表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰キャ男子高校生と天真爛漫なアイドル  作者: 結城ナツメ
恋に落ちる瞬間は不整脈
85/112

桐ヶ谷誠復帰回 前編

長くなりそうなので分けます。

 地区大会からしばらく経ち、七月のとある水曜日。

 『アイドル警察♪シリウス』のファン待望らしい、桐ヶ谷誠が出演する回だ。


 正直俺の中ではまだ、江月さんや周りが大袈裟に持ち上げているだけで、自分ではそこまで人気が高いとは思っていない。

 だからという訳ではないが、今目の前で家族全員がテレビに見入っている光景は凄く恥ずかしいですはい…。


 気分は「シテ……コロシテ…」である。でもちゃんとドラマには目を入れておかなければならない。自分の演技に改善点を見出す為に。


―――――――――――――――――――――――――――


 毎度同じみの杉谷智也さんのナレーションから、物語が始まった。

 場面はシリウスの事務所だ。


『おっはよー!凛華ちゃん、純ちゃん』


 三人は本名も公開しているので、芸能活動以外では俺と同じようにそのままの名前で出演している。


『おはようございます!結衣さん』

『おはよう。来て早々悪いんだけど、さっき芸能警察の仕事が入ったわよ。すぐに準備して』


『え?うん。りょうか~い。随分いきなりだね?そんなに緊急なの』


 事務所に着いたばかりの鹿野さんに、二条院さんがさっそくと仕事の話をする。

 いつもならもっと日常会話やアイドル活動の様子が最初に放映されるのだが、今回は最初から不穏なBGMと共に、シリウスに緊張が走る。


 ドラマ内では色々な種類の警察が存在するが、彼女らはその中でも鍛えに鍛え抜かれた精鋭中の精鋭。警察のお偉いさんの所に行って指示に従うのが通例だ。

 急にアレを調べろ、コイツを捕まえろなどと依頼されることは今までなかったらしい。


『はい。なんでも学生警察班の方が、自分一人では手に余るヤクザ組織だと、応援要請があったんです』

『一人?珍しいね。誰とも組んでないなんて』


『その人は他人と慣れ合いたくない武闘派らしくてね。それも超一流の才能と高い戦闘能力があるとか。そんな人と一緒に戦えるのは結衣だけだって、本人から直々のご指名よ』

『ふ~ん。私を指名かぁ…。それって私だけが行くの?』

『私たちにも、二人をサポートするようにって指示が来てる。とりあえず準備が出来次第、指定されたポイントへ向かいましょう』


 それから準備を終えた三人は、上から集合場所として指定された廃校へと向かった。そこは一般の人は全く近付かない曰くつきの廃校らしく、秘密の集合場所には打って付けだそうだ。

 シリウスに応援要請を出した学生警察は体育館で待つと言っており、一応罠の可能性も考えて慎重派な二条院さんが体育館の扉に、建物内の様子が透視出来る不思議な機械を付けた。

 スマホで一人だけ体育館内にいることを確認した二条院さんはオーケーサインをして、三人は体育館の中へと入る。


 すると体育館の中心に、俺が演じる『桐ヶ谷誠』が一枚の写真を片手に立っていた。

 三人の姿を確認した誠は、写真を内ポケットにしまった。そして手を内ポケットに入れたまま、誠は挨拶をする。


『おっす。久しぶり』

『わー!桐ヶ谷君だぁ!?応援要請を出した学生警察の人って、君のことだったんだね』

『ああ。聞いてると思うが、ちょっと手を焼いていてな。再会を喜び合いたいところだが、生憎時間が無いんだ。まずはこの資料(・・)を見てほしい』

『うん!何々、今回はどんな事件を追ってるの?』


『凛華さん。これは相当大変なお仕事かもしれませんね?あの桐ヶ谷さんが私たちに応援を頼むくらいですし』

『……………ええ。そうね…』

『凛華さん?どうかしましたか?』


 誠がゆっくりと近付いて行くのに対し、鹿野さんは小走りで近付いて行く。

 しかしそこで、二条院さんが違和感を感じ取る。ドラマ内の二条院さんは並外れた高い洞察力を持っているという設定で、その能力から誠が何かしようとしていることに勘付いたのだ。


 そして二条院さんは、即座に二人に指示を飛ばした。


『二人とも!伏せて!』

『え?』


 鹿野さんは疑問に思いつつも、その言葉に従ってその場に伏せて、二条院さんは藤堂さんの反応が遅れると思ったのか、彼女を突き飛ばしてから床に伏せた。

 その後、銃声が体育館内に鳴り響いて、藤堂さんが肩を抑えて苦しんでる様子が映し出される。


『うぅっ…!』


『純っ!』

『純ちゃんっ!?』


 藤堂さんの肩から血が流れてるのを確認した鹿野さんは、怒りの感情で顔を染めて誠を睨んだ。

 この場の犯人は、銃口から煙が出ている拳銃を持った誠しかいないのだから。


『桐ヶ谷君!一体どういうつもり!?』

『あー……やっぱり二条院さんは気付いちゃったか。面倒だなぁ~。先にオリオン(・・・・)を殺そうと思ったのによぉ…』

『桐ヶ谷君…!』

『まぁいいや。どうせそんなしゃがんでる態勢じゃ、いくら銃弾を避けれる君でも避けらんねぇだろう?じゃあな、オリオン…』


 誠が銃口を鹿野さんに向けて引き金を引く。

 そう思われた瞬間、拳銃が何かに引き寄せられるように、誠の手から離れた。

 その拳銃は磁石の形をした、これまた不思議な装置を持った二条院さんの手元に渡った。


 二条院さんは床に向かって拳銃を連射してから、ポイっと投げ捨てた。


『残念だったわね?私が芸能警察の中でも屈指の天才科学者というのをお忘れ?』

『……アイドル警察七つ道具か…。俺が知ってるのは、建物内の様子を把握出来る機械だけだったけど、まさかそんな出鱈目な機械があるなんて思わなかったよ。すげぇなアルファ(・・・・)は』


『ふんっ。どういう訳か知らないけど、裏切り者になった貴方に褒められても嬉しくないわね!結衣。純は私に任せて、貴女はソイツをとっちめて!』

『了解ッ!』


 大切な仲間を傷付けられた怒りからか、鹿野さんは誠に向かって全力でその拳と蹴りを振るう。話は誠を無力化してから、ということだろう。

 しかし誠はその攻撃をいなし続けながら、鹿野さんに語りかけた。


『おいおい。イシス(・・・)は肩を撃たれた程度だ。応急措置くらいは自分で出来るだろうし、二人で掛かってきた方が賢明なんじゃないのか?』

『舐めないで!前に貴方と一緒に戦った時に、その実力はよくわかっている!貴方よりも!私の方が!』


 鹿野さんは精一杯の力を込めた正拳突きを誠の腹に入れて、すぐさまサマーソルトキックをお見舞いした。


『強いッ!』


 完全に良いのをくらわせた鹿野さんは、高々とそう言う。

 蹴り飛ばされた誠は、床に頭から落ちていく。


 しかし、彼は頭が付くよりも早く床に手を付いて、そのまま後ろに回転して足から着地した。

 その様子を見た鹿野さんは、驚きで顔を染める。


『本当にそう思ってんのか…?』

『っ!?噓…』

『だとしたら、君の脳内は相当お花畑なんだなぁ……………図に乗るなよ?』


 声を低くし、限界まで目を見開いた誠の言葉に、鹿野さんは肩を震わせた。


『あの時は確かに君の方が強かった。だけどさ、忘れたのかオリオン?俺がほとんど持ち前の運動神経だけで活動していたのを』

『……そんな…。まさか…』

『俺が本気で訓練すれば、効率的なダメージの逃がし方くらい、簡単に習得出来るんだよッ!?』


 そう言った誠はグッと足に力を入れて、まるで床を蹴り壊す勢いで鹿野さんに接近。そのまま鹿野さんの腹に拳を叩き込み、さらに顎を蹴り上げて浮かし、終いに後ろ回し蹴りで鹿野さんを蹴り飛ばした。


『あっ……ぐうぅ…!』

『おいおい?三発で終わりかよ。もっと俺を楽しませろよぉ~……オリオンッ!』


 まるで狂ったように鹿野さんに迫る誠。しかしそれを、二条院さんの蹴りが遮った。

 突然目の前に飛んできた蹴りを、上体を後ろに倒すことで回避して距離を取る誠。


『おまたせ。私のこともご指名だったみたいだし、お望み通り相手してあげる』

『ああそうかい。じゃあ……少しは楽しませてくれるんだろうなッ!?』


 恐らくこの時点で視聴者の多くが、桐ヶ谷誠の様子があまりにもおかし過ぎると思うだろう。


 そんな戦闘に狂ったような言葉を発しながら襲い掛かってくる誠の攻撃をギリギリいなしながら、二条院さんは隙を見て誠の側頭部に回り蹴りを放つ。

 回し蹴りで態勢を崩した誠に二条院さんは足を緩めることなく、全力で飛び上がり、空中で一回転して踵落としをお見舞いした。


 だけど鹿野さんの攻撃を耐えた誠だ。故に油断せずに、一旦距離を取ろうとする二条院さん。しかし誠はそれを許すことなく、二条院さんの腕を掴んだ。


『へぇ。アルファは後方支援だけでなく、戦闘も結構いけるんだな?オリオン程じゃねぇけどな。だけど、そこそこ良いのをくれた礼だ。たっぷりお返ししてやるよ…』

『ッ!?』


 空いてる手で拳を握り、それが二条院さんに振り下ろされようとする。

 しかしそこで、またもや誠を遮る攻撃が飛んでくる。


 横から飛んできたのは、鹿野さんの拳だった。それが誠の横顔にヒットした隙に、二条院さんは誠の手から逃れる。


『ありがとう。助かったわ結衣』

『こっちこそありがとう、凛華ちゃん。痛みは引いたから、ここからは一緒に戦おう』

『ええ。そうね。彼は無駄に強くなってるみたいだし』


『無駄とか酷いな?ちゃんと意味はあるぞ(・・・・・・)


『黙れ裏切り者ッ!結衣!』

『うん!』


 誠の言葉を一喝し、二人で誠に攻撃を仕掛ける。

 流石の誠も二人からの攻撃は防ぎきれず、鹿野さんの重い拳、二条院さんの突き刺すような鋭い蹴りと、徐々に手痛い攻撃を貰ってしまう。


 そしてそれらの攻撃で足がもつれ始め、体勢が崩れた誠にとどめの一撃が放たれた。


『くっそ、思った以上に…!?』


『凛華ちゃん!』

『ええ!』


 二人の強力な回し蹴りが、誠の頭をサンドイッチにするように放たれる。

 その一撃で、膝から崩れ落ちて行く誠。


『すまない……由香里(ゆかり)…』


 そう言って、床に倒れる誠。

 決着がついた。誰もがそう思うシーンだ。


『ゆかり…?誰かの名前かな』

『さぁね。裏切り者のことなんて、知ったことではないわ。それよりも、さっき純の手当てをする時に、本部に応援を頼んでおいたから、もうすぐ来ると思うわ。ほら?サイレンが聞こえて来たわよ』

『あ。本当だ。ふぅ~……一先ずこれで、一件落着かな…』


 サイレンが聞こえ始めて、二人は安堵した―――その瞬間だった。

 突如誠が目を覚まして、二条院さんの足を掴んで、持ち上げながら身体を起こしたのだ。


『えっ……』


 状況に脳が追い付いて行けず、無防備に空中に身を晒してしまう二条院さん。

 そして二条院さんが床に落ちる前に、誠は素早くその背中に向かって思い切り膝蹴りをくらわせた。


『がぁっ!?』

『凛華ちゃん!?こんのっ!』


 すぐさま鹿野さんが蹴りを放つが、誠はそれをしゃがんで回避して、鹿野さんの腹に掌底付きをくらわせてぶっ飛ばした。


『ぐぅっ…!はっ……あぁ…』

『結衣さん!?凛華さん!?』


『ハァ……ハァ……残念だったな…。俺が気を失った瞬間に、両手両足に手錠を掛けておくべきだった。おかげで、捕まらずに済むがな…。 オリオン!アルファ!イシス!……次は無いぞ?次こそは、お前たちを殺すっ』


 シリウスの応援が近付いて来てることもあって、誠はその場から去って行った。

 誠を追おうと、なんとか立ち上がろうとするオリオンだが、痛みでお腹を抑えて(うずくま)ってしまう。

 その時オリオンは、自分の衣服に何かが貼られてることに気が付いた。


 そのタイミングで、ドラマは一旦CMに入った。

ちなみに二条院さんの背中に膝蹴りがくらわされた後のシーン。

あそこで誠が間違って突っ込んで、結衣の蹴りをくらったところです。


面白いと思ったらブクマ登録と高評価、いいねと感想をよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ