監督という物、言葉
個人的に江月監督がめっちゃ好き。
放課後。俺は江月さんに打ち合わせ場所として指定された五階建ての芸能事務所の、少し離れた所にいた。
シリウスがこちらで活動している間、借りている貸家のような物だ。シリウスのドラマに出るんだし、ここを指定するのはわかる。わかるけど……あれは一体どういう状況?
「なんで俺ではなく、あんなぽっと出の一般人を採るんですか!?俺の方が演技が上ですし、容姿だって断然上です!」
事務所の前では、江月さんが一人の男性と言い合いになっていた。
その男性は、天野大翔。俺が演じた男子高校生役をやるはずだった、若手イケメン俳優だ。
俺から見た天野大翔は、飛び出して来た猫を踏みそうになり、避けた拍子に土手の階段から落っこちた間抜け……ではなく動物に優しい人と知られて世間からの株が上がったイケメン俳優という印象。
現在は全治三ヶ月の怪我の療養中のはず。足を怪我したと聞いてるけど松葉杖もしていないし、普通に元気そうだった。
「うーん。容姿はともかくとして、演技に関してはやっぱり桐ヶ谷君の方が上かな~。ボク的には」
「どこがですか!?あんなまともに感情を込めずにやる演技のどこが!」
ああ…。なんとなく流れは理解した。
たぶん自分の代わりに出たのが、やたらと冴えない俺なのが納得行かなかったのだろう。それも俳優ではなく、ただの一般人。
俺の演技は思わず涙が出てしまう物らしいが、やはり本職の俳優からしたら拙い物だったのかもしれない。
「何を言っている?それが良いんじゃないか。君がやる予定だった男の子の設定を考えれば、尚更ね」
「設定?」
「君だって資料には目を通しているはずだろ?『他人に興味がなく、休み時間に話す友達がいても基本一人で遊ぶことしかしない男子高校生。趣味はゲームや漫画、アニメ鑑賞。成績はかなり優秀で、帰宅部なのに運動神経が抜群。だけど愛想が無いし、口も悪い上に顔も良いって訳じゃないから女子からモテるなんてことは一切ない。だけど心根は優しい男の子』。彼はこの設定を体現している奇跡の男なんだよ!ただ演技がそこそこ上手いイケメン俳優を起用するよりも、ずっと良い人材だと思わないかい?」
「なっ……」
おいおいおいおいおいおい。あの人、天野大翔のことをそこそこの俳優って罵ったぞ!正気かあの人?
天野大翔は額に青筋を浮かべて、今にも江月さんに掴みかかりそうな雰囲気だ。
実績を残して来た俳優としてのプライドを傷付けられたら、そりゃそうなるよ。たぶん一発殴って良いレベルで江月さんは言い過ぎだ…。そうなったらさすがに止めるけど。
「さぁ。まだ反論するかい?監督自ら必要ないと言われた以上、君たち俳優はもう大人しく引き下がるしか無いだろう?どうしても出たければ、相応の実力を付けてから出直して来てくれたまえ。都合さえ合えば、いつでも面接してあげよう」
「くっ……後悔しますよ?俺を採らなかったこと」
「しないさ、絶対に。ボクは、ボクの全てに自信を持っている。自分の選択に後悔なんてしない。どの職業においても、監督というのは後悔してはいけない立場だからね。仮にしている暇があったら、さっさと次の企画を考える。私にとってそれが監督という物であり、言葉であり、それを体現しているのが私だ。そんな私が、“既に磨き終わっているありきたりな原石”よりも、“磨けば確実に光り輝く稀少な原石”を選ぶのは至極当然のことさ」
江月さんの全てを見透かして、見据えているような目で真っ直ぐ見つめられ、言いたい放題にそう断言された天野大翔は思わずたじろいだ。
今の天野大翔の心情はなんとなくわかる。あの目をしている時の江月さんは、怖い。
ただの恐怖だけではない。得体の知れない何かを感じる。
全てがそうじゃないだろうけど、まるで江月さんの言っていることが正しいと信じ込まされる、謎の重みと雰囲気がある。あの人の言葉には、そういう洗脳じみた怖さがあった。
そんな江月さんに対して、蛇に睨まれた蛙のように黙り込んでしまう天野大翔。そのまま言葉を発することなく、こちらへと歩いて来る。
そこで俺の存在に気付いたようで、目が合った。
「……桐ヶ谷誠…」
「どうも、初めまして。天野大翔さん」
めっちゃ睨んで来る…。こうなったのはあんたの不注意で怪我したせいなんだから、逆恨みは勘弁して欲しいな…。
「俺は認めんぞ」
「はぁ……まぁさっきの話を聞く限り、そうでしょうね」
「俺は、何の努力も無しに世間から認められたお前が嫌いだ」
「はぁ。そっすか」
「俺の努力を嘲笑うかのように一気に名を上げたお前を、いずれ踏み越える。シリウスの恩恵を受けただけのお前より、俺の方が優れてると世間に知らしめてやる」
そう言い残して、俺の横を通り過ぎて行く。
……へぇ。正々堂々と演技で勝負するんだ。なんか卑怯な手でも使って来そうな雰囲気だったけど、あれなら無視しても良いかな。
俺は別に、どっちが上かなんてどうでもいいし。
こちらをニヤケ顔で見ている江月さんの所に行くと、江月さんは俺の両肩を掴んで来た。
「いやー。ありがとう、桐ヶ谷君。君がいれば百人力だよ~」
「大袈裟な気がしますが、そう言ってくれて少し嬉しいです」
「少しか~。まぁいいや。さっそく打ち合わせをしよう!シリウスの皆もいるから、顔合わせも済ませちゃおう」
「さっきの状況はスルーの方向ですか?」
「~♪」
口笛で誤魔化された。
……あ。また俳優やるって皆に言うの忘れてた。あとでLITIしよ…。
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まだまだ先の予定ですが、次回作を書く時の参考にしたいです。
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