桐鹿てぇてぇ?
とんでも速攻を決めた後の俺のサーブ。
尼崎と谷口の視線、それと観客席の鹿野さんが熱いコールをするので、要望に応えてジャンプサーブをした。
結果はネットに引っ掛かって相手コートに落ちるという少しカッコ悪い物になったが、二回目以降は鹿野さんの6割くらいの威力のジャンプサーブが綺麗に決まるようになって、その勢いを崩さずに25-22で、なんとか1セット目を取ることが出来た。
このまま2セット目を取れれば俺たちの勝ちな訳だが、ジャンプサーブだけじゃなく、谷口の無茶なオーダーに応えまくったせいで、少し疲れてきた。
ここは体力を回復するために、このセットを諦めるという選択もあるんだが……
「このまま2セット目も取りに行くぞー!」
「「「おーーーッ!」」」
そんな選択肢は皆には無いらしい。ここは空気を読んで、俺も全力で挑んだ方が良いな。
俺がそういう風に考えていると、尼崎が俺に話しかけてきた。
「桐ヶ谷。さっきは無茶なこと頼んですまなかったな」
「ああ。別にいいよ。言われた通りにやったら、ジャンプサーブも出来るようになったし。まぁ、あのとんでも速攻は二度と出来る気がしないけどな」
偶然成功した、普通ならまず追い付けない化け物速攻。
正直あれは狙ってやったところで出来るものじゃない。谷口も咄嗟に俺に合わせて、あんな素早いトスを上げて、本当に偶然成功したんだ。
だから谷口からも、「次はちゃんと合わせてね?」とお達しがあった。アニメの技をそんなホイホイ再現出来たら、苦労はしないよな。
まぁそれでも、俺は結構激しく動きまくっていたからか、尼崎から心配の声がかかった。
「桐ヶ谷は相当動いただろ?次のセットも取りに行くつもりだが、さすがにこれ以上無理に動いてもらうのは、お前の身体への負担が大き過ぎる。ここは、次点でスパイクが強い俺と孝雄が……」
「いや、やるよ」
俺の言葉に、尼崎が驚いた顔をする。
「なんだよ?なんかおかしなこと言ったか?」
「いや、桐ヶ谷って自分からそういうこと言うタイプじゃなさそうだったからな」
「……………ああ…。確かに以前の俺だったら、そうかもな」
面倒事を嫌い、人との接触を極力避けてた俺だったら、尼崎の言葉には同意してたかもしれない。無理して怪我すんのも嫌だし。
でもそれだったら、バレー部の助っ人なんて引き受けてない。元より俺は、やると決めたら全力でやるタイプなもんで、体力回復したいと思いつつも、結局は全力で点を取りに行きそうだ。
俺は観客席の鹿野さんを見る。両隣には二条院さんと、いつの間にか藤堂さんもいた。
「桐ヶ谷くーんッ!ファイトーーーッ!」
「ちょっと結衣!それ以上叫んだら、喉をやっちゃうわよ!?」
「結衣さんの応援は凄まじいですね…。私も一緒に、叫ぶように応援するべきでしょうか?」
「患者を増やそうとしないで、お願いだから…」
……騒がしい体育館内でも、さらに騒がしく叫んでるあの人の喉が心配だしな…。アイドルの命が危ない。
コートを交代したから、向こう側の観客席にいる鹿野さんに声届かないし、注意することも出来ない。だったら鹿野さんの喉の為にも、逸早く終わらせよう。
そして二条院さんに胃薬をプレゼントしよう。
と、そこで2セット目開始を知らせる笛が鳴る。
「とにかく、俺も全力でやるよ。じゃないと、示しがつかないんでな」
「示し?なんのだ?」
「こっちの話。さぁ行くぞ」
そう言って、俺は自分のポジションにに付いた。
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said結衣
2セットが始まって早々、桐ヶ谷君が1セット目みたいに縦横無尽に動き始めた。
他の人と動きが合わなくて失敗する時もあるけど、点数を離されてる訳じゃないから、私たちシリウスの三人はそれを見て思わず笑ったりしながらも、全力で応援した。
特に私は二人よりも声を出していると思う。桐ヶ谷君は凄い疲れて来てるはずなのに、それでも一層激しく動きまくってるから。
疲れを誤魔化す為なのか、それとも照れ隠しなのか、時々なぜか桐ヶ谷君が睨むように見て来るけど……そんな顔が、なんだか可愛く見えてしまう。
「ナイスー!……それにしても、桐ヶ谷君は凄いわね。あんなに動いてるのに、全く疲れてないんだもの」
「えっ?」
「はい!それどころか、桐ヶ谷さんの動きの切れが増していて、まるで結衣さんみたいです!」
「えっ?……そう、かな…?桐ヶ谷君、凄い疲れて来てるように見えるんだけど…」
「「えっ?」」
「えっ?」
『えっ?』の三段活用。二人の分も入れて四段活用が行われた後、私は桐ヶ谷君を深く観察してみる。
……………うん。やっぱり……
「あれは疲れてる時の顔だよ。それに、お腹が空いた時の顔も見え隠れしてる」
「……………そんな顔してる?」
「私には、いつもと変わらない表情に見えますが…」
「そうよね?私から見ても、桐ヶ谷君からはまだ余裕を感じるのだけれど…」
「えー!?全然違うよーっ!あ。ドンマーイ!次1本ー!……ほらほら!あの顔、『早く終わらせて、お姉の美味い飯食べたいなー』って顔だよ?」
「ごめん。何一つわからないのだけれど…?」
「これが“件”の乙女というものですか……これが続くと、その内“カプ厨”と呼ばれる方々が誕生しそうです…」
「アイドルにあるまじき誕生ね…」
二人の会話に、頭の中に『?』を浮かべながら、桐ヶ谷君たちの応援を続けた。
てぇてぇ(てぇてぇ)
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