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陰キャ男子高校生と天真爛漫なアイドル  作者: 結城ナツメ
恋に落ちる瞬間は不整脈
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桐ヶ谷理乃の、お料理教室

「桐ヶ谷理乃の、お料理教室ー」

「わー!」


 ほぼ棒読みなお姉の言葉に鹿野さんパチパチと拍手を送る。

 俺はというと、鹿野さんのスパイクを受け止めた腕をタオルを巻いた保冷剤で冷やし中。レシーブする度に腕がヒリヒリする思いをするので、恐怖しか感じない。


 ちなみに今でもボールは抱えてる。どこでも良いからボールに触っておくと良いらしい。

 理由はボールの扱いが上手くなるから。他にあったかは忘れた。


「理乃先生、今日は何を作るのでしょうか?」

「今日は私と誠が大好きな甘い卵焼きとハンバーグを作るわ。手はしっかり洗ったかしら?」

「バッチリです!」


 今日は卵焼きとハンバーグか。贅沢な夕食だ。卵焼きはいつも朝なのだが、珍しいな。

 お姉のハンバーグはナイフを入れたら肉汁が溢れて、スゲー美味いから好きだ。


 姉に胃袋を掴まれてる弟の図なのは自覚している。


「まずはハンバーグから。我が家では気分で変えるけど、大体は牛肉6に豚肉4の割合の合いびき肉を使うわ。だからいつも牛と豚、両方の挽肉を買ってる」

「ふむふむ」


 お姉の説明を聞きながらメモを取る鹿野さん。

 勉強会の時と同じ、クールモードだ。


「材料だけど、タネにする直前まで冷蔵庫で冷やしておくこと。少しでも温度が高いと、肉の脂が染み出してきちゃうから」

「あ。だからまだ材料を出してなかったんですね」

「そういうこと。だから鹿野さんが来る前に炒めておいた玉ねぎも、こうやって冷蔵庫に入れてるわ」


 冷蔵庫を開けて材料を見せるお姉。

 それを見て、鹿野さんは「ほぉ~」と声を上げる。


 そういえばお姉はハンバーグを作る1、2時間前には玉ねぎを炒めてたな。


「玉ねぎはやっぱり、きつね色まで炒めるんですか?」

「そうね。うちではそうしてるわ。好みで少し焦がしてる人もいるみたいだけど」

「ふむふむ。なるほどなるほど……」

「それじゃあタネ作りだけど、最初は肉と塩だけで練っていくわ。塩は肉のタンパク質を分解して粘り気が出るの。その粘りが、ナイフを入れるまで肉汁を出づらくさせるわ」


 言いながらお姉は大量の牛と豚の挽肉を冷蔵庫から取り出して、それを大きいボウルに入れていく。父さんと母さんの分も入ってるなあれ。まぁ一気に作った方が楽か。

 そこに塩を少し入れた後、小さめのボウルに入れておいた氷水に自分の右手を漬けて冷やし始めた。


「えー!?なんで手を冷やしてるんですか!?」

「さっき言ったでしょう?少しでも温度が高いと、肉の脂が染み出してくるって。一応さっき冷やしておいたのだけれど、念の為追い打ちを掛けておくわ。ほら、鹿野さんも冷やして」


 追い打ちて……まるで自分を痛めつけるかのような発言だな。

 でも実際そうか。自分の手を氷水で冷やしてんだから。


「は、はい。了解です…」


 鹿野さんは恐る恐る手を入れて、「ちべたっ!」と言いながら冷やし始める。

 その間にお姉は肉を混ぜ始めた。


「しばらく混ぜ続けて、自分の手が少しでも温かくなってきたらまた冷やすこと。人の体温って思った以上に料理に影響を及ぼすから、ハンバーグのような温度が重要な物では常に意識することね」

「は、はい。わかりました」


 お姉はしばらく混ぜて、鹿野さんにバトンタッチした。

 バトンタッチしたあと、また手を氷水に漬け始めた。夏とはいえ、ずっと手を低温にしたままにするのはなかなか辛そうだ。


「ふんぬ!結構重たいですね…」

「8人分入れてるからね。仕方ないわ」


「3人分多くね?」

「部活始めてから、誠の食べる量が一気に増えたからね。さすが育ち盛りの男の子。だから多めに作るわ」


 いくら何でもそんなに食べられる気しないんだが…。

 まぁ残ったら明日の朝飯になるだけか。


 朝から重いと思われるだろうが、俺は朝からでもいけるから大丈夫。むしろその方が嬉しい派。

 ちなみにお姉は無理派。食ったら腹を壊すそうだ。


 ハンバーグを練っていき十分粘り気が出てきたら、みじん切りされた炒め玉ねぎ、パン粉、牛乳、溶き卵、ナツメグ、胡椒、サラダ油を入れてさらに混ぜていく。

 そして何度か交代しながら練って出来上がったタネを、成形していく工程となった。


「や、やっとタネが出来た…。ハンバーグ作るの初めてじゃないけど、ここまで拘ったことなかったです…。お母さんもこんな冷たい思いをしながら作ってたのかな…」

「どうかしら?私みたいに拘る人はそういないと思うけど。結構面倒だと思うし」

「と、とにかく、次は成形ですね!」

「そうね。じゃあ鹿野さん、はい」


 言いながら新しく作った氷水を鹿野さんに差し出すお姉。


「えっと……もしかして?」

「今度は片手だけじゃなくて、両手を冷やしてね」

「桐ヶ谷君!一緒に作ろう!ずっと手が冷たいって結構辛いんだよー!」


 どうやら成形する時も手を冷やしながら作るようだ。しかも今度は両手。

 鹿野さんが思わず助けを求めてきた。


 しかしそんな鹿野さんの声に対し、俺は……


「俺も鹿野さんが苦しむ姿を見るのは辛いから頑張れー(棒)」

「だったら助けてよ!なんで応援するだけなの!?」


 許せ鹿野さん。俺は焼くだけならまだしも、成形するのは苦手なんだ。

 それにこれは鹿野さんの為に開かれた料理教室。頑張って切り抜けてくれ。


「ダメよ鹿野さん。今回は鹿野さんの為の料理教室なんだから、誠に助けを求めるのは禁止」


 お姉もこう言っている。

 お姉は人に物を教える時、結構スパルタなのだ。


「ぐぅ…。が、頑張ります…」


 その後、鹿野さんは涙目になりながらハンバーグを成形するのだった。

ハンバーグ大好き侍。毎日食べてもたぶんどこかで飽きる。

人間ってそういう生き物。


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