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陰キャ男子高校生と天真爛漫なアイドル  作者: 結城ナツメ
陰キャ男子高校生と天真爛漫な―――
108/112

漫画のキャラみたいで面白い

「全く。先輩に向かって帰れとは、良いご身分だな?桐ヶ谷君」

「すんません。天野さんって俺のこと嫌いだから、いじめられると思ってつい本音が」

「いじめるかっ!俺をそんな器の小さい奴らと一緒にするな!」


 嫌いっていうのは否定しないのね。否定しない男は良い男よ、なんて。


 今俺と天野さんは、彼の楽屋で二人きりで話をしている。家族は外へ行ってるらしく、話すならここが一番都合が良いらしい。

 別に嫌味とかいじめとか、そういうことをしに来たのではなく、単に同業者として話をしに来たらしい。

 わざわざ嫌いな奴と親交を深めようとする大人の精神。そこは普通に尊敬するわ。


「それで、話っていうのは?」

「なに。君もこれから俳優としてやっていくんだろ?しかも例の復帰回でまだまだ話題沸騰中だ。そんな人物と、表面上だけでも仲良くしておきたいと思うのは不思議じゃないだろ」

「表面上と、隠す気が無い人は割と好きですよ」

「君に言われても嬉しくないね―――あのドラマ、見事な演技力だった」


 少しだけ間をおいて、天野さんがそう言う。

 ドラマの演技を急に褒められて、思わず目が見開く。まさか褒められるとは思わなかったな。

 てっきり拙い演技だったとか、そういう罵倒が飛んでくると思っていた。


「褒めてくれるんですね」

「当たり前だ。確かに以前の君の演技は、演技とは思えないくらい見っともないものだったさ。だが……どこか引き込まれる物は、確かにあった…」

「引き込まれる?」

「言葉にするのは難しいが、なんというか……演技というのは、どれだけ突き詰めても演技だ。言い方を変えれば、噓。フィクションなんだ」

「?」


 天野さんの言っていることが、いまいち理解出来ず首を傾げる。

 彼も何かわかりやすい例えなどはないか、「うーん」と唸っている。


 天野さんの言ったことを俺なりに考えてみる。

 演技は噓。フィクション……フィクションっていうのは、現実ではないもの。つまり……


「作り物?」

「! そう、それだっ!俺が言いたかったのは!……演技というのは、所詮は作り物でしかない。アクション、サスペンス、ホラー……様々なジャンルがあるが、実際にそれが起きている訳ではない」

「まぁ、テレビですからね」


 あくまでも娯楽の一つとして楽しむ為のコンテンツで、実際に殺人とかド派手なカーアクション、幽霊に呪い殺されるなんて非日常はありはしない。

 ていうか、全部フィクションだからこそ楽しめているようなものだ。現実にあんなことあったら楽しめる訳ない。


「そうだ。テレビなんだ……フィクションのはずなんだ…」


 そう言って、俯きだす天野さん。

 なんか落ち込んでいるように見えるのは気のせいか?まるで自分にはない者を前にしているかのような表情だ。


 そして一つ深呼吸してから、顔を上げる。その目は、凄く真剣だった。


「桐ヶ谷君。君の演技力は、ドラマの第一話よりも遥かに上達している。俺のようなプロからすればまだまだだが、相当努力したことが伺える」

「はぁ…。そうですか」


 すみません。真剣な顔で褒めてくれるのは嬉しいんすけど、大して努力してないっす。演技とか全く意識しないで、ほとんど素です。江月監督が素でやれって言うから。


「それに君の演技は、まるで『本当にそれを経験している者』のように見える。第一話の拙い演技でも好評だったのは、恐らくその能力があったからだと思う。……悔しいが、俺にも少し心に響く物を感じたからな…」


 マジか。プロの俳優にそんなこと言われるなんて思わなかったな。本当にそれを経験している云々はよくわからんけど。

 てっきりボロクソ言われるもんだと思っていたのに。……さっきも似たような流れがあったな。


 しかしプロに褒められるのは素直に嬉しいなぁ。素人同然の演技だと思っていたのが、ここまでだったとは。

 ちょっとだけ自信が湧いてくる。


「……あ。でも、俺のことは認めないって言ってませんでした?」


 前に江月監督と言い争っていた時のことを思い出す。

 俺みたいな素人より、自分の方が絶対良い演技が出来るって。それに俺に対しても、絶対認めないみたいなことを言っていた。

 ついでに宣戦布告もされた気がする。


「……………あれは同業者なら誰でもする、嫉妬のような物だ。実際は認めていた。それと話があるというのは、それについて一応の忠告をと思ってな」

「忠告?」


 天野さんは険しい顔をしながら、言葉を紡ぐ。

 なに?俺の身に何か危険が迫ってる感じ?やだぁ、もう……怖いわー(棒)


「さっきも言ったように、同業者なら誰でも君に嫉妬するだろう。一生懸命積み上げてきた自分たちがバカらしく見えるくらい、君は一気に有名人になったんだからな」

「バカらしく?」

「まぁあくまで比喩のようなものだが、実際そう思う者も少なからず存在する。だから忠告しに来たんだ。これからも俳優としてやっていくのなら……同業者からの嫌がらせは覚悟しておいた方がいい」


 なるほど。確かに彼の言う通り、元から俳優として頑張ってる人たちからしたら、ぽっと出の俺はさぞ憎いだろうな。

 人によっては、もやし生活を何年もやってる人もいるんだろうし…。

 どうしよう。鹿野さんとの関係だけでなく、芸能関係でも後ろに気を付けないといけないかもしれない。


「……天野さんはそういうの、しないんですか?」

「ハッ!言っただろ?俺の器は小さくないと。俺は俺の力で、真っ正面から君より優れていると照明する……俺の俳優としての、プライドに賭けてな」


 天野さんは鼻で笑って、もう一度俺に宣戦布告をしてきた。

 その姿を見て、俺は少しだけ天野さんのファンになったかもしれん。漫画のキャラみたいだから。


「じゃあ、まずはこのクイズ番組で、俺より優れていると照明しなきゃですね」

「なっ!?俺が言ってるのは、俳優としてでだなぁ…」

「あれれー。自信ないんですかー?まぁしょうがないですよねぇ。あれだけ点差が付けられちゃったらー」

「やってやろうじゃねぇかこの野郎ッ!クイズでも俺の方が凄いってとこ見せてやんよ!?」


 ほらな?漫画のキャラみてぇ(笑)

やってやろうじゃねぇかこの野郎っていうのよくSNSで見掛けるけど、元ネタわかんないです。

なんの漫画だ?


この話が面白いと思ったらブクマ登録と高評価、いいねと感想をよろしくお願いいたします。


次は『神様は純粋な者にこそ、夢のような力を与える』を投稿します。

以前お知らせした新作です。こちらではギャグが強めのラブコメを書きます。

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― 新着の感想 ―
[一言] やってやろうじゃねぇかよの元ネタは確かリアル野球盤の杉谷選手のセリフじゃなかったですっけ?多分ですけど…次回も楽しみにしときます!
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