バレーボール地区大会2
キリ良くする為、短いです。
「ナイスキー!」
谷口がそう言いながら両手を上げてハイタッチを所望してくるので、お望み通りハイタッチをしてやった。
ただ俺もブロックをかいくぐって点を取れた喜びがあった為、手加減できず……
バチーンッ!
「いぃっっっだい!?」
「あ。ごめん」
ちょっとやり過ぎましたわ。おほほほほ。
「よっしゃ!このまま突き進むぞ!」
「「「おう!」」」
尼崎の号令に声を上げる。
次は点を取ったうちからサーブが始まる。
ローテが回るので、尼崎がサーブだ。
「俺もいっちょ見せたんぜ!」
尼崎は向こうのジャンプサーブに負けじと、ボールを高く上げる。
勢いよくジャンプして、思い切りサーブを放つが……
カッ!
ネットの白帯に引っ掛かり、サーブが失敗した……と思いきや。
なんとそのまま相手コートに落ちていった。
「ふんっ!」
だが相手も伊達に強豪ではない。
すぐに前衛センターの人がスライディングしながらアンダーで高く上げた。
そしてライトの人がカバーに入って、身長は180を越えてるくらいのレフトのエースに上げる。
エースというのは一番スパイクが強く、上手い人のことを指している。
それに対して、ライトの俺とセンターの背の高い孝雄君がブロックに飛ぶ訳だが……
「ごめん孝雄君。場所交代して、ストレート閉めて」
「え?」
孝雄君のユニフォームを引っ張って、場所を交代してもらう。
そして声でタイミングを合わせて飛ぶ。孝雄君は言われた通りストレートを閉めてくれる。
俺も孝雄君との間に隙間を作らないようにしっかりブロックに飛びながら、相手エースの腕と身体の動きをしっかりと見る。
俺がスパイクの時よりも、そして20センチも俺より大きい孝雄君よりも少し高くジャンプ出来ている為か、少し驚いた表情をしているな。だけどそんなことよりも……
―――身体は俺たちに向いている。けれど上半身が少し傾いて行ってる。そして腕の向きは……
「クロスッ!」
ドドーン!
俺は打ってくる方向を相手の動きを見て予測し、見事ブロックで相手コートに落とした。こういうのをドシャットと言う。
今ので観客たちは更なる盛り上がりを見せている。
相手エースを見てみると、綺麗にドシャットを決められたからか、苦悶の表情を浮かべている。
……んん?でもちょっと待ってくれ。あれ?今のスパイクだった……よな?エースなんだよな?なんか、すっごい……
「おおー!やるね桐ヶ谷君!まさか相手エースのスパイクを止めるなんて」
「え?あ。やっぱエースだよな、うん。勘違いじゃなかったね」
「うん?どうかしたの?」
「いや、なんか……」
俺はブロックして感じた違和感を、素直に口にしてしまった。
相手がまだ真正面にいるにも関わらず。
「すげぇ軽いスパイクだったから、エースは別の人と勘違いしたかと……あ」
ちらりと相手エースを見て、俺は爆弾を落としてしまったことに気付いた。
や、やっちまった~。鹿野さんを基準にダメだろ俺…。あの人は人間辞めたセルフ改造人間なんだから。
相手エースめっちゃショック受けてんじゃん。煽りでもなんでもなく心から出た言葉だと理解しちゃってんのか、めっちゃ精神攻撃として効いてるじゃん…。
「お、俺の、スパイクが……軽いだと…?」
「おい鴨宮。早くポジション戻れ!次で切るぞ」
「……ああ…」
あー。マジでやっちゃったぁ。俺ってば鹿野さんと一緒にいすぎて、デリカシーの無いことをぽろっと出るようになっちまったか?
あとで謝ろ。アレは調子こいてただけで、腕はめっちゃ痛かったって。
つうか強豪校のエースならもっとメンタル鍛えてもろて。
え?実際は?痛くも痒くもなかった。鹿野さんの方が何倍も強いです(丸)
谷口に笑われながらスタート位置のセンターに戻る。何はともあれ、これで2点めだ。
そういえば今の時間帯は……11時半か。
12時過ぎくらいに鹿野さんが応援に来るとか言ってたな。それまでに終わらそ。うるさくなりそうだし。
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said鴨宮
「俺のスパイクが軽いだと…」
俺はあの桐ヶ谷誠に憤りを感じていた。
たかだか俳優風情にブロックされたのも屈辱だが、俺のスパイクを軽いなどと煽って来やがった。
……いや。アレは煽りとは違う。心の底から出た言葉だった。
「身体が温まり切ったら見ていやがれ、桐ヶ谷誠…。二度と軽いだなんて言わせねぇぞ…!?」
ガキの頃からの培ってきた俺の全力のスパイクを、そのブロックに叩き込んでやる!
―――しかし、鹿野結衣(化け物)より力がない鴨宮のこの意気込みは、余計自分を追い込むことになるのだった。
ヒロインの名は。
鹿野結衣(化け物)。そしてヒロインのスパイクを止めたことがある桐ヶ谷誠も地味に同類。




