そんなお姉は嫌いじゃないけども……
強豪大野高校にストレート勝ちを果たし、観客席に向かう。
そこには予想通り、アイドルの命である喉を使い潰さん勢いで応援をしていた鹿野さん。そして二条院さんと藤堂さんがいた。
「きぃりがぁやくーん!」
「突っ込んでくるな。俺は今汗臭さいから」
なんか抱きついて来そうな勢いだったので、顔を掴んでそれを止めた。
しかし彼女はそれを気にせず、両腕をバタバタさせながら試合の感想を言い始める。
「ぼうぼんぼんずぼばっがよぶりばやぐん!」
その状態で喋るのかよ。掌で口閉じてるから満足に喋れてないじゃん…。「もう本当に凄かったよ桐ヶ谷君!」って言ってるのはわかるけどさ。
「はいはい、ありがとね。鹿野さんの応援のおかげで頑張れたよ」
「ぶん!ばばびばんばっびぼうべんびびび!」
「だけど頑張りすぎだ。アイドル人生に響くぞ、あの応援は。もう少し自分の喉を労わってやってくれ」
「鹿野さんが言ってることがよくわかるね…」
「なんとなくだけどな」
鹿野さんのおかしな言語を理解出来る俺に苦笑している谷口にそう言って、彼女の顔から手を離した。ちなみに今のは「うん!凄く頑張って応援したよ!」って言ってた。
ぷはっ!と息を吐き出した鹿野さんは、首をブンブン回して笑顔でまた試合の感想を話し出す。
「桐ヶ谷君の最後のスパイク、私痺れちゃったよー!私以上に威力出てたんじゃない?」
「あそこまでやって、やっと鹿野さんより強く打てるようになるのか…」
俺は自分の腰を抑えながら答える。
最後の大ジャンプからの本気スパイク。スパイクに関しては、あの鴨宮って人のスパイクを参考にした。
限界まで身体を反って、身体ごと一気に打ち下ろすスパイク。凄い威力が出るけど、正直何度も出来る芸当じゃない。腰への負担が凄いし、今日はもうやらんぞ。さっき階段を上ってる最中にコキッて聞こえたもん…。
「二条院さんと藤堂さんも、応援してくれてありがとう」
「どういたしまして。本当に結衣が度肝を抜くようなプレイをするなんて、桐ヶ谷君も大概人を辞めてるわよね?」
「凄く格好良かったです!冴木さんと早乙女さんにも見せたかったです!」
「ああ。あの二人は用事があって、来れないって言ってたからな」
「ところがぎっちょん!拙者はなぜかここに来てるという珍事件ッ!」
後ろからそんな声が聞こえて振り返ると、グルグルメガネと鉢巻がトレードマークの総司が、お姉に後ろから抱き着かれてる状態で謎の決めポーズをしていた。
……………ごめんどっからツッコめばいいんだこれ?
「とりあえず警備員呼んでこの不審者を捕まえてもらうべきか?」
「辛辣な態度を取ってる暇があるなら助けてくれでござる…。今日はアニメ三昧の予定だったのに、なぜか理乃先ぱ―――」
「理乃」
「……理乃殿に強制連行されて困ってるのでござる!」
総司がそう言うのでお姉を見てみると、無表情のままピースしてきた。否定する気はないようだ。
身長180を越える巨女姉が想い人を堂々と誘拐して満足気にし、さらに先輩呼びを訂正させているのは嫌いじゃない。
「ふーん。いいじゃん。女の子に抱き着かれるなんて男の夢じゃん」
特にお姉はスタイルが良いからな。どことは言わないが、頭からその柔らかさを感じられて総司も幸せだろう。
「え!?そうなの?」
「おっと俺は例外だぞ」
勘違いしだして俺の後ろに回った鹿野さんに断るように言って、もう一度総司を見る。
ていうか鹿野さんは今更だろ。
「総司……お姉を泣かすなよ?」
「は?なんのことでござるか?そんなことより拙者はこんなスポーツ系リア充の巣窟みたいな場所から早く去りたいんでござるが?」
総司の言葉に思わず目を見開く。
コイツマジで言ってるのか?俺も自分に関しては少々鈍感の節があるが、それでも鹿野さんの気持ちに気付けるし、総司がお姉の気持ちに気付けない訳が……
「総ちゃん総ちゃん」
「なんでござるか?」
「私のこと……嫌い?」
「嫌い!?なんでそんな話に?」
「だって総ちゃん、ずっと私のことを避けようとしてるし……」
「いや、それは~……なんというか、複雑な男心と言うか…」
ダメだこりゃ。この二人がくっ付くのは当分先だな…。
俺が呆れていると、尼崎から声がかかった。
「おーい桐ヶ谷!早く飯食っちまえー!」
「おう!ここでいつまでも話していると迷惑だし、とりあえず座んぞ」
「おーけー」
「拙者は誘拐された被害者なんでござるが、残らなきゃダメでござるか?」
「ダメ。総ちゃんと一緒にいたい」
「えー…」
「おっ昼♪おっ昼~♪あーると嬉しい、たぁこさんウィンナ~♪……無かった!?」
ということで、シリウスとお姉と総司を交えて昼飯を食べることになった。特に鹿野さんは楽しそうだ。落胆した顔してるけど楽しそうだ。うん。
俺の飯は今日もお姉が作ってくれた愛姉弁当(お姉命名)である。最近お姉は口や態度では愛は伝わりにくいなんて悟り始めて、徐々に気持ちわゲフンゲフン。気持ちを行動で示すようになってきていた。
……でもだからって、俺の弁当にまでハートマークの桜でんぶを入れるのはどうなのかな…?
「き、桐ヶ谷君のお弁当って、最近凄く可愛いわよね?」
「可愛いで済ましていいと思うのか?二条院さん」
「……………お、お茶目な理乃先輩も、嫌いじゃないでしょ?」
「嫌いじゃないけど、ちょっと嫌かな~…」
「あははは!ドンマイ桐ヶ谷君!はい、私の卵焼きあげるから元気出して」
「桐ヶ谷さんは理乃先輩に愛されてて、幸せそうで羨ましいです!」
二条院さんに少し同情され、鹿野さんは笑い、藤堂さんは一人なんかズレたことを言う。
……ん!鹿野さんの卵焼きうんまっ。
さり気なく餌付けしてる鹿野さん。
追記:卵焼きだけ練習で作って、あとはお母さんに作ってもらった感じです。
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