谷口歩1
年末ですねー。
今日の一時間目の授業は体育のバレー。一時間目からの体育は怠いと言ってる奴らがほとんどだが、男子は動き始めれば何だかんだはしゃぎ倒す。女子は鹿野さんだけ賑やか。
最初は対人パスの時間で、総司と行っている。
「いやー。さすがの拙者も理解したでござるよ。誠殿にも、やっとまともな春が来たでござる、ねっ!」
俺がトスしたボールを総司が『バチン』と軽い音を発たせて打つ。ボールは大きく横に逸れたが、スライディングして高く上げ、総司がカバーに入った。
「そんなんじゃねぇよ。何かしらあったのは認めるけど、鹿野さんとはお前が考えてるような関係じゃねぇよ」
「そうなんでござるか?結構、仲睦まじそうでござったが」
「そうだ、よッ!」
総司がたまたま上手にトスしたボールを、七割くらいの力で『バァンッ!』と音を発たせて打つ。
すると、真正面で受けた総司は「ぶべぇっ!」と声を出しながら後ろに転がった。
総司がやったレシーブはスパイクの威力を自身の後ろに逃がして、ボールを綺麗に上げる為のモーションだが……そんなのやる必要あったか?
「総司。大丈夫か?」
ナイスレシーブしたボールをキャッチして、対人パスを中断して総司に声をかける。
なんかめっちゃ痛そうに腕抑えてる。
「だ、大丈夫じゃないでござる…。お主、そこそこ体格しっかりしてるんだから、もうちょっと手加減をせねば相手の腕がもげるでござるよ…」
言われて総司の腕を見てみると、凄い赤くなっていた。貧弱過ぎね?
「七割くらいの力で打ったんだけど…?」
「誠殿は本当、昔からそうでござるなっ!」
総司は俺に詰め寄り、怒ってるような口調で喋る。
「生まれながらの身体能力と誠殿の父君から少なからず受け継いだ身体を自覚して欲しいでござる!運動部かってくらい良い身体してるんでござるよこの細マッチョ!」
「細マッチョて…。それ悪口のつもりか?まぁ、それなりに筋トレしてるしな」
「それだけではござらん!拙者のハイ〇ュー知識から見るに、誠殿はしっかりと体重をボールに乗せていたでござる。拙者の腕だけスパイクとは天と地の差でござるな」
「アニメ知識なのはどうかと思うけど、まぁ無意識にそれはやってたかも…」
「かぁーっ!これだから運動能力の高い輩は!どうして初心者に難しいことを平然とやってのけるのか、不思議でござる」
「鹿野さん程じゃないんだがな…」
「拙者からしたら、どっちも変わらんでござるよ」
俺はただ打っただけなのに、なぜこんなにもキレられてるのだろうか…。
とりあえず総司のご機嫌取りに、さっきの綺麗なレシーブを褒めることにしよう。
「で、でもよ総司。お前もさっきのレシーブ凄かったじゃねぇか?ボールの勢い殺せてたし、凄い綺麗なフォームだったぞ?」
そう褒めちぎると総司は笑顔になっていき、ドヤ顔を決める。チョロっ。
「そうでござろう!真正面ではあったが、我ながら百点をもらっても良いレシーブだったと思うでござる」
「実際の試合は、真正面なんて来ないけどな」
「そこはそれ、日〇のようにコースを読むとか」
「三つ、四つもある情報を瞬時に整理して、コースを絞れるのかよ?日〇だって練習に練習を重ねて、レシーブが出来るようになったんだぞ」
「うぐっ…」
「はーい。次スパイクねー」
ハイ〇ューを例えにして総司に現実を突き付けていると、中津先生から皆に声がかかる。この間と同じように、バレー部がセッター役をやってスパイクをどんどん打ち込んで行くようだ。
俺と総司も列に並ぶ。
地に足がついた状態では、下半身で身体を支えている為ボールに力を加えやすい。だが空中では、己の体幹だけが頼り。
身体を横に捻らせて+仰け反らせ、スパイクする時に一気に身体を前に持って行って、ボールに手が当たるタイミングで腕に力を込める。
これがスパイクのコツであり、理想のスパイクフォームだと思う。でも実際にやろうと思っても、空中で身体を動かすというのはかなり難しい行為だ。バレーのようなほぼ空中競技みたいなのに慣れていないと出来ないと思う。
列が進み、総司の番になる。
「オープン!」
形から入る総司は、堂々と配球を要求する。
オープンというのは、スパイカーに余裕を持たせる高くて緩やかなトスのこと。総司みたいな初心者はまずこれを打てるようにならないといけない。
バレー部の谷口がトスを上げて、総司がそれを打つ。俺との対人パスの時よりも軽いスパイクだ。
「くあー!やはり空中で打つのは難しいでござるな」
「ドンマイ。次、桐ヶ谷君だね?」
谷口がニヤリとこちらを見る。俺がスパイク打つのがそんなに楽しみだったのか?
谷口からのチャンスボールをレシーブして、トスを上げてもらう。そのトスを見て思った。
綺麗過ぎる、と。
そのトスは、この間俺が気持ち良くスパイクを打った時と同じ高さだった。オープントスだからって、セッターはただ高くボールを上げるだけではない。選手によってジャンプの高さは違うし、打ちやすいボールの位置も違う。
大して合わせてもいない選手へのトスなんて、どれくらいが丁度いい高さなのかなんてわからないだろう。
だけど、谷口が上げたトスは凄く完璧だった。まるで俺の打ちやすいボールを、完全に理解しているかのようだった。
俺は前回同様に全力で飛んで、理想のスパイクフォームを取る。腹にぐっと力を入れて身体ごと腕を振り下ろすと、鹿野さんよりも強烈なスパイク音が鳴り響いた。
……………気持ちいい…。
「よっし!」
着地して谷口を見ると、ガッツポーズをしていた。
イチャイチャさせる布石はゴロゴロ転がっている。
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では皆様。よいお年を!




