とまぁ、かなりザワついている。
声をかけられることは今のところ皆無だが、大いに注目を集めているのは間違いない。
はぁ……もう変装の意味ないし、帽子はずそ。
しかしそうしたのが間違いだった。俺は本当のヲタクというのを知らな過ぎた。
「キャー!桐ヶ谷さんのお顔が、くっきりとこの目に……尊ッ!」
「ちょっ、マジでキモいからやめてくんね?友達やめたくなるんだけど…」
「我が生涯に、一片の悔いなし…」
「よぉしそのまま死んどけ。頼むからもう死んでくれ。お前みたいなのが友達とか一生の恥だから」
……………これが有名人になるってことか…。辛っ。
鹿野さんたちは日頃からこの視線と騒ぎに耐えて来てるのか。……耐え切れなくなったら来年には引退しようかな。
彼女たちの仕事の大変さがよくわかった俺は、実はさっきからずっと喋り続けている鹿野さんの頭にキャップを被せて「いつも仕事と勉強、お疲れ様」と言った。
その時の鹿野さんの表情はキャップで見えなかったが、耳が少しだけ赤くなっていた。
……………ナルシストのように思われるかもしれないが、この反応を見るとやはり思ってしまう。
この人、本当に俺のことが好きなんだなって。
鹿野さんの頭を撫でたい衝動に駆られるが、俺はその気持ちを一生懸命抑えた。
不意に膨れ上がって来る、熱情を。鹿野さんにだけ感じる、特別な想いも含めて。
……………それを人は、恋と言うのだろう。
でも俺はまだそれに向き合えない。どうしても、中学のトラウマが蘇ってしまうから…。
鹿野さんとの仲良し度80%→90%
なかなか想いを伝えられない、もどかしい二人。しかし大きなきっかけがあれば、二人の間にはもう……
ここから誠の想いが加速します。
抑えたくても抑えられない感情に、彼がどう向き合うのか。その様子をお楽しみ頂ければと思います。
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