悪夢
例によって話の伸ばし方がわからない…。
久し振りに夢を見た。もうほとんど忘れていたはずの、中学の頃の夢だ。
放課後の教室。クラスの陽キャ連中が、馬鹿にするようにニヤけた顔でこちらを見ている。
そして俺の正面に立っている一人の女子。俺に嫌悪感を隠さずに、見下すような目で見ている。
彼女は言った。
『―――――――あんたみたいな陰キャ野郎を好きになる女子なんて、いる訳ないじゃん』
そう言った後、彼女と陽キャ連中はさらに馬鹿にするようにして笑う。
俺は怒るでも悲しむでもなく、胸にポッカリと穴が開いたような感覚に襲われ、その場に立ち尽くしていた。
――――――――――――――――――――――――――――――
『テレッテーテン♪テレッテーテン♪―――――』
昨日のバレーの影響でダウンロードした、ハイ〇ューの初代オープニング曲で目を覚ます。
……なんか、酷い夢を見たせいでめっちゃ気持ち悪い。吐き気がヤバい…。
今更あんな夢を見るなんて……自分で思うより、結構気にしてたのかもな。
『―――――――あんたみたいな陰キャ野郎を好きになる女子なんて、いる訳ないじゃん』
「……………うっ!?」
俺は部屋を飛び出して、トイレに駆け込んだ。
出すものが存在しない胃袋からは、代わりの胃液が出る。口の中に広がる悪臭のせいで、嗚咽も止まらない。
「おえ……くそが…。うっ、おあぁ…」
しばらくして、漸く落ち着く。
どのくらい吐き続けたかわからなかった。未だ治まる気配の無い吐き気。そしていつもならすぐ忘れるはずなのに、脳にこびりついたまま離れない夢。
中学の頃の記憶が、まさか今になって夢に出るとは思わなかった。完全に昨日のお姉の言葉のせいだ…。
「……飯…」
食欲は湧かないが、人は朝食を食べないとまともにやっていけない生き物だ。少しでも口に入れとかないと…。
そう思いリビングに向かうが、気持ち悪いせいで歩くのもしんどかった。身体もやたら重たい。自分の身体じゃないみたいだ。
やっとの思いでリビングに着くと、お姉が無言で体温計を差し出して来た。
「……何急に?」
「さっき吐いてたでしょ?それに顔色もかなり酷い。ほら、座りなさい」
……まぁ、あんなに急いでトイレに駆け込んでたら、何かと思って様子を見に来るよな。
お姉の言う通りに、引いてくれた椅子に座ってから体温計を脇に差す。
「大丈夫?」
「全然…。貧血みたいな感覚だ」
「赤血球が一気に死滅してしまったのかしら?」
「冗談のつもりなんだろうけど、割とそれっぽいから笑えねぇ…」
なんの理由も無しに細胞が死ぬとは思えないが、今の俺にちゃんと相応の血が流れてるのか怪しいものだ。椅子に座ってないと、倒れてしまいかねない程に。
「急にどうしたの?そんなに具合悪くなって」
「お姉があんなこと言うからだろうが…。そのせいで中学の頃の夢を見たんだよ」
「……やっぱりまだ、気にしてたのね…」
「自分でもビックリだよ。こんなになるほど、引き摺ってたなんてな……我ながら情けない…」
「情けなくなんかないわ。あんなことされたら、人によっては人間不信になって引きこもりになりかねないんだから」
お姉に頭を撫でられながら励まされる。
この年になって姉に頭を撫でられるなど、少し気恥ずかしいが、今は甘えることにしよう。
「なんだか、思い出したらまた腹が立ってきたわ。あんなに素敵だった誠を、こんなにしてくれたんだから」
「小学校の時から基本こうだったろう?」
「基本的には、ね。でも……」
そう言って、お姉は俺を抱きしめて来た。
……………え?なんで俺、抱きしめられてるの?いくら姉弟といえども、いくら他の男子に比べて枯れているといえども。美人で巨乳なお姉に抱きしめられたら、少し意識してしまうぞ?
「あの……なぜ抱きしめられてるの?俺」
急に抱きしめらたことに戸惑っている俺を無視して、お姉は続ける。
「でもね、誠……あんなことが起こる前の貴方は、もっと笑っていたわ」
「……………」
「もちろん、今も笑うことはあるわ。だけど……ちゃんと心の底から、笑えているとは思えない…」
「お姉…」
そこで、体温計から計り終わった音が鳴る。
お姉に離れてもらってから、体温を見てみる。
35.5と表記されていた。
「俺の基礎体温、36.5なんだけど…」
「貧血ね。今日は学校休みなさい。先生には言っておくから」
「はぁ……わかったよ…」
まぁ、なんとなく休むことになるとは思っていた。
だから大人しく自室に戻って、ベッドに横になった。
しばらくして、お姉がおかゆを持って来てくれた。
「野茂瀬先生、ビックリしていたわ。さすが去年度に皆勤賞を取っただけあるわね。それじゃあ、私は学校に行くわ。食べ終わったら、机に置いといて良いから」
「あいよー」
お姉はそれだけ言って、部屋を出ていく。そういえば、休むのは何気に初か…。
部屋に一人残された俺は、おかゆに口を付ける。さすがお姉、良い塩加減。ただのおかゆなのに、めちゃくちゃ美味い。
おかゆを食べ終わり、布団をかぶる。なかなか寝付けなかったが、それでも横になってれば嫌でも眠りにつくのが人というものだ。
「……鹿野さん、心配するだろうなぁ…。明日うるさそうだなぁ…」
俺が休んだことに一番騒ぐであろう女の子を思い浮かべながら、夢の中へと落ちて行った。
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