バレーボール
『きのとやサブレー 福かしわ』を食べた。
口の中に入れた瞬間、凝縮されたバターが口いっぱいに広がる感じが好きです。
テスト返却が全て終了し、6時間目の体育。今日から体育はバレーボールの授業に入る。
「うおー!ストレス発散だー!」
「はい!発散です!」
鹿野さんと藤堂さんは、無事赤点を回避することが出来た。ほとんどの教科は70点以上だったが、二人共英語だけ50点台とやや心配が残る結果に。
将来多かれ少なかれ英語を使う場面はあるので、先生を引き受けた身としてはしっかり勉強して頂きたいです。
鹿野さんと藤堂さんは授業開始前にバレーボールで壁打ちしていた。見ての通り、勉強のストレスを発散しているのだろう。
藤堂さんが打つとボールから可愛いらしい音が発つが、鹿野さんのボールからは破裂音の如く大きい音が発っていて、この場にいる全員が男女関係なく顔面蒼白状態だ。レシーブしたら腕もげそうだもんな。
「はーい。もうすぐチャイム鳴るから整列しろよー」
中津先生が皆を整列させたタイミングでチャイムが鳴り、号令がかかる。
「今日からバレーを始めるんですけども、正直先生はバレーはちょっと苦手でオーバーパスしか出来ないので、バレー部が見本になってくれると助かります。二年のバレー部は、何人いるの?」
先生が聞くと、手を挙げたのは男子一人、女子二人の合計三人。うちの高校のバレー部はどっちも強い訳ではないので、人数は常にギリギリ状態だ。
「うーん……もう一人、現役じゃなくても良いから経験者が欲しいかな~。中学の頃やってたって人はいない?」
「あ。だったら私良いですかー?経験ないですけど、見本になれるくらいには得意です!」
「お。じゃあ四人は前で見本をお願いします」
そう言って手を上げたのは、鹿野さんだった。
彼女の場合、どんなスポーツもそつなく熟せるだけの運動神経を持っているから、適任だろう。下手したらバレー部より上手い可能性も微レ存。
「それじゃあ、まずオーバーハンドパスとアンダーハンドパスの練習から入るから、四人はその見本を頼むわ」
先生の指示に従い、女バレは二人で、鹿野さんは男バレの奴とペアになってオーバーの見本を見せてくれる。
そこに先生がオーバーのコツを説明してくれる。
「まずはオーバーからね。オーバーは両手を頭より少し前にして上げるパスで、手は三角の形にしてください。ボールを上げる時、手は真上に上げるんじゃなくて、少し前の方に上げることね」
先生の説明から少しの間オーバーの見本が続き、続いてアンダーの説明に入った。
「アンダーは見ての通り手を組んで、腕を使ってボールを上げるんだけど、これよく勘違いしてる人が多いんだよね。よく見るとさ、ほとんど腕動いてないよね?」
先生に言われて見てみると、確かに見本になってくれてる四人は、腕をほとんど動かすことなく、ボールを上げている。
使ってるのは膝だ。膝を屈伸させて、そのバネの力だけでボールを上げているようだ。
「腕だけでやっちゃうとボールはあらぬ方向に飛んでいっちゃうから、片足を前に出して、なるべく膝を使うのがアンダーのコツね」
「せんせー!コツを知っているのに、なぜ先生は出来ないのですか?」
藤堂さんが天然故の無邪気さで、そんなことを聞く。だけど先生は特に気にした様子もなく、その質問に答えた。
「いやこれね。やってみたらわかるんだけど、すっごい難しいのよ。初心者はいつの間にか腕だけでアンダーやっちゃってるから」
見本を見せてくれてるバレー部の三人は「あー…」という声を漏らす。全員経験があるらしい。
鹿野さんだけ首をかしげているのは、そんな経験も無しにアンダーが出来たんだろう。運動神経が神がかっている人間は違うね。
「それじゃあ、それぞれペアになってパスの練習をしてください」
先生の合図で、皆好きな相手とペアになる。そんな中、俺に話かけて来た相手は……
「よーし!頑張ろう桐ヶ谷君!私が手取り足取り、教えてあげるよ!」
「当然のように俺をペアに選ぶ君が恐ろしくてしょうがないよ…」
まぁこうなるよな…。だけど正直教えてもらう必要は無い。
「遠慮させてもらうよ。もう覚えたし、なんならもともとバレーのコツはミーチューブの動画見て予習してたし」
「えー。私は桐ヶ谷君と一緒にやりたーい」
「出来ない人とペアを組めよ。絶対その方が良いって」
「ぶーーー…」
「可愛くむくれても、やりません」
俺がそう言うと、鹿野さんは顔をキョトンとさせる。
今度はなに?地味に怖いんだけど…。
「ねぇ。もう一度、言ってくれない?」
「だから、一緒にはやらないって…」
「その前」
「えーっと……可愛くむくれても…?」
そう言うと、鹿野さんは「えへへ~」とだらしな可愛い笑みを浮かべる。
今日の鹿野さんはいつにも増して変だな。
「そっか~。可愛いか~。えへへ~」
「……………二条院さーん。鹿野さんが壊れたー」
「はぁ……りょうかーい…」
とりあえず二条院さんにおかしくなった鹿野さんを預けて、総司と一緒に組むことにした。
「あれー!?ハイ〇ュー全巻読んで勉強したのに、なぜ思うように出来ないんでござるか!?」
「だから先生が難しいって言ってたろうが……ほれ、無理せずオーバーやれー」
総司がアンダーであらぬ方向に飛ばしたボールを、俺もアンダーで返す。我ながら綺麗なフォームで上げれたのではないでしょうか?
「ナイスカバーでござる!」
「ハイ〇ューに染まり過ぎだ…」
総司はその後もボールを乱し続けて、俺がずっとカバーし続けた。
……………やっべ、バレー楽しい…!
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しばらくパス練習した後、先生から声がかかる。
「はーい。次はスパイクねー。これはとにかく思い切りジャンプしてボールを叩くだけだから、どんどん打って行けよー」
バレー部の三人がセッターになってボールを上げていき、他の奴らは思い思いにスパイクを打っていく。
ただボールを打つだけがスパイクではないのだが、授業で打つコースだのブロックアウトを狙うだの、そんな難しいことを言う必要は無いだろう。
なお全てハイ〇ュー知識。
「スパイク超気持ちいいー!うりーっ!」
「結衣、少し落ち着きなさいって…」
これまた男子顔負けの強烈スパイクを打って、最高にハイになっている鹿野さんとそれを宥める二条院さん。
あんなのレシーブしたら、しばらく腕の感覚無くなりそう…。
そんな風に考えていると、俺がスパイク打つ番になった。
「なぁ。他の奴よりも高く上げてくんね?極端で良いから」
「え?……うん。わかった」
男バレの谷口(150センチくらいの童顔の可愛い系男子)に高くトスをしてくれるよう頼む。やったことないけど、たぶん他の奴よりかは高く飛べると思うから。
谷口は訝しげな顔をするが、要望通りボールを高く上げてくれる。さっきまで上げてた奴よりも二倍くらい高い。
俺はタイミングを計って助走して、その勢いを殺さず、全て利用するようにして全力で飛んだ。
ドンッ!と蹴った床から大きな音がして、気付いたらネットから胸まで出ていた。
初めて全力でジャンプしたけど、まさか自分がネットから胸が出るくらいまで飛べるとは思わなかった。
その為、落ちて来るボールとのタイミングが合わず、掌ではなく、前腕でボールを打ってアウトにしてしまった。
「凄い!桐ヶ谷君ってあんなに高く飛べたんだね!」
着地すると同時に、谷口が目をキラキラ輝かせながら言ってくる。眩しいから今すぐ引っ込めて欲しい。
「ああ。自分でもビックリだけど…」
「凄いなー。普段どんなトレーニングしてるの?」
「えっと……筋トレとランニング以外は、特に何も…」
「そうなんだ……ねぇ。後で話があるんだけど、良い?」
「……………嫌だ…」
嫌な予感がしたのと、後がつっかえてるので話はそこで切り上げて、俺は一言断って列に戻った。
ちなみに次に打ったスパイクは、谷口のトスが上手かったのもあり、大変気持ち良く打てました。(丸)
高校時代バレー部でした。
強いスパイクをレシーブした時は、スパイクより気持ちいいと感じることがありました。あと腕が痛かった…。
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