バレーボール地区大会1
お久しぶりです。これからは他二つの作品と合わせて投稿していきます。
キュッキュッ、バーン!と、地区大会が開かれる総合体育館内にてバレーボールが打ち付けられるのを、準備運動しながら観察する。
背は高いわ腕も長くて余計に打点も高いわ、あんなのにブロック飛んだら腕が吹っ飛びそう……というのが普通の感想だろう。
しかし残念ながら、おおよそ普通とは言えない化け物(鹿野さん)を相手に練習して来た俺だ。
あれくらいなら余裕を持ってブロック出来る自信がある。
「尼崎。俺たちの初戦の相手は?」
天然パーマが特徴的な、部長の尼崎に最初の対戦校を聞く。
尼崎はやや苦虫を嚙み潰したような顔をしながら、トーナメント表が載ったプリントを見て答える。
「私立大野高校って所だ。何度か全国大会にも出場していて、本来なら絶対に勝てない相手だな」
「初戦から強豪校って、昭和の漫画かよ…」
超上手い人達ばっかってことじゃん…。初心者の俺には荷が重すぎる初陣なんですけど?
そんな俺の不安を察してか、谷口が声をかけてくる。
「大丈夫だよ!攻撃力ならこっちも負けてないさ!それに僕と桐ヶ谷君が組めば、最強だからね。ドーンと構えてこ!」
「お前はハイ○ューに影響され過ぎだ…」
この間の総司主催のハイ○ューのDVD観賞会から、谷口はずっとこんな調子だ。完全にヲタクの沼にハマったな…。
ただ悪いことばかりではなく、登場するセッター全員の技術を盗んでほとんどを自分の物にしやがったのだこの天才。
「特に気にしてなかったけど谷口の奴、急に人が変わったよな?」
「今更?アニメの影響だって、本人が言ってたよ」
「……そのおかげで異次元のセッターと化した」
「コ○ンかな?」
山口兄弟、それに孝雄君と八木ちゃんがハイ○ューの影響で、元々上手かった谷口がさらに化けたことに関して、未だに驚きを隠せずにいる。
そりゃアニメの影響で強くなるとか、どんな超人だよって話で……いや、鹿野さんもその類だろうな。あの人、竜巻旋○脚とかしてたし。
ちなみに男の八木龍二が八木ちゃん呼びなのは、女の子顔なのとアニメ声からの愛称だ。
本人は気にしてないので、俺も八木ちゃん呼びだ。
「お、おい。あれ見てみろよ!桐ヶ谷誠じゃねぇか?」
「は?……本当だ…。地元だったんだな。てかバレー部だったんだ」
「でも今まで見たことあったっけ?」
「仕事が忙しくて、部活どころじゃなかったんじゃないか?知らんけど」
「ほらっ!やっぱり別人じゃないって!桐ヶ谷君だよ!」
「本当だ…。選手名簿に載ってるの、同姓同名かと思ってた」
「キャー!頑張ってー!桐ヶ谷君ー!」
「ちょ、恥ずかしいからやめて!?」
……………すぅー。さて、ボールも使って身体温めるか。
などと他校とファンの視線と声から現実逃避して、底知れぬ恥ずかしい気持ちを誤魔化さそうとするも、谷口に肩を掴まれてそれは不可能となった。
「手くらい振ってあげなよ?あの可愛い子、君のファンみたいだよ」
「嫌だよ。今の俺は俳優の桐ヶ谷誠じゃなくて、バレーボール部の桐ヶ谷誠なんだから」
「いいじゃん。気分はまさに及○さんだよ?」
「徹ならそこにいるだろ?」
「徹違いが過ぎるわ!?それに俺は爽やかイケメンじゃないし……グサッ…」
自分で言って自分で傷付いてら。
それはそうと、あのファンの子のお陰でどんどん注目が集まってるんですが…。
「桐ヶ谷君って運動神経抜群だし、きっとバレーも上手いんだろうな~」
「ええ!そうに決まってるわ!なんたって私たちの桐ヶ谷君なんだもん!」
いえ、バキバキの初心者です。行っても毛が生えた程度。
ていうか俺って『私たちの』とか言われるくらい人気出てたの!?俺ってば、ぽっと出の初心者俳優よ?フツメンよ?
これは彼女たちがマニアックなのか、それとも鬼畜監督江月の手腕によるものなのか…?
「あの顔……正しく強者の顔!弱小校だと思っていたが、対戦するのが楽しみになってきたな」
いえ、単に面倒くさがってる顔です。というか今の大野高校の人の声?
うわぁ~…目を付けられた…。団体スポーツって目を付けられたら、徹底的に潰しに掛かられたりするって父さんが言ってたから怖いです。
とりあえず上の客席の人たちにこれ以上騒がれたら関係無い一般客に迷惑がかかりそうなので、俺は自分の顔を少しグニグニとマッサージをして自然の笑顔を作れるように、表情筋を柔らかくする。
そして観客席に向かって困ったような笑顔を作り、口の前に人差し指を添えて……
「しーっ…」
と、ファンの人たちに静かにするようジェスチャーする。
するとファンの人たちは胸を抑えて、「尊い…!」なんて言ってそれ以上騒ぐことは無くなった。
「一先ずこれで良いだろ?」
「わーお。ファンの扱いに慣れてるね?」
「素直な気持ちで静かにしてくれってジェスチャーしただけだ。別に慣れちゃいない」
試合が始まるとまた騒がしくなるだろうが、元よりスポーツの試合は観客や控えの選手の応援で騒がしいものなので、その時はファンの声もただの応援になるから別に良いだろう。
むしろ応援があるのは士気向上に繋がるから、普通にありがたい。
「よぉし!もうすぐ試合開始だ!桐ヶ谷のファンをガッカリさせないように、せめてボールは上に上げて繋いで行くぞー!」
「「「おーッ!!!」」」
「お前ら絶対、俺の苦労を楽しんでんだろ!?」
自分で選んだ道だから、別に苦ではないけどさ…。
―――――――――――――――――――――――――――
バレーの試合ではアップの最後に、対戦する両校が交代でスパイク練習となる。
「レフトー!」
尼崎が全力でバレーボールを床に叩き付けるようにしてスパイクを決める。
常に全力がモットーというタイプなのは良いのだが、試合に響きそうだからもう少し抑えて欲しいのが本音だ。
「ライトー!」
ちなみに俺のポジションはライト、コートの右側を任された。右利きだとレフトからのスパイクがやりやすいらしいが、俺はライト側の方がやりやすく感じた。
スパイクする時って基本斜めに向かって打つから、ネットから離れてる側の手の方が余裕を持って打ちやすいらしい。
だけど俺はなるべく下に叩き付けたい人間なので、ネットに近い方が結構やりやすい。だから俺はライト側だ。
谷口が俺にトスを上げる。それを俺は頭が少し出るくらいまで飛んでスパイクを打ち込む。
なかなかに良い音がなるが、尼崎よりやや劣る感じのスパイク。当然だ。身体が十分温まってないのに全力でやる訳がない。怪我の元だ。
尼崎は例外だ例外。
……まぁ。ジャンプはかなり大げさに抑えたけど。
「ふーん。桐ヶ谷誠って、意外と普通なんだね」
「そうだな。けどまだ抑え気味って感じかな?たぶん」
「でもあんまり飛べないのは事実でしょ?江月監督のドラマであれだけ動けるんだから、ジャンプ力には期待していたけど……大したことなさそうだね」
「……………」
おっと。さっそく食いついたな?そうだ、そのまま騙されててくれ。
スパイクならともかく、ジャンプまで抑える人なんて普通はいない。下手したら変な癖付くからな。
だけどこれは最初の1点を取る為の大事な布石。
アップの時点で試合の駆け引きは始まってる……それが父さんから教えてもらったことだ。ここで相手を騙すくらいじゃないと、強豪校には勝てないだろう。
やがて両校のスパイク練習は終わり、いよいよ試合開始の時間となった。
サーブ権はコイントスで決められる。主将同士が握手を交わして、審判からコインが親指で弾かれる。
「うちは先レシーブだ」
結果を見た尼崎が戻って来て、そう告げる。
バレーボールは基本的にレシーブ側が先に攻撃に転じれる為、これは幸先の良いスタートと言える。
「おし!普段なら負け確定の相手だが、今の俺たちには新星の桐ヶ谷誠、そして覚醒した谷口歩がいる!これで負ける通りがあるか?ねぇよなッ!?」
「東京ア○ンジャーズみたいに言うなよ」
尼崎の謎の激励から始まり、円陣を組む。
「立身高校ォー……ファイッ!」
「「「オーーーッ!!!」」」
「……全力で頑張れ」
円陣が終わり、それぞれのポジションに立つ。
ちなみに今の頑張れと言った人は、バレー部の顧問の先生だ。寡黙な人で、かっちゃん先生と呼ばれている。担当教科を受けてないので名前は知らない。ずっと、かっちゃんって呼ばれてるし。
俺のスタート位置は前衛レフト。尼崎がライト。それに挟まれるようにして谷口。
レシーブ力の高い八木ちゃんは後衛真ん中。美月はライト。孝雄君がレフト。
ピーッ!と、試合開始の笛が鳴る。
うちは守りが強い時は少数精鋭形式で、基本後衛に任せることになってる。今回で言えば八木ちゃんと美月が幅広く守る形だ。
さらに前衛は前にボールが落ちて来ない限り、ボールがこっちのコートに来たら即座にライトにいる尼崎とポジションを交代するという攻めに特化した変則スタイル。
普通は向こうにボールを返すまで交代はしない。
まず相手のサーブだが、いきなりジャンプサーブを使ってくるようだ。スパイクサーブとも呼ばれており、相手を崩しやすい強力なサーブだ。
ボールが高く上がり、エグい音と共にサーブが美月と八木ちゃんの間に放たれる。
「オーライっ!」
それをアニメ声を上げて、素早くボールの真正面に移動した八木ちゃんがボールを上げて、後ろに転がる。
ややセッター位置からは遠いが、谷口なら問題ない。しっかりと上げてくれる。
「レフトー!」
「ライト!」
ポジションを移動した俺と尼崎が声を上げると、谷口は俺にトスを上げた。
俺はさっきのスパイク練習の時よりも少し力を入れて飛んで、顔が出るくらいまで飛ぶ。
すると相手のブロック二枚が、俺のスパイクの打点よりも高いことに気付いた。
一瞬だけ相手選手の顔を見てみると、俺から見て右側の奴が「残念だったな?本来のジャンプ力を隠してるのはお見通しだ!」みたいな、凄い煽るようにムカつく顔をしていたのが見えた。
―――まぁ。関係ねぇけどなッ!
俺は背中にグッと力を入れて、右側のブロックの端に思い切りぶつけてやった。
ドパーンッ!と、派手な音が体育館に鳴り響く。
すると相手は俺のスパイクが痛かったのか、顔は僅かに歪み、ボールは客席の柵まで吹っ飛ばされていた。
相手のブロックに当たってたので、俺たちの点数だ。
「「「わぁーーーーーーっ!!!」」」
その瞬間、観客から大歓声を浴びることになった。
……結構頭に響くなぁ、これ…。
こちらの作品と並行して投稿します。
明日はこちらも久しぶりに【刀剣召喚】と【神託スキル】で成り上がりを投稿予定です。
【刀剣召喚】と【神託スキル】で成り上がり~サブクエストに集中するあまり、いつの間にか強くなっていた系王道RPG風冒険譚~
https://ncode.syosetu.com/n0293gu/
最弱魔物使いの成り上がり~僕は最弱だけど、仲間の魔物が強いから辛くはないよ~
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