自分を変える為に
徹夜でテンションが可笑しい作者。
昼休み。俺はスマホ片手に、校舎裏に来ている。
いつもなら無理矢理鹿野さんたちと一緒に昼食を食べさせられてるのだが、今スマホに表示されてる人はこの時間でないと暇が無いらしい。
だから鹿野さんたちには先に食べてもらっている。早く戻らないと鹿野さんがうるさいし、さっさと済ませよう。
周りに誰もいないことを確認して、電話をかける。するとワンコールで出やがった。出待ちしてたなこの人…。
『やぁ桐ヶ谷君。まさか君から連絡が来るとは思わなかったよ~』
「待ってるみたいなこと言ってませんでしたっけ?」
『首を長くしたままでは、気持ち悪くてね。明日か明後日辺りにこちらから返事を伺おうと思っていたんだ。それで、さっそく返事を聞いても良いかな?』
「……はい」
電話越しであろうとも、こちらを見透かしてそうな声に対して若干の嫌悪感を抱きながら返す。
本当、この人は苦手だ…。鹿野さんよりも面倒な相手と言っても良いくらい。
少し間をおいて、俺は用意していた返事を答える。
「出させてください。もう一度、貴女のドラマに」
そう言うと、相手は電話越しでも口角を上げてニヤケているのがわかるほど、上機嫌に喋り出す。
『……もちろんだとも!むしろ、こちらからお願いしているんだ。一度と言わず、何度でも君の申し出を受け入れよう!さっそくだが、学校終わった後は時間はあるかい?次回の撮影からさっそく桐ヶ谷君を使いたいんだが、その打ち合わせと台本を君に渡したいんだ』
「事前に準備してやがったな、この鬼畜監督野郎…」
先ほどのやり取りに少しデジャブを感じつつ、俺をしつこくスカウトして来た鬼才で色々と鬼畜な監督、江月さんにそう言った。
『野郎だなんてそんな……ボクに息子は付いていないぞ☆』
「なんか一気に出る気失せたっす…」
鬼畜という部分は否定しなかったな…。
『そう言わないでおくれよ。給料はぁ……そうだな、100万が妥当だろう。だから出ないなんて言わないでおくれよぉ』
「それ、絶対妥当じゃないっすよね…?」
本来、主役に支払うような額を提示してくる江月さんと、また一緒に撮影するのが怖くなって来た。なぜかって?
金額相応かそれ以上の無茶な要求をしてくるからに決まってんだろ…。
こりゃまた死んだように眠る毎日を送ることになりそうだ…。
―――――――――――――――――――――――――――
俺がもう一度俳優をやることは、まだ誰にも伝えていない。江月さんの様子からして、無いとは思うが断られる可能性だってあったから。
仮に断られても別に良かった。俺がまた俳優をやろうと思ったのは、自分を変えたくなったからだ。
自分を変えるのに、俳優じゃなきゃダメなんてことは無い。他の事でも自分を変えることは出来るだろう。
……まぁ、俳優の方が都合は良いっちゃ良いけれど。俺を見てくれる人は多いだろうし。
“誠を見てくれる女の子はいる”
お姉のその言葉をそのまま信じる訳ではないが、まぁ世間は広い。こんな俺を好きになってくれる女子は、少なからずいるのだろう。客観的に見てそう思ってるだけで、俺自身はそうは思っていない。
仮にいたとしても、中学の時みたいに裏切られるのがオチとしか思えない。
それじゃダメだ。相手に失礼だし、傷付けてしまう。
だから変わらなきゃいけない。俳優業で変われるかはわからないけど、テレビで注目される職業ならば、きっかけにはなるはずだ。
……あ~。それにしても……
「……俺なんかに三ヶ月もハニートラップ仕掛けて来るとか、あいつら凄ぇ暇人だったんだな」
俺を陥れた奴らを思い浮かべながら呟く。「一周回って俺のこと好きだろ?」と言ってやりたくなって来た。
あいつらは県外の高校だけど、もし会うことがあったら嫌味ったらしく言ってやろう。
鹿野さんのおかげであのトラウマはあまり気にならなくなったから、ニチャア顔で言える自信があるわ。
そんなことを考えながら教室に戻ると、扉を開けた瞬間誰かが抱き付いて来た。
「おかえり~桐ヶ谷く~ん。私は一人寂しくご飯を食べてて凄く寂しかったよ~」
言うまでもなく、アイドルとしての自覚も、女子としての自覚が全部破綻している鹿野さんだ。
「いや、全員集合してるじゃねぇか。しかもプラスアルファで谷口までいるし。あと日本語可笑しいぞ」
「大事なことなので二回言ったよ!」
「……………」
隆二と総司という俺の幼馴染だけでなく、二条院さんと藤堂さんのシリウスメンバーがいて、さらに谷口もいるのに何が一人寂しくだ。
むしろ楽しそうな会話が廊下まで聞こえてたわ。
俺の胸に頭をぐりぐり押し付けて来る鹿野さんの頭を撫でながら、ゆっくり引き離す。
俺は学んだ。強引に引っぺがすのではなく、優しく引っぺがすと鹿野さんは大人しく引き下がることを。
現ににへら~と幸せそうな顔で大人しく俺に撫でられている。可愛いけど、ちょっとだらしない…。
さらに撫でてやると、またさらにだらしない顔になるのだから、面白い人だ。
「えへへ~。桐ヶ谷君のなでなで気持ちいい~…」
「さいですか」
「ン゛ン゛ン゛!拙者は今、砂糖菓子を食っているのでござるか!?やけに米が甘いでござる!」
「安心しろ総司。今この場にいる全員がそう感じている」
俺と鹿野さんのやり取りに、総司と隆二がそう言う。
確かに傍から見たら甘い光景だろう。だが安心しろ男子諸君。これは鹿野さんを落ち着かせる為の行為だ。だからその嫉妬と恨みと殺気を収めてくれ…。
「で?なんで谷口までいるんだ?」
俺は席に戻りつつ、誕生日席に座っている谷口を見ながら言う。
「僕は藤堂さんに誘われたんだよ」
「藤堂さんに?」
「はい。谷口さんにバレーについて色々教わりたくて、誘いました!」
「凄く真剣に聞いてくれるから、教えがいがあるよ」
「谷口さんのバレーの話はとても勉強になるので、つい聞き入ってしまうんです」
「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ」
……なんか、甘い雰囲気という訳ではないが、俺と鹿野さんに近い空気があるのは気のせいか?凄くぽわぽわとした感じだけど。
「いやはや。誠殿と鹿野殿も大概でござるが、あのほっこりとした空気も胸焼けするでござるね…」
「勝手に焼けてろ」
総司の言葉に適当に返事して、自分の弁当を開ける。早く食っちゃわないと昼休みが終わってしまう。
「あれ?桐ヶ谷君と早乙女君のお弁当の中身、一緒じゃない?」
「は?」
そう言われて、俺の弁当と総司を見比べる。確かに一緒だ…。
先に食べていたから、総司の弁当の中身は半分くらいしか残っていないが、その全てが俺の弁当と同じだった。
「あ~…。これは理乃せ……殿が拙者に作ってくれた弁当でござるよ」
「「「え?」」」
総司の発言に、俺以外の皆が反応する。谷口まで反応してるのを見るに、お姉のことを知ってるっぽい。
「理乃って、桐ヶ谷理乃先輩のことだよね?桐ヶ谷君のお姉さんの」
「そうだけど、なんで谷口が知ってるんだ?」
「そりゃ、校内屈指の美女なんだから知ってて当たり前だよ」
「当たり前なんだ…」
美少女を通り越して美女と呼ばれている姉は嫌いじゃない。と、ノルマの如く考える。
しかしお姉って、下の学年にまで知られてるのね。美人なのはわかってたけど、我が姉ながら凄いわ…。ラノベヒロインみてぇ。
「そういえば、お姉が総司の為に弁当を作るって言ってたな」
マジで総司の胃袋を掴みに行ったんだな…。お姉、相当惚れ込んでんな。
「聞きました二条院さんとこの奥さん?愛妻弁当ですって」
「聞いたわ~冴木さんとこの旦那さん。しかも私たちの周りが、いつの間にかこんなにも甘々な雰囲気を発する人たちで溢れかえっているなんて思いもしませんでしたわ」
自分たちにそういう相手がいないからって、茶化し始める隆二と二条院さん。
藤堂さんと谷口は普通にバレーの話で盛り上がっているだけだと思うけど…。
「ていうか、お前らも仲良いじゃねぇか…」
F○Oで千子○正を二枚引いてほっこり。
宝具演出が完全に衛宮○郎。魔力回路とか音楽とか色々。
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