ババとあやちんと、親バカ&孫バカなジジ
作者の昔の実話が多分に含まれています。ご了承ください。
「やー!待ってたよ皆、去年振りだね~」
北海道の千歳空港に着いてそうそう、孫好きのババ……橘菫が優しい笑顔で出迎えてくれる。
もう90歳のはずだが、まだ還暦を迎えたばかりに見える容姿だ。さすが母さんの親だ。血筋が垣間見えるし、凄く元気だ…。家族だけど本当に90歳か疑いたくなる。
ババは毎年こうやって、孫の顔が早く見たいが為に迎えに来てくれるのだ。
ちなみにババの一人称はオレ。元は田舎言葉らしいから、女性が使ってもおかしくないらしい。
あと、ババの他にもう一人出迎えてくれた人がいる。こちらも運転手として毎年出迎えてくれる人だ。
「なんかまた大きくなったんじゃない?誠」
「少しだけだけどね。ババもそうだけど、あやちんも元気そうで良かった」
「おう。元気だよ」
あやちんこと、斎藤彩菜さん。ジジの牧場で住み込みで働いている独身女性だ。
血筋は無いはずだが、ババと同じ環境で生活しているからか、46歳なのに20代に見える。うちの家系は他人様にまで影響を与えるらしい。
あだ名のあやちんは、母さんがそう呼んでいたからそれに習って俺とお姉もそう呼んでいる。
今は真面目だが、昔は凄く後ろ向きでズボラな性格だったらしく、そのせいか結婚願望が昔から無い。歳も歳だが、普通に美人だし、探せば引く手数多だろう。
話はそこそこに、皆で車に乗り込む。
迎えの車はランクルなので、六人全員が乗れる。
道中、あやちんが俺に俳優について話を振ってきた。
「そういえば観たよ誠、ドラマ」
「ああ、やっぱりあやちんも観たんだ…」
「そりゃあれだけニュースになればね。菫さんと富一さんも一緒に観たよ」
「そうそう!孫が芸能界デビューしたって聞いた時は、本当に嬉しかったよ。さすがはオレの孫だってね!」
「ありがとう二人とも。ただ気恥ずかしいからあまり話題に出さないでくれると嬉しい…」
身内に俳優について話されると、背中が痒くて仕方ない。
ただでさえ滞在中に『クイズ!家族王決定戦』を観ることになるんだ。俺の心は休まる気しない。
「はっはっは!母さん、誠があんなに恥ずかしがってるぞ。これは写真に納めるべきだな」
「やめときなさい。後で誠にボコられるだけよ。あとうるさいから口閉じてて」
「え?誠って、そんな野蛮人だったっけ?」
――――――――――――――――――――――――
車に揺られること四時間。オホーツク海側の田舎町にある、母さんの実家に到着した。
時刻はもう夕方。今日はババの飯食って風呂入って、後は寝るだけだ。
「ただいまー!ジジィ、孫たちが来たわよー」
家に入ってすぐ、ババはジジを呼ぶ。
するとリビングの扉が開かれて、仏頂面のヤクザみたいなお爺さんが出てきた。
「おう。ゆっくりしてけや」
橘富一。近所の子どもにはいつも泣かれてしまう程の強面で、戦争経験者。
戦時中に出来た顔の傷も相俟って、ヤクザの総長みたいな見た目をしている。
だけど実際は、俺たちが来る度に―――
「毛ガニと刺身を大量に買ってある。デザートにスイカとメロンもあるぞ。明々後日はうちの肉を使ってバーベキューだから、楽しみにしてろ」
こうしてごちそうを用意する程の、親バカ&孫バカである…。
「毎年悪いわね、親父」
「気にすんな。爺の出来ることなんざ、美味いもん用意することだけだ。悪びれずに食え」
母さんはジジのことを、親父と呼んでいる。
お父さんと呼ぶと「おうなんだ?何が欲しいんだ」と言い出すので、親父呼びにしたらそれが無くなったから親父呼び。
聞いただけでわかるだろ?親バカだって。
「誠。今年はどれくらいいられるんだ?」
ジジが何故か俺だけにそんなことを聞いてくる。
「え?いつも通り一週間だけど。それがどうかした?」
「……いや、俳優業で忙しいかと思ってな。そうか……いつも通りか…」
そう言ってジジは、リビングに引っ込んだ。
……なるほど、そういうことね。今年は一緒にいられる時間が少ないのではと不安になっていたのか。
母さんには姉妹がいる。上に一人、下に一人だ。今年は帰って来れないらしいが。
そんな母さんから聞いた話なのだが……実はジジは、男の子が欲しかったらしい。
そんで初孫が出来ると思えば、その子はもちろん俺の姉な訳で……そこでもうジジは男の子は諦めていたらしい。
だけどそんなタイミングで、二人目の孫が男の子。つまり俺だとわかると、誰よりも喜んだと言っていた。物欲センサーって奴だろうか?
ちなみに要らない情報かもしれないが、母さんの姉は独身。妹は結婚して最近は子どもも産んだが、その子は女の子だ。
どれだけ男に恵まれてないのかわかるな…。
だからジジは今、心の中では大はしゃぎしていることだろう。それくらいの孫バカだ。
「今年もお世話になります。お義父さん」
「おう。お前も遠慮せず食ってけ。それと、後で晩酌に付き合えや」
「ええ!もちろんです!」
父さんとジジの仲は普通に良好である。
ただこの二人、初対面の時お互いにビビってたという話だ。
方やヤクザみたいな容姿のジジ。方や同じ日本人とは思えない筋肉モリモリマッチョマンの父さん。
うん。なんとなくわかる。見慣れてない人から見れば、この絵面は怖いわ…。
こうして並んでるのを見てると、ヤクザの総長と若頭に見えるからな。
―――――――――――――――――――――――
「あ!バーベキューで思い出した!そういえば皆に言い忘れてたことがあったぞ」
ババが刺身と毛ガニの準備をしていると、突然そんなことを言い出す。
「ああ。あのことですか?すっかり忘れてましたねぇ」
「なんだ。言ってなかったのか?」
ババの言葉に対して、あやちんとジジも反応する。
桐ヶ谷家の面々は何の事かわからず、首をかしげる。
「実は明々後日、うちの牧場にテレビの取材があるのさ。その時来る芸能人に、うちの肉を食べてもらう予定なんだ」
「あら?そうなの。うちも大きくなったわね」
「そうなんだよ。まさかうちが取材を受けることになるなんて思いもしなかったさ」
「まぁ不思議じゃないわね。質の良い牛を出荷してるんだし。……あ。だから明々後日にバーベキューなのね」
ババの説明に母さんは、へぇーといった感じで頷いている。
ジジの牧場は牛を育てている。
毎年食べているが、ここの牛肉は柔らかくてジューシーで本当に美味い。明々後日のバーベキューも楽しみにしていた。
しかしテレビの取材かぁ…。面倒だから家で待機しておこうかな。
ああでも、こっちにいる間は牧場の手伝いもしなきゃいけないんだよな。その時は顔にモザイク掛けてもらうか。こっちにいる時くらい、一般人として暮らしたいからな。
……そんな俳優(俺)の意見が通ればいいが…。
「なんていう番組?」
お姉が興味本位で番組名を聞く。その質問には、あやちんが答えた。
そしてそれは、俺がよく知ってる番組であった。
「曇天☆夕立レストランっていう番組だよ。誠も出たやつ」
「マジでか。じゃあ芸能人ってのは宮海さんか」
あの人とはとことん縁があるなー…。てことは取材というより、ロケってことだな。
夕立レストランのスタッフは良い人たちばかりだから、ワンチャンモザイク処理してくれるかもしれん。
しかし、そうなると夕立レストラン定番のゲストが登場するはずだよな?大御所とかには来て欲しくないぞ…。
「ゲストは誰か聞いてんの?」
「ああ、それなんだが……ゲストの人が体調を崩したらしくてな。今代わりの人を探してるそうだ」
「ふーん」
その後は夕立レストランのことで持ち切りになり、お姉と母さんはマスクと伊達メガネをかけて料理担当で出演すること。父さんはテレビに出ないこと。
俺は出来ればモザイク処理してもらうことを条件に、明々後日の夕立レストランに臨むことになった。
急な話だったが、まぁ適当に牛の育て方を説明すれば良いだろ。たぶん。
――――――――――――――――――――――――
「シリウスの皆さん。お疲れ様です」
「お疲れ様ー!波川ちゃん」
「「お疲れ様です!」」
「実はさっき、急な仕事の依頼が舞い込んで来たのだけど、行けるかしら?北海道のオホーツク海側にある田舎町で―――」
「んー?でもその日って確か、ドラマの撮影日じゃなかったっけ?」
「それを明日にして、その後か明後日には北海道に行くことは出来るわ。江月監督も了承してくれてる」
「それでしたら全然行けそうですね!」
「予定をかなり詰め込むことになりそうだけどね。まぁ、スランプ真っ只中の結衣がそれに着いて来れればだけど」
「大丈夫大丈夫!桐ヶ谷君のおかげで、今の私は不調寄りの絶好調だから!」
「それは安心していいものなの?」
こうしてシリウスは、急な仕事が舞い込んだことにより、北海道へロケをしに行くことになった。
農家出身の方なら理解出来ると思いますが、大きく太った食肉用の動物を見ると「美味しそう」「ああ、早く食いてぇ!」という感想ばかり出て来ます。
※個人の見解です。
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次は「神様は純粋な者にこそ、夢のような力を与える」を投稿します。
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