デート2
また一気にブクマが増えて嬉しい限りです!
映画を観終わった後、俺と鹿野さんは例のパンケーキの店に来ていた。
昼を過ぎた辺りの時間なのだが、まだ結構お店は混んでいた。幸い、テーブル席が一つ空いていたのでそこに座ることが出来た。
「あの映画凄かったな…。まさか最初の何でもないような会話が、ヒロインの重大な過去に繋がるなんて思いもしなかった」
「恋愛映画って結構先の展開がわかりやすいんだけど、今回のは全く予測すら出来なかったよ」
言いながらメニューを眺める鹿野さん。
恋愛映画は、成就する系と悲恋系があって最初の段階でどっちになるのかわかりやすいのだが、今回のはマジで主人公とヒロインの恋が叶うのか叶わないのか全くわからなかった。
互いが相手の幸せを考えてしまう、あと一歩が足りないもどかしさとドキドキ感のおかげで、キャラに感情移入しやすかったのもまた良かったと思う。
「なんだかんだ二人は付き合ったけど、どこかで大きなすれ違いが起これば疎遠な関係になり、ずっと気まずいまま卒業式を迎えて永遠の別れという悲しい結末に……なんてことも有り得そうな映画だったな」
「あはははは。そこまで重たく考える必要はないと思うけど。よし!私はこの『ふっくら幸せパンケーキ』にする!」
鹿野さんは注文が決まったらしい。俺は映画館で上映までの待ち時間あの間にお店の一番人気を調べておいたので、それにすることにした。
呼び出しボタンを押すとお店が忙しいからか、女性の店員さんが少しだけ息を切らしながらやってくる。
「『生クリームたっぷりミックスフルーツパンケーキ』と『ふっくら幸せパンケーキ』をお願いします」
「かしこまりました。生クリームたっぷりミックスフルーツパンケーキは、外側サクサクかふわふわを選べますがどちらに致しますか?」
「へぇー。そんなサービスがあるんだ。じゃあ、サクサクで」
「かしこまりました。お飲み物は如何致しますか?」
「あ。私ココア」
「コーヒー。ブラックで」
「かしこまりました。店内大変混み合っておりますので、少々お時間かかります。ご了承ください」
「はーい」
注文を聞いた店員さんがそそくさとカウンターの裏へと消えて行く。
「意外だな~」
店員さんが去った後、ふと鹿野さんがそんなことを言う。
「意外って、何が?」
「桐ヶ谷君が随分女子力高い物を頼んだこと」
「はぁ?」
「こういうお店って基本的には女性のお客さん多いから、どうしても女の子向けの商品が人気商品になるんだよ。桐ヶ谷君が頼んだパンケーキは確か、言葉以上に生クリームたっぷりだった気がするなぁ。しかもパンケーキが三枚積み重なってたはず」
「ああ、そういうことね。画像で見たから知ってる。まぁ大丈夫だろ」
「でも甘い物は好んで食べるほど好きじゃないって言ってなかった?」
「よく覚えてんなぁ…」
ドラマ撮影中に言った些細なことをよく覚えてらっしゃる。
「別に好みじゃないからって、嫌いって訳でもないよ。こういう店に来ることはあまり無いから、せっかくなら食べてみようと思っただけ」
「そうなんだ」
「ていうか俺の言ったことを覚えているなら、なんでこの店を選んだんだ?」
甘い物がどうのという話を覚えているなら、いくら人(主に俺)を巻き込む鹿野さんも事前に大丈夫か聞いてくると思う。
「あー…。それは、なんて言うか……私の好きな物を桐ヶ谷君に知って欲しかったっていうか…」
「俺に?」
「うん。なんかよくわからないけど、そう思ったんだ。逆に、桐ヶ谷君の好きな物も私は知りたい」
なるほど。鹿野さんが急にデートを誘ってきた理由はそれか。
これからドラマ関係でも長い付き合いになるんだし、相手のことを知っておいて損はないわな。
「俺の好きな物……それって、食べ物関係?」
「うん!趣味は漫画とアニメとゲームっていうのは、普段の会話からでもわかるけど、食べ物のことはお米ってこと以外は聞いたことない気がするなぁ」
確かに、いつも鹿野さんの言うことに返事してるだけだったからな。自分から鹿野さんに何か聞いたり、好きな物を言ったりすることは少なかった。
まぁ元々他人に興味が無い俺から何か聞くなんて、そうそう無いか。
「そうだな……基本的に好き嫌いは無いけど、パッと思い付くのはピーマンの肉詰めかな?」
「え?凄い予想外な回答でビックリ…」
「だろうな。でも苦手な物は強いて上げるならピーマンだ」
「なんで?」
「単純にあの苦味が苦手なんだ。でもなぜかピーマンの肉詰めはその苦味が消えてくれるから、普通に好きだ。苦手な食べ物を美味しく食べれるから、余計に印象が強い」
『嫌いとか苦手な食べ物は、料理で好きな物にしてしまえば良い』
というのは、母さんが言っていた言葉だ。料理は科学。科学に不可能はあんまり無いそうだ。
全く無いとは言わない辺りが非常に好感を持てる。
「大変お待たせしましたぁ。生クリームたっぷりミックスフルーツパンケーキとふっくら幸せパンケーキ。それとココアとブラックのコーヒーをお持ちしましたぁ」
しばらくお互いの好きな物や苦手な物などを語っていると、注文を受けた人とは別の女性が料理をカートに乗せて持ってきた。
「ありがとうございまーす!あ。幸せパンケーキは私です」
「どうもー」
「他に届いてない商品はありますかぁ?」
「いえ、これで全部です」
「かしこまりましたぁ。それではごゆっくりどうぞぉ」
そう言って、店員さんは去って行った。
「それじゃさっそく、いただきまーす!」
「いただきます」
生クリームたっぷりとは言っていたが、なるほど……画像で見た物よりたっぷりだ…。三段重ねのパンケーキごとに生クリームが塗られており、フルーツもテンコ盛り。
頼んでおいてアレだが、胸焼け必至だな。
「うーん!美味しい~♪」
一般家庭ではまず出来なさそうな、ふっくらと大きく膨れたパンケーキを幸せそうに頬張る鹿野さん。
鹿野さんの周りにキラキラと星が舞ってるように見える。
俺もナイフとフォークを使って、上の段を切って口に入れる。
……甘い。けどこの生クリーム、見た目の割にあまりしつこくないな。これなら甘い物が得意じゃない人でも十分美味しく食べられるだろう。
パンケーキも外がサクサクで中がふんわりしていて、凄く美味しい。
「どう、桐ヶ谷君?美味しい?」
「うん。美味い」
「本当?良かった~。桐ヶ谷君の口に合って」
「ああ。これなら俺でも食べられる。こっちのパンケーキも食うか?」
「良いの?……じ、じゃあ……あ、あーん…」
俺がこっちのパンケーキも食べるか聞くと、目を閉じて口を開けた。
……………え?
「し、鹿野さん?何をしてらっしゃるの?」
「うっ……は、恥ずかしいから、指摘しないで…」
じゃあやるなよと言いたいが、顔を真っ赤にしながら言う鹿野さんにまた心臓が高鳴るのを感じ、それを抑え込んで平静を装うことしか出来ない。
ていうか、周りにお客さんいるんですけど…。
「じらさないでよぉ。は、早く……あーん、して?」
やめろ!上目遣いで甘えた声を出すんじゃない!?いくら他と比べて枯れてる方とはいえ、俺も男だ。そんなことされたらドキドキしちゃうでしょうが!
「わ、わかったよ…。ほら、あーん」
適当な大きさに切ったパンケーキを半ばヤケクソ気味に鹿野さんの前に持って行くと、恥ずかしいそうに、だけど笑顔を浮かべながら自分の口の中に入れた。
少し鹿野さんには大きかったかもしれない。口を動かすのに苦労している。
ていうか、やってる方も恥ずいなこれ…。少々顔が熱く感じる。
「もぐっ……もぐっ………あ、甘い、ね?」
「そりゃ、パンケーキだしな」
「えっと……それじゃ、お、お返しするね!」
そう言って鹿野さんは、自分のパンケーキを切って俺の前に持ってくる。
「いや、俺は別にいいよ」
「あーん」
「えっと…?」
「あーん!」
口を開けない俺に対して頬を膨らませながら、あーんを強要してくる。
いかん。デートでは女の子の機嫌を損ねてはいけないらしい。鹿野さんなら頭を撫でれば直るだろうけど、いつまでもそれが通用するとは思えない。
……………仕方ない。大人しく受け入れるか…。
「あ、あーんっ…」
鹿野さんのパンケーキを口の中に入れる。だが、甘い以外の感想が出て来ない…。
恥ずかしさのあまり、味覚が仕事していないぞ。
「ど、どう?」
「……めっちゃ甘い、としか…」
「あはは……だよね?私も同じ感じだった…。これ、やる方も恥ずかしいね?」
「そうだな…」
あーんの感想を言い合ってると、鹿野さんは急にハッとした顔になり、ボンッと顔を真っ赤に染めた。
「え!?どうした急に!?」
「こ、ここここここ、これって…」
鹿野さんが自分のフォークと俺のフォークを指さしながら言う。
一体フォークがどうしたと言うのか。
「か、間接キスというものでは…?」
「は…?」
間接キス……間接キス……間接キス……………間接キスッ!?
「は……え………あ、ああ…。そう、だな。自分のフォークで相手に食べさせたんだし、間接キス……だな…」
「はうぅ…」
プシューと、煙でも出そうなほどさらに顔を真っ赤に染める鹿野さん。
たぶん俺も顔赤いと思う…。
「あらあら。若いって良いわね~」
「そうねぇ。初々しくて可愛いわ~」
「良いな~、あれ。うちも彼氏欲しい」
「ほんとそれ。あんな甘々な感じでイチャついてみたいわぁ」
そんな周りの声を聞きながら、俺と鹿野さんはしばらく無言のままパンケーキを食べていた。
思ったよりも時間がかかってしまった…。
書いてる最中にリアルの姉がパンケーキを作ってくれたんで、タイムリーすぎて少し笑ってしまいました。
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