この気持ちは、恋なのか……
文章が上手く纏めようと試行錯誤…。
部屋に戻って来た俺は、ミーチューブで動画を見ながら人差し指の上でバレーボールを回していた。
昔の笑添だったり、サカーナグループというミーチューバーの動画を見たり……まぁ、ただの暇つぶしだ。
「……カツオって1メートル行くんだな」
サカーナグループのリーダーの風呂に1メートルのカツオを置いておくドッキリ企画を見ていると、コンコンとノックされる音がした。
「どちらさんで?」
「私だけど、入っても良いかな?」
ノックをしたのは鹿野さんのようだ。
さっきはお姉の服を着た鹿野さんに対して目のやり場が困ってしまった。
風呂上りというのもあり、妙な色気のような物を感じた緊張からか、つい素っ気ない態度で接してしまったな…。
挙句の果てに照れ隠しで部屋まで逃げたのだが、やっぱり追って来たか…。
「鹿野さんか。良いよ」
「そ、それじゃあ……お邪魔しまーす…」
まぁそんなことは置いといて、とりあえず部屋に入る許可をする。
鹿野さんは緊張した面持ちで部屋に入って来る。
さっきはノックも無しに入って来た癖に…。
「えっと……」
部屋に入った鹿野さんは、困ったように俺の部屋をキョロキョロと見渡した。
「ん?ああ、すまんな。ほれ、これ使っていいよ」
「あ。うん……ありがとう、桐ヶ谷君。じゃあ失礼するね」
「んー」
ボール回しを止めて、ベッドの上に置いてあるクッションを渡して好きなところに座るよう言う。
すると鹿野さんは、まぁ案の定というか何というか、俺の隣に座って来た。
「えへへ……桐ヶ谷君の隣に座っちゃいました…」
鹿野さんは、少々ぎこちなさを感じる笑顔で言う。
改めて俺の部屋ということで緊張しているのが伝わってくる。入るのは今日が初めてじゃないのにな。
まぁ前は看病だったし、あの時とは気の持ちようは変わるか。
「学校でも席は隣だろう?」
「こ、こんなに近いのは、結構久し振りじゃない?」
「……………え?そうか?」
鹿野さんの言葉に鹿野さんとの思い出を振り返るが、いつも鹿野さんから密着するが如く近寄って来るから、全然そんな気がしない。
一体鹿野さんの世界ではどんなルールが展開されてるのか……謎過ぎるな。
「まぁ鹿野さんがなんでそんなに緊張してんのかはどうでもいいとして……どうした?俺の部屋なんかに来て」
「き、ききき緊張なんてしてないよ~。桐ヶ谷君の部屋の匂いでなんて…」
おい。なんか変態みたいな発言したぞこの人…。
本人は無意識なのか、全く気にした様子が無い。勘違いさせるような言動は普段から多いが、さすがに今のは引くわ…。
風呂上り姿に緊張した俺が馬鹿みたいだ。
「人の部屋の匂いで興奮しないでくれます?」
「こ、興奮なんてしてないよ!え?ちょっと待ってよ桐ヶ谷君。なんで滑るよう距離を取ってるの?」
「いやぁ、変態には当然の反応かと……」
「違うよ!興奮なんてしてないよ!待って正直に言う!言うから!改めて男の子の部屋にいるってことで、緊張しちゃってるんだよ!だからお願い桐ヶ谷君。離れてかないで~…!」
部屋の隅まで逃げたら、鹿野さんが涙目になりながらそう訴えて来た。
いかん。少し揶揄い過ぎたか…。
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数分後。流しっぱなしにしていたミーチューブを止めて、鹿野さんを宥めていた。
「ぶー。桐ヶ谷君の意地悪…」
「変態っぽい発言した鹿野さんが悪いと思いたいけど、まぁさすがに変態扱いしたのは悪かったよ…。ごめん。鹿野さんも女の子だもんな。そりゃ緊張もするか」
「ぶー。あ。そうだ!お詫びも兼ねて、桐ヶ谷君の小中学生の頃のアルバムが見てみたいな!」
鹿野さんはお詫びにと、アルバムを見せてと言ってくる。
なんか俺だけ悪者みたいなのは解せぬが、これ以上機嫌が悪くなっても面倒なので、大人しく見せることにした。
……はて?アルバムはどこにしまっていたか。
鹿野さんに少し待ってもらって、小中の物を入れてある押入れを開ける。
「えーっと……あった。ほい、これ小学生の時のアルバム」
「わーい!えへへ。ありがとう桐ヶ谷君。今度、私のアルバムも見せるね」
「お構いなくー」
鹿野さんがアルバムを開いて、俺も一緒になってそれを眺める。
アルバムに載るくらいの写真が俺にあっただろうか?
「………あれ?この子が、桐ヶ谷君…?え?……えーっ?」
鹿野さんは小学生の俺の写真と、今の俺の顔を何度も見比べる。
当然だ。名前があるから俺だってわかるが、小学生の頃の俺は童顔過ぎて女子と見分けが付かないくらい女顔だったからな。
ちなみに今では男臭い笑顔が似合う父さんも、小さい頃は女顔だった。写真も見たことある。
完全に遺伝だな。
「ぜ、全然似てない…」
「だろうな。お姉と並ぶと必ず姉妹に間違えられたよ」
「今の顔になったのは何時から?」
「言い方よ…。ア○パ○マ○みたいに顔を入れ替えた訳じゃないぞ…?えっと……確か、中一の終わり頃だったかな?男顔になっていったのは」
「皆ビックリしたんじゃない?」
「さすがに急変した訳じゃないから、毎日顔を合わす家族やクラスメイトからは、特に違和感を持たれなかったよ。ジジとかには驚かれたけど…」
「ジジ?」
「爺ちゃんのこと」
俺も毎日鏡で見る顔だから、ジジとババに言われるまで気付かなかったな。
「へ~。でもこの時の桐ヶ谷君って、凄く可愛いね!アイドルとかにいても不思議じゃないよ」
「産まれて来る性別を間違えたんじゃない?ってお姉に言われたことはあるな」
何気にショックだったな。あれ…。
性別否定とか中々心に来るものがある。
「おー!桐ヶ谷君ってば、運動会で一位取りまくってたんだね~」
「父さんの遺伝のお陰で、運動神経は悪くなかったからな」
「学芸会とか懐かしいな~。桐ヶ谷君は何役だったの?」
「この時は……」
そうして鹿野さんと一緒にアルバムを眺めていく。
鹿野さんは心底楽しそうに俺に質問してくる。こんなのの何が楽しいのかわからないが、彼女が楽しいならそれで良いのだろう。
やがて全て見終わって……
「うーん!楽しかったー!あ。でもまだ中学の時のアルバムがあるんだよね?良かったら、それも見せて欲しいな」
「……………中学の、ね…」
俺は鹿野さんの要望に対し、申し訳なく言う。
「悪いけど、中学の頃のアルバムは無いんだ…」
「え?どうし……あ…」
俺の言葉に対して鹿野さんは察したのか、途中で言葉を止める。
「えっと……ごめんね?」
「いや、良いよ。鹿野さんのお陰で、もう気にしてないし」
俺は中学の頃のアルバムは持っていない。学校から貰いはしたが、家に帰ってすぐに捨てた。
中三の時に噓告された俺にとって、中学の頃の思い出が入ったアルバムは毒物にしか見えなかったから。
もちろん中学の頃の思い出はそれだけじゃないが、やはり噓告の件が印象に残り過ぎてるせいで、アルバムを手元に置いておく気にはなれなかった。
「……そういえば鹿野さんは、噓告の件が最後どうなったのかってのは聞いたのか?」
「ううん。桐ヶ谷君が不登校になってからは、特に。えっと……聞いても良いの?」
「別に問題ない。なんか噓告に関わった奴らが全員、不登校になって高校は県外の所に進学したってこと以外、俺もよく知らないし」
「え。そうなの?」
「ああ。父さんたちが気を遣って話してくれなかったのもあったが、それ以上に興味がなかったからな。特に噓告してきた奴のことは全力で忘れようとしてたし」
俺の再び登校し始めたのは、冬休みが明けてから。
その頃にはあいつらはもういなかった。なんでも隆二と総司が噓告の件を学校中に言いふらしたらしい。
そのせいで学校にいづらくなったんだろう。
さすがにやり過ぎだと二人には注意したが、心のどこかで安心したのも事実。
この間夢に見て倒れた俺だ。会ったらどうなってたかわからないし。
だから興味が無かったと言うより、関心を向けないようにしてたんだろうな。きっと。
「進学したって言っても、正確にはそうせざるを得なかったんだろうな。今の学校にあいつらがいないから、俺がそう思っただけだけど」
「そうだったんだ…。その……改めて、ごめんね。嫌なこと思い出させちゃって…」
「良いって別に。それに今のは俺から話し出したことだし、本当にもう気にしてないよ。………鹿野さんのお陰でね」
「あ…」
俺は暗い顔をしている鹿野さんの頭を優しく撫でながら言う。
鹿野さんには本当に感謝している。鹿野さんがいなければ、また俺は不登校になっていたかもしれない。
それほどまでにあの噓告は、俺にとって酷く心を抉る出来事だった。
「……うん。ありがとう。桐ヶ谷君」
「お礼を言うのは俺の方だよ。鹿野さんが俺を慰めてくれなかったら、俺はいつまでも前を向けずにいただろうし」
「ひぅっ…。う~~~……その顔、ずるい…」
「は?顔?」
鹿野さんは顔を赤くして、睨みながらそんなことを言う。
「……なんでもない…。……………えへへ~…」
ぷいっと顔を逸らした鹿野さんは、ニヤついた表情をする。
そんな鹿野さんを、俺は優しく撫で続けていた。
その可愛い表情を、もっと見ていたくて…。
(本当にありがとう……鹿野さん。もう少しだけ、待っていてくれ。俺のこの気持ちが恋なのかどうか、わかるまで…)
産まれて来る性別を間違えたと姉から言われた作者です。
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そろそろ理乃と総司の話を書きたい。




