問題:『さわら』を漢字三文字で書きなさい。
サブタイトルの問題。皆さんはなんて書くかわかりますか?
次の天野家から出題された問題でも、母さんが大活躍だった。
天野家の問題は、天野家四人の名前を漢字で書けというもの。これでうちみたいに一般の家族が参加してるところなら審議ものだが、四人全員が芸能人家族ならギリ許される範囲ということで、この問題は通った。
これは俺とお姉は全然わからなかったが、母さんが出演者の名前をチェックしていてくれたおかげでポイントをゲット。
マジで母さん、さまさま。ここまで最大120ポイント獲得のお膳立てをされたんだ。しっかり難しい問題を出題して、20ポイント取ってやる。
「いやぁ、桐ヶ谷静香さんの活躍が素晴らしいですねぇ~。誠君の為に色々と勉強したり、調べて来たり……こんなことなかなか出来ませんねぇ」
「ありがとうございます。宮海さんにそう言って頂けるなんて、恐悦至極です」
「堅いっ!別に僕は貴方の上司とか、そういうのじゃないんですよ!?」
それにしても、流石はベテラン芸人の宮海さんだ。
最初はあの無表情に戸惑っていたのに、もう母さんの扱いに慣れ始めて、華麗なツッコミを決めている。
恐らく母さん以上の曲者が揃っている芸能界を生き抜いてきた彼だからこそ、こんなにも慣れが早いのだろう。
能面を被ってるかのような無表情に、初対面の人は大抵萎縮しているのに。
「さて、続いては桐ヶ谷家チームからの出題ですが、どんな問題が出てくるのでしょうか?」
「桐ヶ谷君は学年一位を取れるくらい頭がいいし、やっぱり凄く難しい問題を出してきそう!」
「そうですね!それに桐ヶ谷さんは人に勉強を教えるのもお上手なんですよ。おかげで赤点は一つも取っていません!」
「私も桐ヶ谷君のおかげで、成績が大分伸びたわね」
「よいしょしてもワサビシュークリームの刑は無くならないぞ?」
「「「ひぇっ…」」」
スタジオに笑いが起こる。
もちろんワサビシュークリームは冗談だが、もしシリウスの関係者からそういうドッキリを頼まれたら容赦なくやろうと思う。
最近のアイドルはコメディさも売りに出さないといけないらしいからな。知らんけど。
「じゃあ問題出していいですか?」
「おや?相談する時間を設けれますけど、いいん?誠君」
「お姉と母さんからは許可は頂いてます」
そう言って俺は、ホワイトボードに問題を書いていく。
といっても、平仮名三文字だけのシンプルなものだけど。
「桐ヶ谷家からの問題は、こちらです」
バンっ!と俺から出される三文字の平仮名。
それを見せながら、問題文を言う。
「こちら、『さわら』……魚ですね。この『さわら』を漢字三文字で書いてください」
「漢字三文字!?」
出題された問題に対して、宮海さんが大袈裟に反応した。
知ってる人は知ってると思うが、普段さわらは漢字一文字だけで書かれる。この問題は、漢検一級の問題だ。
「あ!わかった!」
「え!?オリオンちゃんわかるん?」
「うん!前に桐ヶ谷君が漢字の勉強してるのを見て、さわらってこう書くんだ~ってなったからよく憶えてる!ねぇスタッフさん!私にもホワイトボードちょーだぁい!」
「ちょ、オリオン!?」
鹿野さんが二条院さんの静止の声を聞かずにスタッフさんのところに行って、予備のホワイトボードを貰ってきた。
本当に自由だなぁ。あの人…。
そんな鹿野さんを横目に、チラっと他のチームの様子を見てみる。
「ねぇダーリン。さわらってこうだよね?」
「そうだけど、漢字三文字って言ってるから、これじゃないと思うよ」
「夕。わかるか?」
「わかんない……たぶんオリオンちゃんが言ってた、漢字の勉強っていうのは。あれ漢検のことだと思うよ。お母さんたちは?」
「ごめんね~。私も全然」
「……うろ覚えでいいなら、俺書くぞ。前に一回見ただけだから、合ってるかわからないけど」
天野父以外はわからないみたいだな。その天野父も、明確に憶えていないらしい。
少しだけ不安だが、これなら20ポイントは取れそうだ。
「えっとねぇ。確かこうだよ!」
「へぇ。こうやって書くのね」
「うん!あ。桐ヶ谷君!ちょっとこっち来て!」
鹿野さんは書けたらしく、その答え合わせの為に俺を呼びつける。
始まってるな~。オリオン節…。
俺は面倒に思いつつも、シリウスと宮海さんがいる司会席に向かった。
キラキラと眩しく輝く笑みで、「褒めて褒めて!」とでも言いたげな犬のような鹿野さん。一瞬撫でたい衝動に駆られるが、それをなんとか抑えて鹿野さんの答えを見る。
鹿野さんが書いた漢字は……『馬鮫魚』だ。
……こういう時って確か、妙な間を置いてから正解か不正解かを言うのがバラエティのお約束だよな?
ならばそれに倣って、俺も間を作ることにした。
鹿野さんの顔を見て、俺は少しずつ残念そうな顔を作っていく。ここでほんのちょっとだけ首を左右に振っていく。
「え…。もしかして違った?真ん中が違うのかな?」
不安に駆られる鹿野さんの前で、口もちょっとずつ開けていく。
「ちょっとまって!?これで不正解だったら私めっちゃ恥ずかしいんだけど!間違ったの?私の記憶違いだったの!?」
そして彼女の血の気が下がり始めたところで、俺は両手で大きく丸を作った。笑顔も忘れない。
「正解だ。よく憶えてたな、しか……オリオン」
「はぁー!良かったぁ!合ってたぁ~…。間違ってたのかと思ったぁ…」
「「「おー!」」」
見事正解した鹿野さんに観客席から拍手が送られる。
そう。さわらは『鰆』と書くのが一般的だが、難しい漢字で表すと、何故か真ん中に『鮫』という字が入る。
鮫と同じ繫殖行為をする訳でもないのにな。
いや本当、よく憶えてたなこの人。俺が漢検一級の勉強してたのは、鹿野さんと藤堂さんの勉強を見ていた時だ。
その時に俺のノートを見ただけで憶えているなんて、相当印象的だったんだろうな。
「これは私も、漢検一級まで行けるかな?」
「覚えないといけない漢字は六千字もあるけど、覚えられんの?」
「うぐぅ…。無理です!」
「そこは噓でもやるって言えよ…」
やる前から諦める鹿野さんであった。
なお、唯一の不安要素であった天野父の回答は『馬鯉魚』と、真ん中を鯉と書いて間違えてくれたおかげで、20ポイント獲得出来た。
調べてもわからないのですが、実は鮫と同じ繫殖の仕方だったりします?
この話が面白いと思ったらブクマ登録と高評価、いいねと感想をよろしくお願いいたします。
次は『俺が銀髪美少女に幸せにされるまで』を投稿します。
https://ncode.syosetu.com/n5786hn/




