いつもと変わらない昼休み(笑)
実はこの作品ともう一つ新しく始めたファンタジー小説を、キネノベ大賞に応募しました。
それに伴って、5月までにファンタジー小説の文字数を10万文字にしないといけないんですよね。
なので、時々こうして更新はしますが、しばらくファンタジー小説にかかりっきりになります。
楽しみにして頂いている方々には大変申し訳ないのですが、どうかご了承の方をお願い致します。
「桐ヶ谷君桐ヶ谷君桐ヶ谷君!」
「なんだよ鹿野さん?うっせぇな」
「むぎゅっ」
昼休みになった瞬間に、鹿野さんが机を寄せながら俺の名前を連呼してきた。
物理的の距離の近さに、思わず鹿野さんの顔を押して離した。
「ぶーーー…。桐ヶ谷君って、あんまり対応が変わらないよねー…。今朝はあんなに優しかったのに」
「なんの話だかさっぱりだ」
少しは察してくれ。クラスの皆の前で急に対応が柔らかくなり過ぎたら怪しまれるだろ。
そりゃ、好きかもしれない女の子に対して、いつまでもこんな態度じゃダメだろうけども。
だからって、鹿野さんのアイドル人生を考えると『仲の良い男女』でいた方が良いだろう。それに、本当に好きか自信がないし…。
この辺は中学の時の噓告が原因だな。あのクソみたいなマドンナに騙されて以来、恋とか好きとか、そういうのがよくわからないままだ。
なんかこう……もうひと押し何かが欲しい。今のこの好きかもしれない状態を、ハッキリとした好き、と思えるような何か…。
……我が事ながら凄い面倒臭い恋だ…。自分のことなのに、ちゃんと好きなのかわからないなんて…。
「桐ヶ谷君ってば!聞いてるの?」
「ん?ああ、悪い…。考え事してた」
「ぶーーー…」
あ。鹿野さんがご機嫌斜めになった。
……まぁいいや。ほっとこ。どうせすぐ直る。
鹿野さんを無視して弁当箱を取り出そうとすると……
「ぶーーーっ!」
「ぐふっ!?ちょ、急に体当たりしてくんな!危うく弁当を落とすとこだったわ」
さらに機嫌を損ねてしまったらしい。ぶつかるようにして、腕に抱き付いてきた。
「うっ……それはごめんなさい…。でも、桐ヶ谷君がまた冷たくするから、寂しくて…」
寂しそうに上目遣いで言う鹿野さん。
その表情は破壊力満点で、ドクンと心臓が跳ねる音がした。
くっ!その顔は卑怯だぞ鹿野さん!?
「その……悪かったよ。クラスの皆の前では、以前みたいに接する方が良いと思って…」
「そんなの気にしなくていいよ。ほら、桐ヶ谷君のしたいようにして?」
「その言葉はあらぬ誤解を生むのでやめてくれませんかね?」
笑顔でとんでもないことを言う鹿野さんに注意しつつ、俺の腕から優しく引き剝がした。
そして俺は鹿野さんの頭に手を乗せて、ゆっくり動かして撫で始める。
「ほら。これで良いか?」
「うんっ。えへへ~」
へにゃ~と、だらしな可愛い顔をする鹿野さん。いや、これだけで機嫌が直るって、それで良いのかあんた…。チョロ過ぎて心配になるレベルだ。
「えへへ…。もっと撫でて~♪」
「はいはい…」
「あっはは。誠も手慣れたもんだなー」
前の席の隆二に笑われながら俺は努めて面倒臭そうな顔で、猫なで声で甘える鹿野さんの頭を撫で続ける。
本当はめっちゃ愛おしく感じて顔がニヤケそうだが、こうしてれば周りからはただ鹿野さんが俺に懐いてるだけって印象だけで終わるはずだ。
「くそー!桐ヶ谷ばっか良い思いしやがって!」
「見ろよ桐ヶ谷のあの顔。自分がどれだけ得してるかわかってないって顔だっ!」
「う・ら・や・ま・し~っ!」
「うるさいよ男子共っ。そんなに悔しいなら彼女作りなさいな」
「では大野さん!僕と付き合ってくださいっ!」
「それとこれとは話は別よおバカ」
「ちっきしょーーー!」
大野がまた男子の不純な純情を弄んでいるが、気にしない気にしない。
なんだかんだ鹿野さんの頭を撫で続けて5分程経ち、隣の教室から二条院さんと藤堂さん、そして遅れて総司がやって来る。
「お待たせ。女の子たちからラブレターを貰ってて遅くなったわ」
「それを女子である二条院さんの口から聞くことになるとは思わなかったよ…」
「結衣さんが桐ヶ谷さんに撫でられてます。ラブラブというのでしょうか?」
「らぶらぶ……えへへ~…」
「鹿野さん否定しろー」
はぁ…。なんだかんだ、この人らと一緒にいるのが当たり前になったせいか、面倒なんて感情が無くなってきたなぁ…。
いつものメンツが集まった所で撫でるのをやめて、弁当を広げる。
今日もお姉の卵焼きが美味しそうだ。お!唐揚げもある。
「桐ヶ谷君桐ヶ谷君桐ヶ谷君」
「はいはい何ですか?」
「はい、どうぞー!」
唐揚げを口に運んでいると、鹿野さんからまた名前を連呼される。
何かと思いそちらを見ると、少し焦げた卵焼きをつまんだ箸を俺に突き出していた。
「え……なに?」
「あーん!」
「いや、あーんじゃなくて…。こんな所でやる訳ないでしょ」
「あーん…」
断ったら不機嫌そうな顔でさらに卵焼きを近付けて来る。
デートの時にもこんなやり取りがあったぞこれ…。
「あ。問答無用な感じですか?そうなんですか?」
「あーんっ!」
「わかった!わかったからそれ以上無理に近付けるな!?」
さらに不機嫌そうにあーんを強要する鹿野さんに椅子から落とされそうになり、観念して卵焼きを口に入れた。
「ど、どう?」
「……甘じょっぱい」
「うっ…。もしかして、あまり美味しくない?」
俺の反応が素っ気ない為か、鹿野さんは暗い顔をする。
そんな姿も可愛く映るのだから、美少女というのはつくづく得だ。本人にその自覚が全く無いが。
「いや、美味い。これってもしかして……鹿野さんが作ったのか?」
鹿野さんの弁当は、確かあの恐ろしく若い鹿野母が作っている。
普段から作ってて、料理慣れしている人が卵焼きを焦がすなんてことは滅多にしないだろうし、少し卵焼きの形が歪だ。
「うん。久し振りに料理するから、お母さんに手伝ってもらったりしたんだけど…。ちょっと失敗しちゃった」
「ふーん……まぁこれはこれで好きだよ。ありがとう。また食べたいと思うくらいには美味しかったよ」
味付けは俺好みではないけど、一生懸命作った鹿野さんにそう言う。
作り手が言われて一番嬉しい言葉って、また食べたいって言葉らしい。言ってたのはお姉だけど。
「そ、そう?えへへ…。そっか~。じゃあまた今度作って来るね!」
「うん…。楽しみにしてる」
頬を赤く染めた鹿野さんにそう言って、周りの痛い視線を無視して自分の弁当を食べ進める。
「……………あ。イチャイチャは終わったでござるか?」
「イチャイチャしてねぇ」
「あ。今の撮ってたのだけど、ツブヤキに『ラブコメの練習』って投稿しても良いかしら?ドラマの良い宣伝になるわ」
「ラブコメにもドラマにも何の関係も無いんでやめてくれ…。ていうか今すぐそれを消せ二条院さんっ!」
そんないつもと変わらない(?)昼休みを過ごした。変わらないったら変わらない。そう思うことが大切だって偉い人も言っている。
「そういえば、『こんな所でやらない』と言ってましたが、他の場所ならあーんは受け入れたということですか?」
「……(勘の良い)藤堂さんなんて嫌いだよ」
「え!?そんなっ!ご、ごめんなさい!どうか嫌わないでくださいっ!」
「いやごめん。今の完全に俺が悪かったわ…。だからガチ泣きしないでくれ頼むから。周りの視線痛いからっ」
藤堂さんの純粋さを侮ってはならない。
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