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陰キャ男子高校生と天真爛漫なアイドル  作者: 結城ナツメ
恋に落ちる瞬間は不整脈
86/112

桐ヶ谷誠復帰回 後編

長い……四話、五話分くらいあります…。あと読みづらいかもしれません。予めご了承ください。


このデータが一回飛んだショックにより投稿遅くなりました(泣)

下手くそながらも一生懸命ドラマの内容を考えました。矛盾点などありましたら、ご報告ください。

直します。


あと新作投稿してます。

『俺が銀髪美少女に幸せにされるまで』

というタイトルです。後書きのURLから行ってみてください!

 ドラマがCMに入ったので、俺はスマホを手に取り、リアルタイムでドラマを見ている人たちの反応をツブヤキで確認する。

 ここまでの怒涛とも言える展開に困惑する者、俺の復帰回なのにまさかの悪役というのに驚く者、桐ヶ谷誠の裏切りに考察する者など様々なツブヤキがあった。


 中でも不評そうな声で結構あったのが……


『ドラマとはいえ、アイドルにここまで過激な演技をさせるか?今までも結構アレだったけど、今回はちょっと……度が過ぎない?』

『アイドルに怪我を負わせる話は、流石にまずいんじゃないか?テレビとわかっていても、ファンがどう思うか…』

『イシスちゃん撃たれたけど、アイドル活動大丈夫なのかな?警察っていう設定だけど、表舞台の活動に支障が出る展開はやばそう』


 などなどあるが、それはドラマをドラマと捉え切れていない、そして今のシリウスを女優として認識出来ていない一部の人たちだけだ。

 実際はただのドラマなので、結構評判は良さそうだ。


『いきなりの展開でビックリしたけど、明らかに桐ヶ谷誠の様子がおかしかったし、何かあるのは間違いないだろうな。ゆかりっていうのも気になる』

『第一話であんな素敵だった桐ヶ谷様が、いきなり悪役にシフトチェンジするなんてありえない!これは絶対何か裏がある!』

『否定的な声があるけど、今のシリウスはアイドルじゃなくて女優。だからこういう展開があって当然だと思う。それに江月監督のアクションドラマなんだから、洋画さながらの危険な描写があって然るべき』

『相変わらずアクションシーンが爆発の無い特撮みたいでやべぇなw下手したらそれ以上。そこが面白いんだけどさ』

『女相手に桐ヶ谷誠は容赦ないなw。訳ありな男女平等パンチ(?)好こ。最後にオリオンに渡したと思われる物が気になる。何かのメッセージかな?』


 とまぁ、肯定的な声が多い。

 江月監督の作品は、洋画さながらのアクションと急展開が売りらしく、その迫力が好きなファンが多い。

 ただその分、あの人からの要求もクッソ無茶な物が多いので、演者とスタッフは本当に苦労させられる。


 ……でもドラマとはいえ、男女平等パンチ好こ発言は異常だと思う…。それが許されてるのは特別な右手を持つ、とあるアニメの主人公と最強さんくらいだろう。あとは消防官?あっちは殴った女性に惚れられてたけど。

 ……………ごめん。他にも許されてるアニメありそうだわ。


「いやー。誠の演技は前より迫力があったなぁ…。実は密かに練習していたのか?」


 そう聞いて来たのは筋肉モリモリマッチョマンの父さんだ。

 家族四人の中で(と言っても女性陣は基本無表情)最も興奮してドラマに見入っていた。


「いや?特に何の練習もしてないけど」

「じゃあ誠の天性の才能、ということか。俺が人より筋肉が付き易いように」


「あなたは元々筋トレ大好きの筋肉ダルマなだけでしょ?誠の才能と一緒にしないでちょうだい」

「母さん辛辣…」


 今日も母さんは父さんに冷たい。今でもこの二人がなぜ結婚したのかが理解出来ないな…。


「……あ。CM終わったわよ」


 お姉の言葉に、皆テレビに見入り始める。

 俺もスマホをテーブルに置いて、見始めた。


―――――――――――――――――――――――――――


 CMが終わった後、鹿野さんと二条院さんは警視庁にて上司に状況を説明しているシーンだった。

 当たり前だが、それを聞いた上司は二人に桐ヶ谷誠の逮捕を命じる。


 警視庁から出た後、二人は病院に向かった。肩を撃たれた藤堂さんが入院しているから、そのお見舞いと今後の相談をする為だ。と言っても、まずは情報が無いと何も出来ない為、各々が情報収集することにした。

 なぜ桐ヶ谷誠がこのような愚行を犯したのか話し合いながら、ネットや情報屋に電話をして情報収集するシリウス。二条院さんもどうでもいいと言いながら、結構気になっていたらしい。

 藤堂さんは肩を撃たれたが、幸いアイドル警察七つ道具というまた意味のわからない物のおかげで、傷跡は残らないらしい。ちょいちょいSF入るのは何なんだ?


 しかし話しているのは二条院さんと藤堂さんだけで、鹿野さんはノートパソコンを使って情報収集しながら一人考え事をしていた。


『……結衣。ずっと黙っているけど、大丈夫?もしかしてどこか痛むの?』

『あ。ううん、大丈夫だよ。私は二人と違って軽い打撲で済んだし、痛みももう無いしね』


『結衣さんは本当に凄いですね…。凛華さんはまだ背中が痛いそうなのに』

『ただ痛いだけならいいわ。ずっと急所を強く殴られ続ける感じで、痣も酷いんだから。本当、七つ道具を作っといてよかったわ…』


『……………ねぇ、二人とも。ちょっといいかな?二人にお願いがあるの』


 しばらく間を置いて、鹿野さんはそう言いながら一枚の写真を二人に見せる。

 何の写真かは、XとYそれぞれの横に数字が書かれた裏面しかテレビに映ってない為、どんな写真かは視聴者にはわからない。


 その写真を見た二人は、驚きで顔を染めた。


『結衣……これって…』

『あまり大袈裟に捜査を進めるとその人(・・・)の身が危ないと思って、敢えて上には報告してなかったんだけど……凛華ちゃんは今すぐ信頼出来る人を連れて、このポイントに向かって欲しいの』

『えぇ、何よ急に……って、ここ明らかに外国じゃない!?どこよここ!』



 鹿野さんのノートパソコンの画面を見た二条院がそう言うと、うちの家族が皆して驚いた顔をした。まさかただのドラマで、海外まで出て来るなんて思わないもんな。こんな展開、洋画の映画並みだしな。

 ちなみに二条院さんは土曜から月曜にかけて、鹿野さんが示したポイントの外国まで撮影しに行きました。江月監督マジでエグいって…。


『純ちゃんは、凛華ちゃんが現地に着いたらサポートをお願い。あと、この隙に純ちゃんを狙ってくる人がいるかもしれないから、護衛の手配をしておくね』

『ま、待ってください!一体どういうことですか?』

『……あまり時間は無いと思うから、簡潔に言うね。たぶん桐ヶ谷君は―――脅されている』


 鹿野さんはその後、ネットや情報屋から得た情報を元にタイムリミットを設定。

 タイムリミットは短く見積って、三日と設定した。二人にやってほしいことを宣言通り簡潔に説明していく。


 鹿野さんが言うには、敵は桐ヶ谷誠ではなく巨大な組織。それも今まで相手にしてきたどの組織よりも大きいとのこと。この情報は外国にまで手を伸ばして情報収集した鹿野さんだから知り得た物だった。

 日本だけに縛っていたら、この情報を掴む事はほぼ不可能だっただろう。


 その後は鹿野さんの説明する声が流れながら、二条院さんが目的地へと向かう為に、例の信頼出来る人と二人で飛行機に乗っている映像が映し出される。

 そして二条院さんが持つ写真が写されながら、鹿野さんの声でこれから行く国の名前が言われた。


『情報通りなら、その人はロシアで捕まっているはず……お願いね、凛華ちゃん』


 写真は、一人の女性が縄で縛られて捕まっているものだった。


『全く、こっちだって背中に爆弾背負ってるのに、無茶な要求してくれるわね…。特に現地調査しなきゃいけないのが面倒なのだけれど―――そこは任せてもいいのよね?アンリ』

『任せてアルファ。ロシアは私の故郷、庭のような物……半日もあればすぐに場所は掴めるわ』


 二条院さんとアンリと呼ばれたロシア人女性がそんな会話をして、場面は鹿野さんがホームセンターで買い物をしているシーンに移った。

 それも一つのホームセンターだけではなく、色々なホームセンターで買い物をしていた。しかも買った物は同じだ。


『バレたら私捕まっちゃうな~。でも、桐ヶ谷君の為にも多少の無茶は必要。例えそれが―――爆弾を使うことになっても』


 そう言って、鹿野さんは買った物を使って、調合していった。が―――


『あ!長いロープ買うの忘れてた!』


 そんな彼女の抜けてるシーンが流れて、二回目のCMが流れた。


――――――――――――――――――――――――――


 CMが終わったあと、とある廃工場が映る。

 その廃工場の中では、桐ヶ谷誠が何故かぴっちりしたタンクトップ姿で、ボロボロのソファに横になっていた。


 この時、俺の隣に座っているお姉が「え?結構良い筋肉…」と呟いたのが聞こえた。


『……くっそ……一日経ったけど、思ったよりも辛いな…。やっぱ二人とも警察の秘密組織に所属してるだけはある。容赦ねぇ…』


 一人ごちりながら、誠はスマホの待ち受けを開く。

 映っているのは、綺麗な女性とのツーショット写真だった。その女性は、先ほど鹿野さんが二条院さんと藤堂さんに見せた、ロシアで捕まっているであろう女性と同一人物だった。


『由香里…』

『ご機嫌いかがかね?桐ヶ谷誠君』


 そう言って誠の前に現れたのは、顔に傷を負っている外国人男性だった。


『良いと思うか?大切な幼馴染を人質に取られて、仲間と戦わされたんだ。しかも女の子に手を挙げるどころか、殺そうとしてしまったんだ……人として最低な行為だよ…』

『ふっふっふ。私はシリウスを再起不能にして、病院送りにさえしてくれれば良いと言ったはずだがね?そうしてくれれば、後はうちの人間が始末するだけなんだから』

『白々しいな…。カメラで見てただろ?あんな化け物みたいな人、病院送りにするのも難しいわ』


 誠がそう言うと同時に、誠とシリウスの体育館での戦いがダイジェストで流れて、そこに仕掛けられていたカメラも映し出された。

 もう視聴者はわかってるだろう。この外国人の男が、桐ヶ谷誠を脅している組織の人間だということに。しかし彼は親玉ではなく、幹部という設定だ。大きい組織の親玉が、そうそう顔を出すはずがないからな。


『おや?気付いていたのかね』

『お前らみたいな臆病者が、そんなことしないはずないからな』

『……臆病者?』

『実際そうだろ?お前らみたいな、人質を取って同士討ちさせる奴なんて、臆病者以外に何が―――ぐっ!?』


 誠が言い切る前に、男は誠の腹を踏み付けた。


『調子に乗るなよ小僧?お前は今、私たちのただの駒でしかない。言うことを聞かなければ、彼女は死より辛い目に遭うことになるんだぞ?』

『くっ…!』

『ふっふっふ。いいぞ?もっとその悔しそうな表情を見せてみろ。何も出来ない自分に腹を立てろ。……なに、心配するな。私は約束は守る男だ。私たちはシリウスを排除出来れば満足だ』


 そう言って、男は誠の腹から足をどかした。

 誠は変わらず男を睨む。絶対に痛い目に遭わせてやるという思いを込めて。


『おお、怖い怖い。今にも殺されそうだよ…』

『……出来るならとっくにそうしてるよ…』

『ふっふっふ。威勢だけでは、相手は殺せんよ』


 そこから場面が切り替わり、ロシア。とある家のリビングで待機している様子の二条院さんが映し出された。

 そこに一人の女性が『ただいまー』と言いながら、リビングに入ってきた。二条院さんがロシアに来る際に連れて来た、アンリさんという人だ。


『予定より早かったわね?』

『うん!思ったよりチョロい連中で助かっちゃったわ。やっぱり日本人が警戒心高過ぎなのね。こっちの奴らはコロッと堕ちちゃうんだから』

『はぁ……そんなことはどうでもいいから、さっさと手に入れた情報を教えてちょうだい。時間が無いのよ』

『む~。アルファから聞いて来た癖にぃ…』


 そして二条院さんはアンリさんと一緒に、手に入れた情報を元にとある高層マンションへと向かった。

 アンリさんの話では、そこに誠の幼馴染―――由香里が捕らわれているとのことだった。

 人を捕らえておくには不適切そうに見えるが、敢えてそれを逆手に取り、ここに監禁しておくことにしたのだろう。木を隠すなら森の中、とはよく言ったものである。


『確かにここなら、誰も人が監禁されてるだなんて思いもしないわよね…』

『しかもこのマンション、例の組織専用の出入り口があるらしいから、余計に打って付けの場所よ』

『はぁ……本当に、こんなのが表ざたになったら国際問題待ったなしね…。ここってロシアのお偉いさんのマンションでしょ?』

『その人と直接的な関与は無いかもだけど、確かに問題になるわね』

『それじゃあ、さっさと終わらせましょう。あと二日の内に、隠蔽工作もしなくちゃいけないし』

『了解~♪』


 そして再度、場面は桐ヶ谷誠がいる廃工場。

 本当に何故タンクトップ姿で撮影したのか俺にもわからないが、とにかく誠はタンクトップ姿のままボロボロのソファに、何かに祈るようにして座っていた。


『由香里……頼むから、無事でいてくれよ…』

『ふっふっふ。神に祈らなくても、ちゃんと無事だよ。闇組織というのは存外、信頼が大切だからね』

『……………』


 誠は男の言葉を無視して、祈り続ける。

 少しの間、沈黙が訪れる。すると―――


 バァーンッ!


『『っ!?』』


 突如爆発音が鳴り響き、最後のCMが流れた。


――――――――――――――――――――――――――


 ドォーンッ!バァーン!チュドーンッ!


 CMが終わった直後、あちこちで爆発する映像が流れる。


『な、なんだ!?何が起きている!?』

『俺に聞くな!ここはお前らのアジトだろ?そっちがわからないのに、俺がわかるかよ!?』

『……………その様子、どうやらお前の仕業ではないようだな…。ということは、敵襲?バカな。ここを特定出来る者など、いるはずが…』


 二人が戸惑っていると、突如廃工場の扉が開かれる。


『出て来ーいッ!桐ヶ谷誠ー!』


 そう言いながら、廃工場にズカズカ入って来る人が一人。

 その人は両手に大の男を一人ずつ引きずりながら歩いて来ていた。そして誠の姿を確認すると、両手の男二人を思い切り誠に向かって投げ飛ばした。


 慌てて避ける誠。しかし後ろにいた組織の幹部に直撃した。ざまぁである。


『……今の爆発……オリオンの仕業?』

『うん!警備が厳重だったから、死なない程度に一気に片付けて来た!』

『君って本当……俺の予想の斜め上を行く行動するよね…』

『あ!ちなみに外の連中はロープで纏めてぎゅうぎゅうに縛っているから、安心して』

『そして捕縛行為も早い』


『あ゛ぁー!?何をしている桐ヶ谷誠!早くその女を殺せ!ソイツ一人なら、お前でもやれるはずだろ!?……おい!お前らも出て来い!』


 誠と鹿野さんの会話に割って入り、男が声を荒げてそう言う。すると、桐ヶ谷誠を監視する為に隠れていた奴らが姿を現した。

 数にしてざっと三十人ほど。これらを捌きながら誠を相手するのは、鹿野さんも厳しいだろう。


 しかし鹿野さんは臆することなく、ポケットからスマホを取り出して、誠に話しかけた。


『ねぇ、桐ヶ谷君……君が北海道に行く時に言ってくれた言葉、覚えてる?』

『……………』

『俺が困った時は、オリオン(・・・・)を呼ぶって……そう言ってくれたよね?』


 鹿野さんがそう言うと、実際のその時のシーンが流れた。


『……それがどうした?』


 鹿野さんはスマホを操作して、その画面を見せた。

 それを見た誠は、目を見開いた。そして―――


『くっくっく……あーはっはっはっはっは!マジかよ……本当に、マジかよ…。あっはっはっは!』


 高らかに笑い始めた誠。そんな誠に対して、幹部の男はさらに声を荒げながら怒鳴り始めた。


『おい!何をしている桐ヶ谷誠!さっさとその女を始末しないか!?』

『はっはっは……ふぅー………無理』

『なにぃ…?貴様!女がどうなってもいいのか!?』

『無理なもんは無理なんだよ。だって―――』


 一頻り笑った誠は、男に振り返って挑発的な笑みを浮かべながら横にずれ、鹿野さんのスマホが見えるようにする。

 そしてスマホに映っている画像を見た男は、驚愕することとなる。


 その画像は、桐ヶ谷誠の幼馴染―――由香里が二条院さんとアンリさんと一緒に撮っている写真だからだ。「任務完了。存分に暴れろ」という文字も添えて。


『もう鹿野さん(・・・・)たちが助けたからなーッ!』


 そう言って誠は、男に向かって全力で駆け出して、その顔面に拳を叩き込んだ。今までの恨みを全部晴らすかのように。


『な、なぜ……ロシアにいる女を救出することが出来た…?』

『おいおい、今ので気絶してねぇのかよ…。無駄に頑丈だな』


『種明かしが知りたいなら、冥土のお土産に教えてあげる。どうせあなた達は牢獄から一生出られないんだし。いいでしょ?』

『……そうだな。コイツらが誰に喧嘩を売ったのか、よーくわかってもらいたいしな…』


 そこからは誠と鹿野さんの二人で、ここまでの流れが説明される。


 まず最初に、誠がシリウスの三人にずっとオリオン、アルファ、イシスと強調して呼んでいた件だが、あれはシリウスに向けたSOSだったのだ。

 実は第一話で誠はシリウスの面々に対し、ほとんど本名で呼んでいた。ドラマ内の誠の設定は、単独で闇組織を潰せる程の腕前を持つ芸能警察。それでもいつか自分がピンチに陥いる時が来るだろうと思っていた彼は「俺が困った時は、オリオン(・・・・)を呼ぶ」という手綱を作っておいたのだ。自分が予想だにしていない事件が起きた時の為にも。

 そしてそれを、鹿野さんが気付いてくれると信じて。


 しかし気付いたところで、ロシアで捕らわれている幼馴染の存在に気付けるかは別である。そこで誠は、鹿野さんに文字通り殴り渡した写真の裏に、ロシアの経緯度を書いた。「そこに俺の幼馴染が捕らわれている」とメッセージを込めて。

 だが誠もロシアのどこに由香里が捕らわれているかまではわからない。だからとりあえずロシアに該当する適当な経緯度を書いた為、鹿野さんも正確な場所までは特定出来なかった。

 そこで鹿野さんは怪我している二条院さんに申し訳なく思いつつも、彼女が信頼出来る人……ロシア人の芸能警察の人と一緒に捜索および救助を頼んだ。その人がアンリさんだ。

 なぜロシア人に限定したかというと、現地でなるべく怪しまれない為である。傍から見れば、『日本の友達を連れて来た同郷の人間』だからな。


 そこから二条院さんはアンリさんの家で待機しつつ、藤堂さんにいつでもサポート出来る様に連絡。

 アンリさんが半日もかけずに、由香里の居場所を突き止める。あとは建物全体を透視出来る例の七つ道具を使い、藤堂さんのナビに従って高層マンションに捕らわれていた由香里を救出したという感じだ。


 ちなみに写真の裏面に『ロシア』と直接的に書かなかった一応の設定としては、組織になるべく誠の狙いを気取られない為というのがある。実際は江月監督の遊び心がほとんどだ…。


『という訳!どう?私たち芸能警察に舐めて掛かった、おぉバァカァさ~ん?』


 全てを説明し終えた鹿野さんは、挑発的で見下すような笑みと視線を幹部の男に向ける。アドリブである。

 そして彼女のアドリブが始まったということは、台本に書かれた内容のいくつかがこれからぶっ壊れる予兆である為、俺はこの時肝を冷やしていた。


 悔しそうに歯嚙みする男に対し、鹿野さんはさらに続ける。


『あ!そうそう。逃げようだなんて思わないでね?もうすぐここに応援が来るから。どっちみちあなた達は捕まるよー』

『っ!?おのれ~!……………貴様ら!さっきから何をボーっと見てやがる!俺が逃げる時間を稼げっ!?』


 男がそう言うと、三十人の組織の人間が一斉に襲い掛かって来る。

 まだ万全ではないとはいえ、単独最強みたいな設定になりつつある桐ヶ谷誠と、同じく芸能警察でもトップクラスの戦闘能力を持つ鹿野さんのコンビだ。

 誰も手出しが出来ず、ただ一方的に倒されていくだけで……ああ、カメラマンが蹴られた…。鹿野さんに。


 幹部の男は隙を見て逃げようとするが、その度に誠と鹿野さんによって人がぶん投げられて、終いにはそれらの下敷きになってしまい、自然(?)と逃げられなくなった。

 ちなみにこの下敷きの絵面も鹿野さんのアドリブである。あのロシア人の俳優さん、顔真っ青だったな…。たぶん物理的に。血管の流れ悪くなってそうだし。


 その後、駆け付けた応援の手によって、廃工場にいた闇組織は全員逮捕された。


――――――――――――――――――――――――――


 クライマックスのアクションシーンが終わり、エンディング。

 桐ヶ谷誠も被害者ということで、特に処罰は下されなかったが、シリウスの三人に怪我を負わせてしまったのは事実。

 その慰謝料として、一日中買い物の荷物持ちとして付き合わされて、さらに全て誠が奢るというシーンが流れている。ちなみに幼馴染の由香里も一緒。


 実はここのシーンで、『もうこれ以上は持てない…』と弱音を吐くセリフを言う予定だったのだが、割と楽だったから俺のアドリブで余裕な表情で荷物持ちしている。


『桐ヶ谷くーん!お寿司食べたい!回転寿司で良いから、ネタが大きいお店で!』

『北海道の実家に招待して連れてってあげるから、その時にしな。あっちの方がデフォルトで大きいし、新鮮で美味いから』

『えー!でも今はお寿司の気分~…』

『……そういえば、回らない寿司ってのが気になってたんだよなぁ…。北海道の回転寿司屋より美味いんだろうか?』


『『『えっ?』』』


『皆さえよければ、回らない寿司屋に行かないか?』

『『『行くー!』』』


 さっそくとスマホで検索する三人を横目に、由香里が誠に話しかけてくる。


『大丈夫なの?お金』

『百万下してきたから、全然大丈夫』

『ひゃくっ…!?おっ金持ち~…』

『……………まぁ、頑張って好きな人との結婚資金を貯めてたからな』

『え…』


 今の発言に、由香里役の人が硬直する。由香里ではなく、女優さん自身が驚いて硬直しているのだ。

 そう。ここもアドリブである。この時点で鹿野さんに毒されてる自覚が出たな。


『また貯め直さないといけないけどな』


 誠は、由香里に向かって苦笑しながらそう言う。

 そしてシリウスに早く来るよう急かされて、誠は歩き出す。だが―――


『誠っ!……その……………待ってるね?』

『……………ああ…。なるべく早く迎えに行く』


 そして二人は、ぎこちなく手を繋ぎながらシリウスの元へと向かうシーンで、ドラマは終わった。


 余談だが、それを見た鹿野さんがぷくーっと頬を膨らませて羨ましそうにしたいた。

 あとこの撮影が終わった後、江月監督の奢りで回らない寿司屋に行った。北海道の回転寿司より美味かったです(丸)

辛かった……十時間の作業が水の泡となった時は絶望しました…。


道外に行った時に回らない寿司屋に一回だけ食べに行ったことがあります。

ネタは北海道の方が断然大きいですが、味は職人の技が光っており、大変美味しかったのを憶えています。

本物の寿司職人って凄い…。


面白いと思ったらブクマ登録と高評価、いいねと感想、そしてもしよろしければレビューもよろしくお願いいたします!

明日はこちらの作品を投稿する予定です!よかったら投稿してる第六話までだけでも読んでください!

『俺が銀髪美少女に幸せにされるまで』

https://ncode.syosetu.com/n5786hn/

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