ドラマ放送日
今回話の伸ばし方がわからなかったので、また短いです。すみません…。
「いよいよね?誠」
「胃が痛い…」
揶揄うように言ってくるお姉に、今の俺の気持ちを全部丸投げしたい…。
今日はいよいよ、急にスカウトされ、急に主要人物をやらされたシリウス主演のドラマ『アイドル警察♪シリウス』の放送日だ。緊張して胃が痛い。
リビングには有休を取った母さんと父さんもいる。
「う~ん!久し振りに母さんの手料理を食った!腕は落ちてないな」
「赤飯炊いただけで大袈裟よ」
「そんなことないぞ!俺にとって、母さんの料理が世界一美味いからな!」
「そ…」
父さんの言葉に、母さんは目を逸らした。目を逸らすのは、父さんに嬉しいことを言われて照れた時の母さんの癖だ。
これでもしっかり父さんに惚れてる証拠だな。人前でイチャイチャしないで欲しいけど…。
……………ん?なぜだろうか?なんかブーメランが帰って来た気がする…。
「理乃理乃。楽しみね?誠の演技」
「母様母様。楽しみですね?誠の演技」
「鬼の双子かよ…。つうか言う順番が逆だ」
「母様母様。楽しみですね?誠の無様な演技」
「理乃理乃。楽しみね?誠の哀れな演技」
「言い直さんで良い!しかもちょっとキャラを寄せやがって!?」
良いよなぁ、当事者じゃないから気が楽で。俺は今日ずっと緊張しっぱなしだ…。
自分に出来ることは精一杯やったが、所詮俺は素人。そんな俺の演技を観て、視聴者は楽しめるのだろうか?
「自信持ちなさい、誠。PVしか観てないけど、母さんは十分上手いと思うし、違和感は特に感じなかったわ」
「最初にそれを聞きたかったな……まぁ励ましてくれて、どうも…」
「お!始まるぞ!」
ドラマ前のバラエティ番組が終わって、とあるライブ会場が映し出される。
始まった。これはドラマの導入部分で、最初にシリウスの実際のライブ映像が流れるのだ。
『彼女たちはシリウス。たった一年で、日本中から愛されるようになった国民的アイドルユニットである。だがそれは……あくまで表の顔に過ぎない―――』
杉谷智也さんのそんなナレーションから始まり、ドラマの本編が流れた。
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警視総監の阿賀瀬に召集されたシリウス。闇取引の現場を抑えて、警察の手から何度も逃れている、正体不明の首謀者を捕まえるよう阿賀瀬から指示される。
その捜査をする為に転入した学校にいた協力者、桐ヶ谷誠のことが気になり、グイグイ距離を詰めていく鹿野さん。自分のことで複雑だったけど、学校の出来事を再現したシーンは、まるでほのぼの日常系アニメを観てるみたいだった。
俺がアドリブを効かせた、例の幼馴染の恋人シーンでは、それを観た父さんは目頭を抑え、母さんと姉さんは無表情のまま涙を流していた。なんてシュールな光景…。
そしてドラマの一番の見せ所である俺と鹿野さんのアクションシーンでは、次々と襲い掛かって来る敵や罠を突破していくだけでなく、マジで鹿野さんに蹴飛ばされたカメラマンもいたお陰で、洋画さながらの迫力あるアクションシーン満載だった。
特に落とされたデカい鉄球から逃げる中、長さ五メートルの超深い溝を飛び越えるシーンは家族全員盛り上がっていた。
俺はギリ腕が縁に届いたが、鹿野さんが惜しくも届かず、鉄球と一緒に溝の底に落ちて行きそうになった。そんな彼女の手を何とか掴んで救いあげるシーンは、皆固唾を飲んで見守っていた。
最終的に首謀者の正体がわかり、捕まえることに成功するのだが、なんと首謀者は警視総監である、阿賀瀬だったのだ。
そりゃ正体なんてわからない訳だ。警視総監の権力で、いくらでも事実を隠蔽出来るんだからな。
一度エンディングを挟んでから流れた最後のシーンは、俺が飛行機に乗って北海道の千歳空港に着いたシーンだ。
俺が空港のロビーまで行くと、そこにいた一人の人物を見た時に驚きで顔を染めて、手に持っていた鞄を落とす。
顔は映し出されなかったが、長い綺麗な髪の毛から、女の子だというのがわかる。
彼女が抱き付いて来て『おかえりなさい』と囁くように言うと、俺は涙を流しながら『ただいま』と言って、次回予告に移った。
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「誠。三回目のトレンド一位おめでとう。『桐ヶ谷誠の演技にいつの間にか涙を流していた』って凄い好評よ」
「うっそだろ…?」
お姉からその言葉を聞いて、安心すると同時に、一株の不安を覚えた。
「江月さんからの勧誘が、よりしつこくなりそうで怖い…」
「あら?誘われてるなら続ければ良いのに。そうしたら母さん、仕事を辞めて楽になれるわ」
「おお!つまり、わざわざ母さんと休みを合わせることも無くなるということだな!誠、俳優続けてみないか?俺と母さんの為に!」
「少なくとも父さんの為に続けたくないな~…」
「なんでよ!?」
「父さんの喜ぶ姿がウザいから」
「母さん!息子が冷たい!」
「ざまぁ」
「母さん!?」
その日の晩は、遅くまでドラマの感想を言い合っていた。
目の前で俺の演技の感想を語られると気恥ずかしかったが、「気付けば涙を流していた」と言われた時は、正直ちょっと嬉しかった。
伊吹○子の声優が悠○碧さんなので、絶対引く!
桐ヶ谷誠に対して、お前が言うな!と思ったら、
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