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陰キャ男子高校生と天真爛漫なアイドル  作者: 結城ナツメ
恋に落ちる瞬間は不整脈
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桐ヶ谷誠がバレー部を救い、藤堂純が泣く

サブタイトルを見たお前は、「な、なんだこのサブタイトルは?」と言う。(たぶん)

 強豪校大野高校を破った俺たち立身高校は、その後も順調に勝ち進んだ。

 地区大会は土日の二日に分けられて行われていたが、元々優勝候補として大野高校がトップだったこともあり、一日目の後半と翌日の試合の対戦校は大野高校ほどの苦戦は強いられなかった。


 よって……


「桐ヶ谷君!」


 ドパーンッ!と、勢いよく叩き付けられるボール。

 それと同時に、試合終了の笛が鳴る。この笛の音は、立身高校が優勝を告げる物だった。


―――――――――――――――――――――――――――


 地区大会の表彰式を終えて、俺たち立身高校バレーボール部はとある飲食店に来ていた。


「皆!二日間お疲れ様!今日は先生の奢りだそうだから、存分に打ち上げを楽しもう!乾杯!」

「「「乾杯ー!」」」


 大量の料理を注文して、皆に飲み物が行き渡ったところで、打ち上げが開始される。ここは個室なので、思う存分に騒げるだろう。

 というのも、この打ち上げにはスペシャルゲストが来ていた。まぁ……説明不要だろうけど。


「どうもー!シリウスでーす!今日は、私たちが通っている高校のバレーボール部が地区大会で優勝したので、その打ち上げで一曲披露してほしいって依頼を受けて来ました!」


 カメラに向かってそんな紹介をしたのは、大人気アイドルユニット、シリウスのオリオンこと鹿野さん。

 昨日一回戦終えた後に、顧問のかっちゃん先生がシリウスにちょっとしたライブの依頼をして、それを事務所に確認を取ったら即オーケーを貰ったらしい。かっちゃん先生、まだ一回戦勝っただけなのに気が早すぎです…。

 なんでそんな簡単にオーケーが出たのかというと、主に俺が理由らしい。


 シリウス主演のドラマ『アイドル警察♪シリウス』のゲストとして出演する俺が所属する部活の打ち上げに参加し、その様子をツブヤキやミーチューブなどで拡散してさらに宣伝するという魂胆らしい。

 商魂逞しいぜ…。お?この串焼きうんまっ。


「桐ヶ谷君!実は地区大会で活躍していた様子も一緒にSNSに載せたいんだけど、いいかな?」


 俺が自分のことなのに、まるで他人事のように飲み食いしていると、鹿野さんがそんなことを聞いてくる。


「いいけど、いつの間に撮ってたんだそれ…」

「桐ヶ谷君の勇姿を、お母さんも見たいって言ってたんだ。だから波川ちゃんに撮ってもらってた!」


 波川さんって、確かあのちょっと腹黒そうなシリウスのマネージャーの……あの人も来ていたのか…。


「あと、どこまで公開していいのか聞いといてほしいって言われてるんだけど…」

「え?別にただの地区大会だし、公開されて困るものはないと思うけど……なんかあったのか?」

「ううん。なんか波川ちゃんの様子がちょっとおかしかったから、ちょっと気になっただけ。とりあえずわかったよ!波川ちゃんに伝えとくね」

「あ、ああ…」


 俺に確認を終えた鹿野さんは、二条院さんと藤堂さんのところへ戻って行った。


 なんだろう。凄く嫌な予感がする…。

 波川さんとは基本撮影現場でしか関わりがないから、どんな人柄なのかは具体的に知らないんだよな。

 まぁ、シリウスのマネージャーをやってるくらいだし、下手なことはしないと思うけど…。でもやっぱり嫌な予感が止まらない。


「ふぅーーー!オリオンちゃん最高ー!」

「あのシリウスが目の前でライブを……感動です!これで怪我が治ります!」

「それで治ったらお前完全に化物だよ…。にしてもこうして間近で見ると、改めてアルファって子は凄いって思うな。オリオンのアドリブをしっかりカバーしてて」

「……すご、揺れて……直視出来ない…」

「あはは!とうど、じゃなかった。イシスちゃん可愛いよー!」


 と、いつの間にかライブが始まってたらしい。シリウスの三人が十八番としている、『セイハンタイナフタリ』を披露していた。

 ……確かに、鹿野さんは本来の振り付けとか無視して、今回も結構アクロバティックな動きをしてんな…。それを二条院さんがカバーして、さらに藤堂さんが敢えて前に出て来て可愛いポージングを取って調和させている。

 一見ぐだぐだのようでしっかり嚙み合っているその動きは、見ている者を圧倒させ、そして感動の渦へと巻き込んでいく。そんな大胆なパフォーマンス性が売りなんだと、改めて見て実感する。


 今もバレーボールを持った鹿野さんが、部長の尼崎を巻き込んでとんでもないパフォーマンスを披露して……ん?そういえば……


「なぁ谷口?」

「ん?どうしたの桐ヶ谷君」


 俺は今の鹿野さんのパフォーマンスを見て、ふと思い出したことを隣の谷口に聞いた。


「尼崎も美月も、俺らと同じ二年のはずだよな?」

「うん。そうだけど?」

「じゃあ、なんで体育の最初のバレーの授業で、二人は前に出ていかなかったんだ?」


 バレーボール部の助っ人として呼ばれた時は忘れていたけど、体育の授業でバレーボール部と鹿野さんが前に出てお手本を見せていた。

 だけどその時に手を上げたのは、谷口の他には女バレの二人だけ。そこに鹿野さんが入って四人で綺麗なパス連をやっていた。


「あ~……実はその時、尼崎君と美月君がちょっと喧嘩をしちゃってたんだよ」

「え?そんなことあったの?」

「うん。美月君ってさ、基本ダウナーな性格してるから勘違いされやすくてさ。そこで尼崎君が突っかかっちゃって…。それでしばらく、二人はバレーから疎遠になってたんだよね。バレーの授業に出ないくらい…」

「子どもか?成績に響くぞ」

「あははっ。実際まだ僕らは子どもだよ。でも、それを桐ヶ谷君が変えたんだよ?」

「俺が?」

「うん。桐ヶ谷君のことを話したら、二人ともまたバレーをやるようになったんだ。以前の蟠りが噓のように仲良くなったなぁ」


 谷口はしみじみとそんなことを言う。

 そういえば、美月の奴は尼崎に対して当たりがキツい印象だったな。よく「ザーコ(笑)」とか言ってたし。

 あれは喧嘩してた時の名残か。


「ありがとう。桐ヶ谷君」

「は?いきなりなんだよ」

「君があの二人を変えてくれたお礼。本当はもっと早く言う予定だったんだけど、なかなか言い出すタイミングが見つからなくてさ。桐ヶ谷君は、バレー部を救ってくれたヒーローだよ。あのままだと、廃部になってたかもしれないしね」


 谷口の言葉を聞いて、啞然とする。

 俺がバレー部を救ったヒーロー、か…。なんだろう、くすぐったいな。


 俺は照れ隠しに谷口の背中を叩いて、ウーロン茶を口に含んだ。しかしこの後、いきなりそれを吹き出すことになる。


「う、うえーん!とっても良い話ですー!」

「ぶぅっ!?ゴッホ!ゴッホ!と、藤堂さん?」


 急に俺と谷口の後ろで、藤堂さんが膝から崩れ落ちて泣き出したのだ。

 え~……マジで急にどうした?


 そんな藤堂さんに、谷口が背中をさすりながら声をかける。


「どうしたの藤堂さん?急に泣いたりして?」

「す、すみません…。盗み聞きするつもりはなかったのですが、凄く感動的な話を聞いて、思わず涙がぁ……えーん!」

「お~、よしよし。ありがとう藤堂さん。僕たちの情けない話なんかで泣いてくれるなんて、本当に優しいんだね」

「情けなくなんかないです!とっても素敵な青春話で、感動の涙で前が見えません!」


「おいおい。なんかちょっとカオスな状況なんだけど?あーもう藤堂さん、ほれハンカチ。アイドルにあるまじき顔になってんぞ」

「あっはははは!純ちゃん面白ーい!」

「面白がってねぇで鹿野さんも手伝って?」


「いい話をありがとう。これは桐ヶ谷君の人気がさらに上がるわね」

「え?二条院さんアンタ、今スマホで何をしようとしてます?」


「えーんっ!このバレーボール部は、ぜひ『灼熱大陸』で取り上げるべき部ですー!」

「「それは大袈裟…」」


 この後、いつの間にか一部始終を撮っていた二条院さんの拡散により、俺はツブヤキのトレンド一位を獲得した。

 谷口と一緒に藤堂さんをあやしていたせいで、止める暇もなかったぜ…。

次回からまた俳優業と誠の方言について明かしていきます。


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