ドッグカフェ2
やっぱギャグっぽい感じに書く方が得意かもしれない。
「ふお~!可愛いぃ~!」
たくさんの大型犬に囲まれてモフモフしている。否、むしろされているアイドルが一メートル先にいる。つまりほぼ目の前。
マミさんの教育がよく行き届いているおかげで、犬たちはかなり人懐っこくて可愛い奴らばかりだ。尻尾もブンブン揺れている。
こういう動物系のカフェは小型系が多いイメージだけど、このように大型犬がいるドッグカフェなども意外と多い。
この辺だとここしかないけど。
「もっふもふ!周りが凄いもっふもふだよ桐ヶ谷君!視界全部がもっふもふ!」
「おいアイドル。もう少しマシなリポート出来ねぇのか?」
ついには犬に埋もれた国民的アイドル。これが最近話題のはかれない少女のアニメの主人公なら、とっくに帰ろう宣言しているだろう。
それにしても鹿野さん。マジで足以外埋もれてるな。他のお客さんがそれを撮ってしまうくらい凄い光景だ。
犬をも魅了するアイドルな鹿野さんは嫌いじゃない。
ちなみに俺はずっとコーヒー片手に、隣の椅子にお座りしているユニの背中を撫でている。
「ぷはっ!ドッグカフェとか初めて入ったけど、凄い人懐っこくて可愛いねぇ!」
「喜んでもらえたようで何よりだ」
「うん!私、ここの常連になる!凛華ちゃんと純ちゃんにも教えていい?」
「どうぞご自由に。ここが繫盛するのは、俺としても嬉しいしな」
「やったーって、わぷぷぷ!?」
あ。また鹿野さんが埋もれた。相当ここの犬たちに気に入られたなぁ、あの人。
俺も床に座ろうもんなら埋もれることが多々ある。
別に鹿野さんも俺も、ああやってほとんどの犬たち独占してる訳じゃないぞ?
ここの犬たちは本当にお利口さんだから、名前を呼ばれたらそっちのお客さんの方に行くから問題はない。
にしても初めて外から人が埋もれてるところなんて見たけど、絵面だけ見たら猛獣に食われてるようにしか見えないな。
大型犬が怖いなんて言う人は、これが怖いのか?
「あの~」
俺が鹿野さんを見守っていると、他の女性客から声をかけられた。
その手には、一冊のノートとマジックが握られている。
「はい?なんでしょうか?」
「桐ヶ谷誠さん、ですよね?良かったら、サインをくださいませんかっ!」
「……………」
やや緊張した様子の女性。明らかに年上の女性で、しかもそんな人に敬語で話されたせいか固まってしまった。
だけど……いや、やっぱそうだよな?好きな芸能人に出会ったら、普通はこんなもんだよな?
さっきのファミレスの店員さんみたいに、申し訳なさとかが混じったような反応は普通たぶん無いよな?
っと、いけねぇ。目の前の女性が、黙ってる俺に不安気な表情をしだした。ちゃんと対応せねば。
「いいですよ。すみません。活動し始めたばかりで、なかなかこういうのはまだ慣れてなくて」
「い、いえいえ!気にしないでください。こちらこそすみません!せっかくのデート中に、こんなことお願いして…」
「あー……やっぱそう見えます?」
「はい。オリオンちゃんは恋愛オッケーなアイドルという話で、もう昨晩から凄い騒がれてますから」
正確には違うけど、まぁ好きな人が出来たらアイドルを辞める宣言は、そういう風に捉えられるよな。
こうして俺も鹿野さんをデートに誘ってる時点で、鹿野さんを狙ってる風に見えるだろう。すこし人聞き悪い感じだけど、事実だし否定はしない。
「俺と鹿野さん……オリオンは友達ですよ。彼女がアイドルでいる内は…。……はい。出来ました」
喋りながらサインを書き終わり、女性に渡す。
女性は笑顔でお礼を言い、自分の席に戻って友人らしき人に自慢している。
……すげぇ苦笑している辺り、普段からあの人のヲタク話に付き合っているんだろうな…。俺も総司のヲタク話に付き合う時はあんな顔するからわかる。
「おやおや。凄い有名人なんだね、誠君は」
引き続きコーヒー片手に犬にモテモテな鹿野さんを見ていると、マミさんが鹿野さんが座っていた席の隣に座りながら言う。
「静から聞いていたけど、本当に芸能人になったんだね~。僕もチェックしてみようかなぁ」
「社交辞令はいいよ。マミさん、動物系のテレビにしか興味ないだろ?」
「失礼だねっ。流石に友人の息子の活躍くらいは興味あるさ」
「ふ~ん。あ、そう。そういえば、さっきみたいに方言使わないんだね?」
「さっきは誠君が久し振りに来て、興奮してしまったからね。誠君の友人の前では使わないようにするよ」
別に気にしなくていいのに。全て標準語のマミさんは違和感しか感じないぞ。
そんなマミさんとここ二ヶ月の出来事について語り合っていると、鹿野さんが悲鳴を上げた。
「桐ヶ谷くーんっ!脱出出来なくなっちゃったー!?助けてぇ~!」
見てみると、なんと鹿野さんが犬たちの枕にされてしまっているではないか。
……なんて間抜けな光景なんだろうか……………カシャッ。
「ちょっと!?なんでここで写メ!?」
「いや撮るだろ。こんな間抜けな光景。ツブヤキに上げていい?」
「いいけど!上げる前にまずは助けてよ!?」
カシャカシャカシャカシャカシャッ!
「なんでまだ撮ってるの!?しかも連写!」
「こんな間抜けな鹿野さんは他に見られねぇからな。今のうちに撮っとこうかと。あ、動画も撮ろ」
ぴろん。
「桐ヶ谷君どうしたの?いつもならそんな意地悪じゃないじゃん!」
「さんざん俺に迷惑をかけてきているから、たまには仕返ししようかなって」
「もう気にしないみたいなこと言ってたのに、やっぱ気にしてるじゃん!この人でなし!悪魔!……………存分に撮ればいいよ!」
「いいのかよ」
それはそれで罪悪感が襲ってきて嫌なんだけど…。
いい加減助けてあげるか。
「ほら鹿野さん、手を出して」
「うん……ふぬぅー!」
可愛い声で気合を入れる鹿野さん。
しかし鹿野さんは普通の女の子ではない。この人、異様に力が強いことを失念していた。
「ちょっ!?鹿野さん、力入れすぎ!痛い痛いっ!腕千切れるって!」
そうだった。この人男子顔負けの握力の持ち主だった!
「私が怪力少女みたいに言わないでよ!」
「え?今までの自分を顧みたら?」
「……………じゃあ仕方ないねっ!」
素直に認めるんかい…。
それにしても、全然犬たちがどかねぇんだけど?なんで頑なに鹿野さんをプレスしてんの?
これ以上は俺の腕が好きな人に腕を持っていかれそうなので、マミさんに頼んで犬をどかしてもらった。
「ふぅ!助かりましたマミさん。危うく桐ヶ谷君の腕を千切っちゃうところでした!」
「君ならマジで出来そうだから冗談に聞こえねぇよ…」
「あはははは。面白いものを見せてもらったよ。よかったらさっきの写真、うちのホームページに載せたいんだけど、いいかな?」
「鹿野さんの事務所に聞いてみないとダメじゃね?」
「あ。じゃあ明日、波川ちゃんに聞いてみるね。……そういえば、マミさんって本当に綺麗ですよね?私もマミさんみたいな美人さんになりたいなぁ…」
マミさんを見つめながら、鹿野さんがいきなりそんなことを言う。
美人……美人ねぇ…。まぁそうだよな。見た目は完全に美人なお姉さんって感じだよな。
いや、年齢的に美熟女か?
「おや?ありがとう。でもなんか複雑だね。そういう言葉を貰うのは」
「え。どうしてですか?モデルさんみたいに細いし、背も高い上に凄く素敵だと思いますけど?」
そしてマミさんの次の言葉は、鹿野さんには到底信じられないようなことだった。
「だって僕、男だもん。この年になっても、やっぱりカッコイイって言葉の方が嬉しいさ」
「……………」
その後、鹿野さんは数分間フリーズしたままだった。
俺は一言も、母さんの友人が女性だなんて言ってないぞ?
撮られてる時の鹿野さん
「この人でなし!悪魔!」
(はっ!でもこれって、最高に恋人っぽいのでは!(?))
「存分に撮ればいいよ!」
「いいのかよ」
この話が面白いと思ったらブクマ登録と高評価、いいねと感想をよろしくお願いいたします。
次もこの作品を投稿します。




