クイズ!家族王決定戦!1
ボケが少し渋滞してるように感じる…。
どうしてこうなった…?
「夏休み特別企画、『クイズ!家族王決定戦』ー!司会進行は私、宮海小介と!」
「「「シリウスが務めさせていただきまーす!」」」
司会の宮海小介さんと国民的トップアイドルユニット、シリウスの三人によるタイトルコールと挨拶と共に、スタジオが観客の歓声と拍手で包まれる。
すげぇ人の数…。こういう番組ってこんなに人が集まるもんなんだな。
俺は今、とある番組の収録に来ている。まぁ、どんな番組かなんて宮海さんのタイトルコールで大体察しが付くだろうけど。
鹿野さんが手元の台本を手に取って、簡単な番組の説明に入った。
「この番組はタイトルからわかる通り、こちらの三組の芸能人とその家族の方々によるクイズ番組です!優勝チームには豪華景品がありますので、皆さん頑張ってください!」
「たわしはいらんぞ?」
「参加賞じゃないんだから、流石にそれはないよ桐ヶ谷君!?ていうか古いっ!」
鹿野さんの豪華景品という言葉に対して小ボケをかまして、スタジオに小さな笑いが起こる。
俺の言葉は割とガチトーンだから、冗談には聞こえにくいだろうな。
「理乃理乃、誠が積極的に番組を盛り上げに行ってるわ」
「母様母様、誠が無様にも盛り上げようと頑張ってるわ」
なんか後ろの二人がひそひそと俺の悪口を言ってる気がするが無視だ無視。
ちくしょー。まさかお姉と母さんと一緒にクイズ番組に出る羽目になるとはな…。
――――――――――――――――――――――――
事の始まりは二日前。鹿野さんとのデートが終わって、家に帰った後のこと。
その時俺は、なぜかお姉にお姫様抱っこされていた。俺がお姉にじゃない。お姉が俺にだ。
「おいお姉。いつまでこうしている気だ?」
「私の腕が限界を迎えるまで」
「迎えるのか!?今ソファに座ってる状態で、アンタの首に両手回して負担を減らしてやってるような状態だぞ!俺と同じ血が流れてるなら、母さんたちが帰って来るまではずっとこのままだろ!?」
「正解」
「離せっ!」
お姉だってスポーツ万能ゴリラマンの父さんと同じ血が流れてるんだ。そんなお姉の押さえる力は意外と強く、無理矢理離れようもんならお互い怪我する可能性がある。だから大人しく捕まってる他ないという現状……それにお姉の柔らかい部分には興味ないけど、さっきからぽよんぽよん当たってなんか気持ち悪いんだよな…。
は?なんでお姉にお姫様抱っこされてるのか理由を言えって?総司関連に決まってるだろ!?
「私の方が総ちゃんより二十センチ近く背が高いから、きっとお姫様抱っこは私がやることになるから~」とかなんとか、意味わからん迷走をしているお姉に付き合わされてるんだ。
今まで迷走することはあっても、人前で総司に撫でてもらったり、弁当を作ってやったりするだけで留まっていたのに、ついに俺を巻き込み始めた。
「ふむ。これなら総ちゃんのことも支えられそうね」
「それを確かめる為に俺を実験体にしないでくれよ…」
まさかデートから帰った後に、実の姉にお姫様抱っこされるなんて……きっと人類初だな。こんな不思議体験。
そんなお姉のバカに付き合ってる時に、俺のスマホが鳴った。
相手の名前は『江月監督』と表示されていた。
俺はお姫様抱っこされたまま電話に出た。だってお姉が離してくれねぇんだもん…。
「もしもし、桐ヶ谷です」
『やぁ桐ヶ谷君。ボクだよぉ。今ちょっと時間大丈夫かな?』
「大丈夫じゃないすけど大丈夫で~す」
『えぇ…。どっち?』
結局そのまま俺は江月さんの要件を聞いた。
要約すると、俺にバラエティ番組の仕事を見つけて来たからそれを受けないかという電話だった。
その番組というのは夏休み特番の奴で、タイトルが『クイズ!家族王決定戦!』という番組だ。
芸能人とその家族らが集まって、優勝を目指していく王道クイズ番組的な感じらしい。
そのタイトルと説明を聞いた瞬間に色々察せるよ…。
「それ、俺の家族も誘えと?」
『もちろんだとも。家族王だからね。なに、一人でも誘えれば出演可能だよ。ただ、人数は多ければ多いほどいいだろうね~。文殊の知恵ってやつ?家族で相談して答えを決めるクイズもあるから、お父さんでもお母さんでも兄弟でも従兄弟でも……とにかく多くの人を誘った方がいいと思うよ。ちなみに人数制限は五人ね』
「うわぁー。断りてぇ…」
『言うと思った。家族と一緒にテレビ出演とか、君にはまだハードルは高いだろうね』
いや、単純に面倒くさいだけなんだけど。家族と一緒に仕事とか、普段の素が思いっ切り出ちまいそうだし…。
でもまぁ、せっかく江月さんが仕事を見つけて来てくれたんだから、お姉と母さんには聞いてみるか。
父さん?あんな脳みそまで筋肉で出来てるような人に頼むのは最後の手段だ。
「―――という訳なんだけど……お姉にも出演料がキッチリ払われるみたいだし、どうかな?」
「いいわよ。誠の無様な、いえ……勇姿を間近で見られるいい機会だし」
「おい。本音隠せてねぇぞこの野郎…」
野郎じゃないけども。
――――――――――――――――――――――――
そして現在に至る。俺はお姉だけで良かったのだが、お姉から話を聞いた母さんが有給取って一緒に出ると言って聞かないので、三人で出ることになった。
父さん?父さんは「俺は勉強出来ないから」って言って辞退したよ。観客席の一番前に座ってるけど。
そんなこんなで、いよいよクイズ番組が始まる訳だが、その前に宮海さんからチーム紹介だ。
「それではまずはチームのご紹介から!エントリーナンバー、一番!『アイドル警察♪シリウス』の出演をきっかけに、現在日本で活動中のアンジェリーナ・スミルノフさんと、その夫イオナ・スミルノフさんです!」
「こんにちは日本の皆さん!この通り日本語ペラペラなので、安心してご視聴ください!」
「アンリ、たぶんロシア語だったとしても字幕付くから大丈夫だと思うぞ?」
「へっ?」
二人のやり取りに思わず笑いそうになる。
アンリさんこと、アンジェリーナ・スミルノフさんは『アイドル警察♪シリウス』で、二条院さんと一緒にロシアまで撮影に行ってくれた女優さんだ。
あれから日本人の間で人気が出て、日本を拠点に活動しているらしい。
日本語ペラペラの外国人女優というのは、かなりいい武器になりそう。
「あははは!旦那さんの言う通りですよぉ。面白い方ですわ~。続きましてエントリーナンバー、二番!芸能人家族、天野家の方々です!」
次に紹介されたのは、本来『アイドル警察♪シリウス』の第一話でゲスト出演するはずだった天野大翔とその家族たちの紹介だ。
なんでだったか、怪我を負ったせいでドラマに出られなくなって、俺が天野大翔の代わりに出る羽目になったんだよな。
あと完全に自業自得な気がするのに、俺のことを恨んで来ている。今はカメラ回ってるから笑顔だけど、回るまでは俺のこと凄ぇ睨んでたもんな…。まぁ気にしないようにしよう。
天野家チームは四人で、全員が芸能人らしい。妹の天野夕が舞台女優で。母の天野藍里が元モデル。父の天野晴太が息子と同じ俳優だ。
メンツが濃いなぁ。あの家族。
「―――いや~。このご家族が一番注目されてるかもわかりませんね。それでは最後にエントリーナンバー、三番!最近話題の大型新人俳優!桐ヶ谷誠君とそのご家族の方々でーす!」
紹介を受けて、三人で丁寧にお辞儀する。
ここでは下手に喋らず、礼儀正しくした方が印象も良くなるだろう。
俺たちが顔を上げて、観客の歓声と拍手が止んでから、宮海さんが質問してきた。
「桐ヶ谷君のドラマ内での活躍がもう凄いですよね?この間のドラマの視聴率は過去最高だったらしいですし」
「はぁ…。そんな実感は全然ないんですけど…」
「またまたぁ~。結構街中でも声を掛けられてるんちゃいますの?」
「あー……二日前くらいに、サインをくださいって言われたくらいですね」
やべぇ。緊張して声が思うように出ないな。ハッキリ喋れてるはずなんだけど、声かっすかすで喋ってる気分だ。
やっぱまだテレビにはまだ慣れねぇな…。『曇天☆夕立レストラン』で共演してる宮海さんじゃなかったら、まともに受け答え出来なかったぞ。
「ほらもうサインを求められるくらいに活躍なさってるってことじゃないですか!流石オリオンちゃんと江月監督がスカウトするだけありますねぇ。ホンマ凄いですわ。……ところで~…」
社交辞令らしき言葉を言い終わり、宮海さんは俺の後ろに座ってるお姉と母さんに目をやる。
そして続いて飛び出して来た言葉に、スタジオが大いにざわついた。
「こちらの台本にはあのぉ、桐ヶ谷誠君のお姉様とお母様が参加って書いてあるんですけど~……どっちがどっちですかね、これ?」
母さんが四十八歳という年齢にも関わらず、普段から見た目年齢は二十代なんていうのがうちの母さんだ。
しかし今日は、番組が用意したプロのメイクさんの手によって高校生なのでは?と思ってしまう程、さらに若々しくなってしまった為、スタジオ全体のどよめきが半端じゃない。
どっちが俺の姉と母なのか、判断がつかないなんて……そりゃ化粧って言葉に「化ける」なんて使われてる訳だ…。
鹿野さんと二条院さんは苦笑、藤堂さんは目をキラキラさせてるけど。
「うちのお母さんも、あんな感じだな~」
「オリオンのお母さんも、凄く若いもんね…」
「私も将来、あんな美貌を持ちたいです!」
「あら。ありがとう。そう言ってもらえて、素直に嬉しいわ」
藤堂さんの言葉に無表情で返す母さん。
全然嬉しそうに見えない。
「どうも。誠の姉の、桐ヶ谷理乃です」
「母の桐ヶ谷静香です」
自己紹介して、もう一度軽くお辞儀する二人。
無表情のまま挨拶する二人に、流石の宮海さんも若干戸惑っていた。
……バラエティ向けの表情しないからな、この二人…。今さらながら不安になって来た。
昨日休んだので、二話分書きました。
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次は『俺が銀髪美少女に幸せにされるまで』を投稿します。
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