気持ち良くして
体調不良が続いている為、少し短めです。
「マミさんって、本当に男の人なの?」
「それ言うのもう六回目なんだけど、どんだけ信じられねぇんだよ」
「だって仕方ないじゃん!男の人であんなに美人な人初めて見たんだもん!渋谷のパチ公前で絶対ナンパされてるよね!?」
「渋谷だけじゃなく、行く先々でナンパされてるらしいぞ。あの人」
「ほらぁ!」
ドッグカフェを堪能した俺と鹿野さんは、商店街を歩いている。俺が俳優デビューすることになった場所。
あの時は「おのれ鹿野さん、絶対許さんぞクソが」みたいな気持ちが強かったが、今となってはいい思い出だ。
見ての通り、鹿野さんは男であるマミさんが美人というのが納得いってない様子。
俺は小さい頃から知ってるから違和感はもうそこそこ消えてる。ない訳じゃないけど。
でも小学校に入る前に何度か一緒に風呂入ったことあるし、マミさんにもご立派ァ!な物は付いている。
「そんなに疑うなら、次マミさんの店行った時に家族写真を見せてもらえよ。妻子持ちだから」
「夫子持ちじゃなくて?」
「妻子だよ…。あとそんな言葉は存在しない」
「そうなの?」
夫子持ちという言葉は無いと聞いて、驚く鹿野さん。
妻子持ちって言葉があるなら、その反対は夫子持ちだろうって思うのはわかる。俺もそう思ってた時期あったし。
でもそんな言葉、どんな漫画やアニメ、ゲーム、小説などで一切見たことない。
気になって調べてみたら、妻子持ちって言葉しかないってわかった。
ただ夫子持ちという言葉はないけど、それに近い言葉はあった。
「意味は全然違うけど、こぶつきって言葉が一応近いらしい。だけど良い言葉じゃないから、決して使うなよ?」
「それくらい私にだってわかるよ。バツイチ子持ち、みたいな意味でしょ?それが近い言葉とか、意外と酷い世の中だねぇ~」
酷い世の中ってのは同感だな。突然現れたアイドルに色々巻き込まれて、その子のことを好きになってしまうんだから。
別に酷くはないだろって?面倒事が嫌いな俺にとっては酷いもんだよ。
あ~。なんかここで撮影した時のことを思い出したら、ちょっとムカムカしてきた。
いい思い出って言っても、やっぱ過去最高に腹立った出来事ではあったからな。
「鹿野さん」
「ん?なぁに?」
「ムカついてきたから頭撫でていいか?」
「????? ごめん。流石の私も『は?』ってなっちゃうんだけど…」
「……いや、すまん。自分でも何言ってるのかよくわかんねぇや」
俺の言葉に頬を蒸気させて、さらに「?」を浮かべる鹿野さん。
どうも調子が狂う。自分のことなのに何を言いたいのか、何をしたいのかよくわからん。
しかししばらく視線を右往左往させていた彼女は、俺の腕に寄りかかって自分の頭を預けて来た。
「鹿野さん?」
「い、いいよ…。なんで桐ヶ谷君がムカついてるのかわからないけど、たぶん私のせいなんでしょ?じゃあ、その責任は取らないといけないもん。私の頭を撫でるだけでそれが治まるなら―――いいよ?」
顔を真っ赤にして、上目遣いで耳が蕩けるような甘え声でそう言う鹿野さん。
彼女のその言葉で、頭がくらっと来てしまったが何とか耐える。
この人のこんな甘えるような言葉と仕草は、初めて彼女の頭を撫でた時以来かもしれない。
「……………撫でて欲しくなっただけだろ?」
でもこのまま撫でてしまっては、なんか負けてしまったような気がするので、ぶっきらぼうにそう言ってしまう。
だけど鹿野さんはそんなこと気にせず、素直に自分の気持ちを打ち明けてきた。
「うん…。撫でて欲しい。桐ヶ谷君の手で、気持ち良くして?」
プツンッと、一瞬……本当に一瞬だけ理性の糸が切れた。なんとか持ち直したけど。
言い方……卑怯だ…。周りに人がいなくて良かったって、心底思う。
その後、俺は鹿野さんが満足するまで、頭を撫でていた。
時々身体がびくっと跳ねたりする様子が、なんだかおかしかった。
書いてる私が『エ○ッ!?』って思ってしまった。
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短かったので、次もこちらの作品を投稿します。




