才能を開花させた者
遅れたので二話分投稿。
気持ち良く、派手にボールが床に叩き付けられる。
誠のチーム、立身高校に点が入った音だ。
「おしっ!」
「「「ナイスーッ!!!」」」
誠は気持ち良くスパイクが決まったことにガッツポーズを取り、メンバーと立身高校を応援する観客の声(主に鹿野結衣)が高々と体育館内に鳴り響く。
バレーボール地区大会。立身高校対大野高校。
大野高校は全国大会常連の強豪校である。しかしその大野高校が、1セット目を取られて2セット目現在。23-21と特に名の知れない弱小校である立身高校に押されていた。
その要因は立身高校が下手なレシーブでも『ボールを上に上げる』という意識を高く持っていることと、それをお互いでカバーしあえるポジションであるということ。そして圧倒的なまでの攻撃力である。
特に攻撃力はかなり際立っており、セッターの谷口歩。助っ人枠だがチームのエーススパイカーの桐ヶ谷誠。その誠に触発されて攻撃力が段々上がっていく尼崎徹。威力は二人に劣るが高い身長で打ち下ろしていく孝雄道長。この四人のコンビネーションが大野高校を苦しめていた。
しかも誠の試合中の動きは見てる側からすれば正に奇々怪々。まるでコートは自分の庭だとでも言わんばかりに縦横無尽に動き回る。
ライトポジションにいるかと思えば、ボールに僅かでも目を逸らせば誠はレフトに向かって走り出していたり。
速攻使って打ってくるのかと思えば、すぐには飛ばずに相手のブロックより遅く飛んで打ったり。
挙句の果てに、自分が打つと見せかけて徹や道長などに打ってもらうという囮の役割を担ったりなど、かき乱し続ける誠の動きが相手を余計に混乱させ、追い込んでいた。
今の誠を言葉で表すなら、それは『天上天下唯我独尊』。
まるで本人がただやりたいように、ただ好き勝手に暴れ回ってるかのような動きは、その言葉がよく似合っていた。
時々上手く連携が決まらず、失敗してチームに迷惑をかける様が、余計に拍車をかけているようだ。
大野高校は試合中に協議や水分補給などを行うタイムアウトを使って、誠を徹底的にマークして好き勝手させないこと。派手な動きに惑わされないことを意識するよう話し合ったが、それ自体が悪手であった。
これは歩が、例のバレーアニメから得た作戦で『相手を下手に意識しないことを意識してる時点で、もう意識してる』という、人間の心理を突いたものである。
大野高校は、『誠ばかりに気を取られてはいけない、誠の動きに惑わされてはいけない』『誠の動きに警戒して、マークして好き勝手させない』などという矛盾な考えが、自分たちを苦しめていた。
そのことは頭のどこかで引っ掛かってるはずだが、試合中はその違和感になかなか気付けないのが人である。
歩はそれを狙って、誠を好き勝手させているのだ。
ちなみに試合中の歩の思考はこんな感じであった。
(いいよいいよぉ~…!どんどん桐ヶ谷君に注目しなよ。君たちは今、完全に僕の掌の上だ、鳥籠に閉じ込められて自由を縛られている哀れな小鳥だ。自分たちのバレーが出来てなくて苦しいだろう?でも君たちはそれに気付けない。なぜなら……こっちのレシーブ力が弱いから!だけど今はそれがいい、それでいいんだ…。それによって辛うじて点を取れてるから。だから少なくとも自分たちのバレーが出来てると勘違いしている……全ては桐ヶ谷君に惑わされてるせいで、自分たちが負けているのだと勘違いしている!桐ヶ谷君によって乱されるブロックの位置、レシーブポジション……そのせいで誰が打ってくるかもわからない状況が作られていることも相まって、桐ヶ谷君たちアタッカーに『どこに打てば点が入るのか』、その答えを教えてしまってることを君たちは気付けていない!)
全てバレーアニメの影響である。アニメを通して元々あったバレーの才能を開花させた歩は、相手を貶めることを覚え、さらにチームのポテンシャルを100%引き出せるようになった。
「尼崎君!」
「ふんッ!」
徹に上げられたボールが、これまた威力が増したスパイクが打ち放たれる。
ブロックは誠によって分断されており、一枚しか無かったので余裕で抜かれて床に叩き付けられ、立身高校のマッチポイントとなる。
たった一枚のブロックでは打たれるコースの選択肢も多く、レシーバーはその選択肢の多さに惑わされ、足を動かすことが出来ない。
(確かに桐ヶ谷君が大きな要因となっているんだろうね。でも、それによってチームのバランスが崩れているのは、結局惑わされてる側の問題だ。本当に桐ヶ谷君を止めたいなら、いっそ桐ヶ谷君を無視すればいい。君たちは強豪校なんだから。ボールを落とさない技術を持ってるはずなんだから)
バレーは落とされた方が負けなのではなく、落とした方が負けである。
そのように悟り、このような作戦を組み立て、選手のポテンシャルを引き出せるようになる程に成長した歩は、親の反対を押し退けていずれ世界でも名を連ねるプロのバレーボール選手となるのだが、それはまた別の話。
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鴨宮美鶴。
彼はプロの世界でも注目されてるレベルであり、対戦校からは必ずマークされ続ける大野高校のエーススパイカーである。
そんな鴨宮は、生まれて初めて挫折と言うのを味わっている。
小さい頃からバレーを続けてきた。もちろん負けたこともあるし、ブロックされたことも数え切れないほどある。
だが屈しなかった。純粋に自分の力を信じて打ち続けて、彼は全てのブロックをかいくぐって点を取ってきた。それが出来るだけの力が鴨宮にはあった。
(なのに、なんで桐ヶ谷誠のブロックを破れない!?)
鴨宮は誠のみがブロックに入ってる時はスパイクを通すことは出来た。
しかしそれが二枚となり、誠が道長とポジションを交代して、鴨宮から見て右側に付いた時……誠は決して満足に打たせてはやらなかった。
必ず鴨宮のスパイクに触れて、威力を弱め、上手く行けばドシャットをしていた。
ちなみにブロックしてる時の誠の心情はというと……
(あぁ……安心してブロックに付けるって幸せ…)
心の中で涙を貯めるかのように、常に幸せを噛み締めていた。
この二週間弱。鹿野結衣という、正しく人間をやめている人のスパイクをレシーブとブロックをするという地獄を学校の昼休みに最低五分やっていた誠は、鴨宮のスパイクはご褒美のように感じていた。
もちろんそれは顔には出ていないが、真顔で余裕綽々な顔をしているのは事実。
それは鴨宮を精神的に追い込む要因となり、打つごとに自信を無くしていった。
残り1点落とせば負け。そんな状況になり、大野高校は強豪校としての意地とプライドを見せつける。
拾う。拾う。拾う……一心不乱にボールを上げて、エースの鴨宮に繋ぐ。
(今度こそ……決めるッ!)
ぐっっっと限界まで背を反らす鴨宮。そんな彼から放たれたスパイクは、この試合どころか、今まで打ってきた中で一番の、渾身のスパイクと言って良いほど強いスパイクであった。
ドドッ!
しかし、スパイクは決まらなかった。彼のスパイクは、またもや誠のブロックに阻まれたが、そのブロックをぶっ飛ばすほどの威力であった。
(おお……今の鹿野さんの半分くらいはあったか?それなりに痛かった)
それでも……ボールは立身高校側ではなく、大野高校側のコートへ帰って来る。その時、鴨宮の中で何かがプツンと切れるような感覚があった。
ボールは高い位置にあるので、まだチャンスはある。全員が元の位置に戻り、セッターにボールが上げられる。
そしてそのボールは、本来であればエースである鴨宮が率先して呼ばなければいけないものであった。
しかし……
(もう……駄目だ…)
鴨宮の心は、折れていた。その様子には当然チーム全員が違和感を覚え、敵である誠でも気付いた。
それでもこの絶望的な状況。エースに決めてもらいたいというのが、どのバレーチームでも思ってしまうもの。
大野高校のセッターは鴨宮にトスを上げる。それを確認したエースはボールを打つ為に走り、全力で飛ぶ。
しかし心が完全に折れてしまっている鴨宮が打つスパイクは、無情にも誠に阻まれる。ブロックのやや上辺りに当たったので、今回は立身高校側にボールが行った。
その時誠が感じたスパイクの感触は……
(え?よっわ…)
さっきみたいな、結衣の半分程度のスパイクが来るかと思った矢先、逆に今までのスパイクの中で一番弱い物になっていて、困惑させられた。
しかし今はそんなことを気にしている暇は無いので、さっさと自分のポジションに戻って、スパイクを打つ体制に入る。
(それじゃせっかくだし、最後はもっと全力で飛ぶか…!)
誠は今までよりも力強い声を上げて、トスを呼ぶ。歩はそんな誠に声にゾクりとした感覚を覚えて、笑顔で今までよりも高めのトスを誠に上げた。
そのトスに向かって走る誠。今度は変化球は無し、純粋な真っ向勝負。
全力で踏み締めて、派手に床が蹴られた音が鳴る。そして立身高校と大野高校の両チームだけでなく、観客も……あの鹿野結衣でさえも、今の誠を見て驚愕する。
誠は本格的に鍛える前、胸までネットから出るほど高く飛べていた。しかしそれは親から受け継いだ運動神経のみで行ったもの。あとやっていたことと言えば筋トレのみである。
そんな誠がジャンプ力を鍛えるメニューを行ったこと、そしてより高く飛ぶやり方を練習した彼は、10センチ高く飛べるようになっていた。すなわち、腰辺りまでネットから出るようになったのだ。
大野高校はブロックに付いたが、誠はさらに上にいる。
鴨宮のように背を限界まで反る誠。それを一気に解き放つように身体ごと腕を振り下ろし、ブロックの上から思い切りボールを叩き付けた。
それは誠の腕の感覚を約一時間無くす、結衣の超本気スパイクと同等かそれ以上の威力であった。
(これ、打ってる方も痛いな。主に無理矢理引っ張った腹と、その分を凝縮した背中が…。あと腰も痛ぇ~…)
しかし、誠には連発できるような代物ではないようだ。
誠は結衣にはさらに鍛え抜かれた柔軟性もあって、あの高威力のスパイクが連発出来るのだと実感した。
その鹿野結衣はというと……
「か、カッコイイ~…」
口元に両手を当てて、そう呟いていた。
誠は見事、結衣の度肝を抜くことが出来たようだ。色々な意味で。
超本気スパイクのフォームの代償は、実際に自分でやって確かめた結果です。
主に腰が痛いです。
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