『恋』
独白だけでも甘く感じる…。
桐ヶ谷君はしばらく泣き続けた。今まで吐き出して来なかった想いを、口にして。
彼の過去を聞いても、私にはどうすることも出来ない。だけどせめて、安心させてあげたかった。
私は桐ヶ谷君を、ちゃんと見てるって。
結果、桐ヶ谷君は私に身体を預けてくれた。甘えるって言って良いのかわからないけど、抱え込んでた気持ちを吐き出してくれた。
それだけで十分、桐ヶ谷君にとっては甘えてる行為なんだと思う。桐ヶ谷君って、普段からキッチリしてるから、誰かに甘えるのが苦手なんだろうな。
「……すぅ……すぅ…」
「ん?桐ヶ谷君?」
身体にかかる重みが増えて、桐ヶ谷君から寝息が聞こえて来た。
「泣き疲れちゃったんだ…。ふふっ。さっきはあんなに苦しそうな寝顔だったのに、今凄く可愛い寝顔だよ?桐ヶ谷君」
泣き疲れて私の胸で寝ちゃった桐ヶ谷君の頭を優しく撫でる。
するとくすぐったそうに身をよじって、さらに私の胸に顔を埋めて来た。
「ちょっ!?さ、さすがに恥ずかしいよ!桐ヶ谷君!?」
「うぅん……しか、の………」
寝言で私の名前を呼ぶ桐ヶ谷君。そして……
「……く……好き…」
その言葉を聞いて、私はフリーズした。
もしかして今、桐ヶ谷君の夢の中で、私は告白されてる?
いやいやいやいや。そんなことある訳ないよ。
確かにさっきまで桐ヶ谷君は、私に甘えてくれてたけど、それで好きになるなんて桐ヶ谷君がまるでチョロインというか……
しかしそんな私の思いとは裏腹に、桐ヶ谷君の寝言が耳に届く。
「しか……の…………もっと……」
ちょっとー!私は今桐ヶ谷君に何されてるの!?いや、この感じだと私が桐ヶ谷君に何かしてる?い、一体私は、何を求められて……
「もっと…………ほし、い…」
ボンっと、私の中で何かが爆発した音がした。
そしてドンッと桐ヶ谷君をベッドに突き飛ばして、ダッシュで桐ヶ谷君の部屋から出る。
さらにそのままの勢いで、あまりの恥ずかしさから桐ヶ谷君のお家から逃げるようにして、ダッシュで出て行った。
理乃先輩に声をかけられた気がするけど、それを気にしてる余裕は無かった…。だって私、今……
「……顔が熱い……熱いよぉー!ありえないくらい熱いぃー!」
それに心臓もうるさいくらい高鳴ってる。細胞が働き過ぎて過労死してしまうくらい、心臓の動きが早い。私はただ走ってるだけじゃ、こんなにはならないくらいの体力がある。
ならばこの胸の高鳴りは、恥ずかしさだけではない、この高鳴りは……
「どうなってるのー!?私ーッ!」
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それからどれだけ走ったかわからない。熱が引く頃には、私は珍しく息を切らしていて、日は完全に沈んでいた。
真っ直ぐ家に帰る気にもなれず、ずっと遠回りし続けて走ったお陰で、少し頭が落ち着いて来た。
ふと、傍にあったカーブミラーで自分の顔を見てみた。
熱は引いた感覚はあったが、凄く真っ赤だ。触ったら火傷しそうなくらい真っ赤っか。
夏に入ったとはいえ、夜はまだ少し涼しいはず。それなのに涼しさをほとんど感じられない。私の顔は今、どれくらい暑いのだろうか。
それに……
「私……ニヤけちゃってる…」
カーブミラーに映った私の顔は、真っ赤な顔と一緒に、気持ち悪いくらいニヤけていた。
ぐにぐにと掌で頬をいじる。赤を残して、ニヤけ顔は無くなる。だけど、すぐにまたニヤけ顔になる。
「……好き…………桐ヶ谷君に、好きって…」
ただの寝言だとわかっているのに、それに凄く嬉しいと感じる自分がいる。
アイドルになってからは無くなったけど、その前は男の子に度々告白されることはあった。
だけど特に嬉しいとは思わず、「へぇ~」くらいにしか思ってなかった。つまり告白して来た男の子には興味が無かったということ。
だけど、桐ヶ谷君は……
「私、嬉しいんだ……桐ヶ谷君に好きって言ってもらえて…」
心臓が高鳴る。だけどさっきと違うのは、恥ずかしさによる物ではないということ。
ドキドキする…。幸せを感じてる時の、ドキドキだ。
「これって、もしかして……私は、桐ヶ谷君のことが…。いや、でも、でもぉ~……」
こんな感情を抱くのは初めてだ。だからわからない。確証を持てない。初めて異性に対してドキドキしてる私のこれは……………『恋』、なのだろうか?
……………やっぱり初めてだから、わからない。でももし……もし私の思ってる通り、これが恋という感情なら……
「……そうだったら…………いいなぁ…」
私は綺麗な星が浮ぶ夜空を見上げながら、そう呟いた。
「それに……桐ヶ谷君にだったら、私………ってぇ!何を考えてるの私ーッ!?」
自分の身体を抱くようにして、思わず色々とすっ飛ばしたことを想像したことに対して恥ずかしくなり、またしばらく走り続けてから家に帰った。
わかってる人がほとんどだと思いますが、鹿野さんはアレがかなり強いです。
恋って聞くと、逃〇恥の主題歌を思い出します。例に漏れず、当時私もよく踊りました。
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