ヲタクの怒り。ヲタクの働き
先日久し振りに家族と外食してたら、隣の席の人達がアニメやヲタク、声優などをバカにして笑っていました。挙句の果てに、某有名アニメ制作会社の悪口まで…。
煮えたぎる怒りからこの話が思い付きました。
鹿野さんがうちに泊まった翌日、日曜日。昨日の嵐が嘘のように止んでいた。
朝から事務所の人と打ち合わせがあるということで、彼女は朝ご飯を食べてすぐ家を出た。
ちなみに鹿野さんはお姉の部屋で寝たので、あれから特に何もなかったぞ。
「それじゃあね、桐ヶ谷君!また遊びに来るね!」
「えー。また来るのー?」
「また来て良いって言ってたじゃん!?」
という謎コントをしてから見送った。
ぶっちゃけ、鹿野さんを揶揄うのがちょっと楽しくなっている自分がいる。まぁやり過ぎないように気を付ける。
「さて、俺も部活に行くか。……ん?」
助っ人に入ってるバレー部の練習に行こうとして、電話がなった。相手は総司だ。
「もしもし」
『拙者、総司侍でござる。昼、部活が終わり次第、谷口殿を連れて拙者の家に来られたし』
それだけ聞いて、俺は即座に電話を切る。
やべぇ奴からの電話は受け答えしないに限る。
と、今度こそ家を出ようとした所で、また電話がなった。また総司だ。
「………!(ピコーン) お姉ー?」
「なに?」
「これ貸す。終わったら俺の机に置いといて」
「?」
どうしようか迷った後、面倒なのでお姉にスマホを渡すことにした。
別にスマホがなくたって、人間生きていける。
お姉にスマホ渡してすぐ家を出た。
……まぁ、谷口の都合が良ければ連れてくよ。なんで歩を呼んだのか謎だけど。
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ということで、谷口の都合が取れたので一緒に総司の家に向かった。
「早乙女君が僕まで呼ぶなんて、どうしたんだろう?」
「さぁな。総司と話すのは面倒臭くてその辺聞いてなかったから、俺もわからん」
「面倒って……幼馴染なんだよね?ドライ過ぎない?」
「俺は誰にでもこんなんだ」
「うへぇ。そりゃ友達が少ない訳だね」
「うるせぇ。最近新しく三人出来たわ」
「あはは……それがあのシリウスとっていうのは凄いね…」
谷口と他愛ない話をしながら15分。総司の家の前に着いた。
「へぇ。結構、大きい家なんだね」
「総司の親父さんが、ちょっとした金持ちだからな」
言いながらインターホンを押すと、すぐにそこから声が聞こえた。
『合言葉は?』
「谷口、すまん。家を間違えたようだ。というか総司のことはもう放っておいて帰ろうか」
「だー!ノリが悪いでござるなぁ!誠殿は!?」
合言葉などというふざけたことを抜かすバカ、もとい総司を無視して家に帰ろうと谷口に提案すると、間もなくしてグルグルメガネと鉢巻を巻いたヲタクスタイルの総司が扉を開けて責めるようにそう言ってくる。
「疲れるから嫌なんだよ、お前のノリに乗るの」
「全く……携帯を理乃殿に渡すわ、すぐ帰ろうとするわ……誠殿は本当に人間でござるか?」
「分類上、人間という名の動物であることは確かだ」
「そういうことを言ってるんじゃねぇでござるよ…」
「まぁまぁ、いいじゃないの桐ヶ谷君。僕は好きだよ、ああいうノリ」
「おお!谷口殿はわかるでござるか!」
「甘やかしたら調子に乗るから、気を遣う必要ねぇぞ」
とりあえず外でこのまま言い合いしてても仕方ないので、俺と谷口は総司の家に入る。総司の両親は留守のようだ。
リビングまで通され、俺はさっそくと要件を聞く。
「で、なんで俺と谷口を呼んだんだ?」
「うむ。ではさっそく本題に入るでござる。まずはこちらをご覧に入れよう……ジャーン!ハイ○ューのDVDー!」
総司が取り出したのは、某超人気バレーボールアニメのDVDだった。
……え?もしかして、アニメの鑑賞会に呼ばれただけ?
「……なに?その……はい○ゅーって?」
そう言ったのは谷口だった。
意外だな。バレー部なら名前くらい知ってそうだけど。
「な!?谷口殿、知らないんでござるか!?あの超有名なバレーアニメを?」
「うん。僕、漫画とかアニメは親から禁止されてるから、その辺の話は全然」
あー。学業の妨げになるとかで禁止してる家庭はあるからなー。
そんなの禁止したところで、勉強しない奴はしないのにな。
「な、なぜ!?今じゃ日本の伝統と言っても過言ではないんでござるよ!」
「えっと……犯罪者予備軍になるからって…」
「「はぁッ!?」」
「うわっ。桐ヶ谷君まで…」
今の発言には俺も思わず反応してしまった。
いつの時代の話だよそれ!?時代遅れな考えにも程があんだろ!
総司ほどではないが、俺だってプチヲタクなんだ。その考えには異議を申し立てるぞ。
「谷口、お前の家族を悪く言うようで大変申し訳ないが、ハッキリ言ってそんなこと言う奴はどうかと思うぞ?」
「ああ……やっぱりそう思う?」
谷口も親の教育方針に疑問を抱いていたのか、少し同意するように言う。
「当たり前でござる!そんなヲタクをバカにする発言は、完全に大炎上もんでござる!拙者はヲタクのお陰で経済の最低3割は回ってると予想してるでござる」
「え?そんなに?さすがにそれは言い過ぎじゃ…」
「ちゃんと根拠はあるでござるよ。これを見るでござる!」
総司はスマホのツブヤキを開いて、ブックマークした動画を谷口に見せた。
その動画は、大きい箱に大量の万札が入れられているものだった。
総司は次々にそういった動画や画像を谷口に見せていく。
「あー。あったなそんな動画。よく俺の方にも流れて来てたわ」
「え?なに、これ?」
「谷口殿は、とあるアニメ制作会社が放火された事件を知ってるでござるか?」
「うん。ニュースにもなってたし、知ってるけど……」
「この箱は、その会社への支援募金箱でござる」
「……………え!募金箱!?」
谷口は総司の言葉に少し固まってから反応した。その後は総司からスマホを受け取って、食い入るように自分から見始めた。
ツブヤキの投稿者のコメントには、『どこの店の募金箱もぎゅうぎゅうで、この10万入れるとこ無いんだがw』や『店員さんが大量の札束が入った募金箱回収して1時間。もう満杯になりおった』などと書いてあった。
「じゅ、じゅじゅじゅ10万!?」
「どうでござるか?あながち拙者の言ってることは間違いではないでござろう?」
「うん……………あ。『それだったら被災地に出せよ』とかコメントしてる人いる」
「そんな空気の読めないクソは死○ッ!でござる!被災地に向けたコンビニの募金箱に入れてるヲタクだっていたでござるよ!これに関しては拙者の目で確認したから間違いないでござる」
「マジでか」
「マジでござる。目の前で万札を凄い入れてて、店員さんもビックリしてたでござる。ヲタクが世の為に働いていることの証明でござる」
「その人がヲタクっていう証拠は?」
「○方の霊○Tシャツ、ア○ス鞄。さらには古○地姉妹の痛車に乗ってる人だったから間違いないでござる」
「うんガチだなその人…」
ヲタクってすげー…。
俺もまだまだヲタクを舐めてたわ…。
「ヲタクって、凄いんだね…」
「そうでござろう?好きなことに金をつぎ込み、貢ぐのはヲタクの原動力であり、またそれで助かる人もいるんでござる。ヲタクを社会不適合者とか犯罪者予備軍とか言うのは大きな間違いでござる」
総司の言葉に、谷口は目をキラキラさせながら聞いていた。
……………コイツ、無意識なんだろうけどナチュラルに布教しやがったな…。
その後は本題に戻り、総司の提案通りハイ○ューのDVDを見ることになった。
一期の最初から………俺は途中でもう、すげぇ疲れてたけど、総司と谷口はずっと興奮しっぱなしだった。
(ヲタクの入り口へようこそ、谷口……)
生暖かい目で、俺は心の中でそう呟いた。
……………あれ?そういえばなんで、総司は俺と谷口にハイ○ューのDVD鑑賞会に呼んだんだ?
私個人の怒りからこの様な話にして、気分を害してしまった方がいましたら、謹んでお詫び申し上げます。
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