デート3
寝落ち常習犯、結城ナツメです。
パンケーキを食べ終え、鹿野さんから「桐ヶ谷君の行きたい所があったら、そこに行きたい!」と提案されたので、服を買いにショッピングモールへと向かった。
今着ている服は、俺が持っている服の中でも比較的見栄えが良い物を選んだ結果、こういうコーディネートになった。
俳優をやるのであれば、もう少し服のバリエーションを増やしておかないと格好がつかないだろう。
ということで、ショッピングモールへと足を運ぶこととなった。
……ちなみに、パンケーキの間接キス云々はお互い意識しているが、なるべく忘れるよう心掛けている。
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パンケーキの店から歩いて30分ほどで、7階建ての大きいショッピングモールに着く。
電車を使った方が早かったのだが、鹿野さんが歩きたいと言ったので徒歩でここまで来た。たった30分でも、現代っ子からしたら徒歩はそこそこキツいだろうな…。
「ふんっふんっふ~ん♪あ、いつの間にか着いちゃったね」
と言っても、30分も歩いてれば雑談のネタなんてすぐ尽きる。
お互いの趣味嗜好から話を広げようにも、俺は別に鹿野さんみたいにコミュ力お化けでもないし、お互いアニメ好きだけど総司みたいに熱く語り合えるほどお互い熱中している訳でもない。精々ネタがわかるくらい。
だというのに、鹿野さんは会話が無くてもずっとこんな風に鼻歌を歌っていて上機嫌であった。
「楽しい時間って、本当にあっという間に終わるよね~」
「本当に楽しかったの?半分以上、俺相槌しかしてなかったけど…」
「うん!だって桐ヶ谷君と一緒にいるだけで私、なんだか幸せなんだもん」
ドキッと心臓が跳ねる。
恐らく鹿野さんは無自覚だろうけど、勘違いさせるような発言をしないで欲しい…。この人は俺を騙した女子と違って、全て本心で言葉を発するってわかってるから余計に心臓に悪い。
「さいですか……あのさ、鹿野さん」
「なぁに?」
ただ、このままだと負けた気分になるので少し仕返しさせてもらおうと思う。
「俺も、鹿野さんと一緒にいるのは、その……幸せに、感じる…」
「……うぇっ!?」
俺の発言に鹿野さんは顔を赤くする。
……これ、言ってる方も恥ずかしいな…。
「……なんてな。さっきの自分の発言がどんなもんか、わかったろ?」
「えっ?……ああ…。う、うん…」
「ほれ、さっさと行こう。早くしないと日が暮れる」
「あ…。う、うん…」
恥ずかしさを誤魔化すように、鹿野さんを後ろに伴うようにして服のコーナーへと向かった。
その時、鹿野さんが少し寂しそうな声をしていた気がした。
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「じゃーん!この服とかどうかな?」
試着室のカーテンを開けて姿を見せた鹿野さん。彼女は今、ツブヤキでも度々ネタに使用される白の縦セーターを着ていた。袖が無いタイプの。
元が美少女だから、似合ってて凄い可愛いと思う。それに少し色気を感じる。
「うーん…。似合うけど……セーターって、もっと落ち着いた人が着てそうイメージだからなぁ…」
「む。つまり私は、落ち着きが無いって言いたいの?」
「自分の言動の数々を顧みたらどうかな?」
頬を膨らませながら抗議する鹿野さんにそう返すと、すぐに思い至ったのかシュンと落ち込む様子を見せた。
「そうか…。じゃあ、これはやめて別のにしようっと」
そう言って、また服を物色し始める鹿野さん。
……なんだろう。ちょっと罪悪感ある…。
ちなみに俺の服だが、鹿野さんが俺に似合うとオススメしてくれた服をいくつか買うだけで終わった。
俺の買い物なんてそんなものだ。服を買う時はいつも誰かが一緒にいるパターンが多く、似合うと言われた物を買っていくスタイルだ。
自分で自分をコーディネートしようものなら、黒一色にしかならないからな。
それにしても、お姉もそうだけど、鹿野さんもよく男のコーディネートが出来るな。
やはり男に求めている物があるのだろうか?
お姉の好きな相手は総司な訳だが……アイツのコーディネートは、何着てもヲタク衣装にしかならなそうなメガネを外すことから始めるべきだな…。
鹿野さんが好きな相手って……と、考えたところで頭をブンブンと振る。今はそんなことを考えてはいけない。なるべく平静に装っているのに、そんなことを考えては……
「おーい。桐ヶ谷く~ん?」
「ん?お、おう……なんだ?」
と、そこで鹿野さんから声がかかる。
考え事していたせいで、少しどもってしまった。
「大丈夫?なんだか難しそうな顔してたけど?」
「ああ。大丈夫。ちょっと、これからの俳優人生に不安を覚えてただけだから」
「全然大丈夫じゃなさそう!?」
「大丈夫だって。不安なんて、誰しも抱く感情なんだから。それよりも、買う物は決まったのか?」
「う~ん。他に欲しい物は無かったし、いいや。また今度で。えっと時間は……桐ヶ谷君、もうちょっとだけ良いかな?せっかくだし、アクセサリーも見たくて」
俺もスマホで時間を確認する。16時前か…。
「良いよ。うち特に門限とか無いし」
「私も特になーし!じゃあ、もうちょっとだけ」
そうして訪れたは、雑貨屋さん。
帽子やらお香やらアクセサリーやら……色々な物がある。
「わあ!思ったより色々あるー!」
キラキラと目を輝かせる鹿野さん。
……そうだ。せっかくだし、この間お見舞いに来てくれたお礼に、鹿野さんに何かプレゼントしよう。
消え物が無難だろうけど、鹿野さんのおかげで俺は前を向けるようになったんだ。アクセサリーの一つくらいプレゼントしても良いだろう。
そう思い、俺も店内を見て回るが……うん。ファッションに疎い俺が、どれが良いかとかわかる訳ないよね!
「もう少しファッションの勉強しておけば良かったな…」
こういう時、本人に欲しい物が無いか聞けば良いんだろうけど、たぶん鹿野さんは遠慮しちゃうだろうしなぁ…。
と、そこで一つ思い至った。
……さっき俺の意見を聞いて買うのをやめたセーター……あれなら鹿野さんも喜んでくれるだろう。
「……鹿野さん。俺ちょっと買い忘れた物があるから、そっち行って来る。すぐ戻ってくるから」
「うん。わかった」
鹿野さんに一言断って、俺は鹿野さんへのプレゼントを買いに行った。
昨日は寝落ちしてしまい、すみませんでした!
次回は鹿野さん視点の予定です。
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