桐ヶ谷誠への想い
『※』の所はテレビの画面下にテロップが出てるものだと思ってください。
「もしもし?なんか外やべぇことになってんだけど、帰れそうか?」
『無理ね。私もお父さんも会社に泊まることになりそう』
テレビの天気予報を見てみると、今朝の晴れの予報が一変して台風の予報となっていた。
熱血キャラで有名な元テニスプレイヤーが日本から出ていったからだーなんてネタがツブヤキにもちらほら。
さすがに心配なんで母さんに電話して帰れるか聞いてみたが、やはり会社に泊まることになりそうとのこと。
「そう…。あと、鹿野さんがお姉に料理を教わりに来てさ。鹿野さんも帰れそうにないから、うちに泊まることになった。とりあえず母さんたちの部屋を使ってもらおうかと思うんだけど…」
『やめといた方が良いわ。今朝は時間が無くて、ベッドの上が片付けれてないの』
鹿野さんに母さんたちの部屋を使ってもらおうという提案をすると、凄い食い気味にそんなことを言ってきた。
「は?だったら俺とお姉で片付ければ……」
『……………えっと、その~……うぅ~………お願い誠、部屋には入らないで。昨日はちょっと……その……久し振りにハッスルし過ぎて……』
「…………………………………」
俺は思わず天を仰いで左手で両目を覆った。
そんなこと父親からならともかく、母親の口から聞きたくなかった…。察せれなかった俺も悪いけど。
なんてことだ。両親が昨日そんなことをしていたなんて…。
いや普段から結構やってそうな雰囲気とかあったけども、弟も妹も出来ないからただバカップルな雰囲気を醸し出してるだけなのかと思ってた。
……………やばい。何故か知らんが猛烈にこの家から出て行きたくなった。
「その……ごめんなさい…」
気付けば俺は、電話越しに頭を下げて謝っていた。
『あ、貴方も身体は大人になって来たんだから、察しなさいよね?』
いや弟も妹も出来てない状況で、未だにそういうことする仲だなんて察しはなかなか付きにくいと童貞脳で私は思います。
というか身体は関係ないのでは?
凄く気まずくなったのでどちらからともなく通話を切って、俺の後ろで母さんとの電話を見ていたお姉に振りかえ……あれ?お姉どこ行った?
お姉を探してリビングを見渡す……あらやだ。さっきまで俺の後ろで腕を組んでいたお姉様が忽然と姿を消しましたわ(棒)
ちなみに鹿野さんには先にお風呂に入ってもらっている。
ちらりと玄関まで続く廊下を見てみると、母さんと父さんの部屋の扉を開けたまま、お姉が立っていた。
「お、お姉?」
ホラーゲームをプレイした時よりも怖い思いをしながら、恐る恐るお姉に声を掛ける。
するとお姉はそっと扉を閉じて、少し青くしつつも無表情の顔を崩さずに一言。
「私、総ちゃんを受け止めきれるかしら?」
「知るか!そんなこと俺に聞くな!つうか、好奇心に負けてそのまま身を滅ぼしてんじゃねぇよ!?」
俺はお姉に水を入れてやって、少し落ち着けさせた。
好奇心に負けて自滅する姉は嫌いじゃないが、そういう自滅行為は小学生までにして欲しい…。
その後、俺は適当な紙に赤字で『立ち入り禁止』と書いて母さんと父さんの部屋の扉に貼っ付けた。
そして誓った。今回の事件は絶対に忘れると。
―――――――――――――――――――――――――――
【鹿野結衣視点】
(……立ち入り禁止?)
「上がりましたー。すみません、お先にお風呂頂いちゃって…」
私は肩まである髪をタオルで拭きながら、赤字で『立ち入り禁止』と書かれた部屋の前を通ってリビングに入る。入っちゃダメな部屋なんだ。間違って開けないよう気を付けないと。
それにしても、髪だいぶ伸びて来たな~。そろそろ切らないと。
「おかえりなさい。別に気にしないで。鹿野さんは大事なお客様だもの。それよりその服、私が中学の頃に使ってた物なのだけれど、大丈夫?」
「はい。少し大きいですけど、大丈夫です。貸してくれて、ありがとうございます」
リビングのテーブルのところに座ってる理乃先輩にそう答える。
「どういたしまして」
理乃先輩から借りた服は、白いTシャツに太ももまで見えるショートパンツ。
胸の部分がそれなりにダボついちゃってるけど、少し谷間が見える程度だし、全然大丈夫。
理乃先輩って純ちゃん程じゃないけど、結構大きいもんね。やっぱり中学から凄かったんだ…。羨ましい。
ちょっと敗北感を味わいながら、さっきからこちらを見向きもせずに、ソファに座ってテレビを眺めている桐ヶ谷君に近付いて話し掛ける。
「ただいま、桐ヶ谷君!お風呂から上がったよ」
桐ヶ谷君はちらりと私を見た後、「んー」と言ってテレビに向き直る。
……あれ?なんか反応が冷たい…。ストレートに「おかえり」もしくは少し捻くれた感じに「ただいまって、もう自分のお家気分かよ」みたいなこと言うと思ってたんだけど…。
「桐ヶ谷君、どうしたの?」
「んー?別に、なんでもない。……俺部屋に戻るわ」
「え?うん……って、わわわっ!なに、何!?」
言いながら桐ヶ谷君は立ち上がり、タオルを乗っけてる私の頭を少しゴシゴシした後、リビングを出ていった。
「えっと……私、何か気の障るようなことしちゃいました?」
「ううん。ただ、鹿野さんの今の格好に目のやり場が困って、気まずくなっただけよ。誠はそういうの、直では見慣れてないから。それに機嫌悪くなったら、わざわざ頭を撫でてかないでしょ?」
「あ……そうなんですね」
急に頭を撫でられてビックリしちゃったけど、あれってもしかして照れ隠し?ふふっ、桐ヶ谷君ってば妙なところで可愛いんだから…。
桐ヶ谷君ってポーカーフェイスを決め込むと本当にわからない人だ。
……でもその分、さっきみたいに行動で何かを伝えようとするみたい。……か、可愛い~…!
(どうしよう、もー…。やっぱり私、完全に桐ヶ谷君のこと好きになっちゃってるー!)
自分の頬を抑えて、感情が爆発しないように気を付ける。
ただ理乃先輩は鋭い人で、それだけの動作で私が何を考えてるかわかったみたいで……
「本当に、誠のことが好きなのね。鹿野さんは」
「ひぅっ!……や、やっぱり、わかっちゃいます……よね…?」
「ええ。もう本当にわかりやすいわ。誠にだって、気付かれてるんじゃないかしら?」
「ひゃうぅっ!……そんなぁ……本人にまで気付かれてるなんて~…」
「たぶんだけどね?でも鈍感主人公の素質ほぼほぼ皆無だから、あの子。可能性は高いわよ」
鈍感であって欲しかった!ラブコメの主人公みたいに!
うぅ~……ということは、私が密かに好き好きアピールしてるのもバレてるのかなぁ…。
「……………念の為言っておくけど、貴女が誠にアピールしてることは周りにバレてると思うわよ」
「エスパーですか!?え……ていうか周り!?周りって、どれくらいですか!?」
「そうね……総ちゃん、隆二君、二条院さん、藤堂さん……この四人は、少なくとも気付いててもおかしくないわよ。学校でも自重してないようなら、クラスの皆も気付いてるんじゃないかしら?」
「そんなに!?」
嘘…。私ってそんなにわかりやすかったかな?うぅ~……凄く恥ずかしいよぉ…。
「恋は盲目……とは言うけれど、いくらなんでも盲目が過ぎるわね…。部外者が言うのもどうかと思うけど、貴女は自分の立場がわかってるのかしら?」
「立場?」
理乃先輩はため息一つ吐いて、手で私に前に座るように誘ってきたので、理乃先輩の前に腰かけた。
「鹿野さん。貴女はアイドルなのよ?それも国民的アイドルのシリウス。しかもその顔役的存在のセンター」
「? はい。そうですね」
「そうですねって…。貴女はもし誠との関係が上手く行った場合、どうするの?」
「え……それは……………お姉様の前で恐縮ですが、その……お付き合いしたいな、と……」
私は理乃先輩の問いに対し、何の躊躇もなく答える。
(……………って!何いきなり口走ってるの私ー!さすがに正直過ぎでしょーっ!)
あ~~~。たぶん私、凄い顔真っ赤だよ~~~っ!
ていうか、口にして余計に桐ヶ谷君のことが好きなんだって自覚してきちゃったー!
今まで演技力を活かして誤魔化してきたけど、なんかこれからは無理な気がしてきたぁ…。
※誤魔化せてたと思ってるのは本人だけです。
「……………」
「うぅ~………って、理乃先輩?どうしたんですか?」
なんか目を見開いてフリーズしてる。
……あれ?素直に思ってることを言い過ぎた…?
「あ、貴女の事務所って……もしかして、恋愛禁止じゃないの?」
「え?……………あー、そういうことですか。確かに禁止といえば禁止ですよ。ただ、私は事務所と契約する際に、ある条件を提示してるんですよ」
「条件?それって、私が聞いて良いものなの?」
「はい。別に聞かれてないからメディアで公開してないだけで、隠してる訳じゃないですから。その条件なんですけど……」
私は理乃先輩に、事務所と交わした契約について話した。
それを聞いた理乃先輩は、頭に手をやって「なんというか、思ってたよりも自己中心的なのね。鹿野さんって…」と少しだけ苦笑いしながら言った。
敢えて完全に気付いてるとは教えない、少し意地悪な先輩。
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