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「へっ………」
いや、今何て言った?みお姉、ホント、今、何て言った?
「にゃーセンパイ…勿体ぶってたの何だったんですか…」
「はっ!ゆーとのせいで!ドラムロールを頭の中で鳴らしながら大発表!とかってやる予定だったのに!」
俺はさっきの言葉が理解しきれずに、頭の中で単語がぐるぐるしていた。
え?ミナツキ?赤?あれ?曲作れって?ミナツキが?え?は?曲?赤で?あ、ちょっと待てよ…それなら。
「ちょっと、孝昭呼んでくるわ」
二人はまだわちゃわちゃと言い合いをしていたが、頭が真っ白で存在感の薄くなった俺は二人に声をかけられることもなくヨタヨタしながら部屋に戻り孝昭を呼んでくる。
「孝昭ちょっといいか?」
「お?何だ?」
部屋の外が騒がしかったせいか孝昭は集中出来ていなかったようで、俺が呼ぶとすぐに来てくれた。
みお姉と谷口さんはまだ二人で何か話しているが、そんなことはどうでもいい。
さて、もう一度話してもらおうか。
「みお姉、さっきのもう一度言ってくれよ」
「え…何で孝くんがいるの」
「孝昭も聞く権利がある」
「ふーん?ま、いいか。孝くんも『色の世界』やってるんだろうし。で、さっきのって…赤で曲出して?」
「え?どういうことだよ悠斗?」
「そこじゃない。その後!」
孝昭の問いかけは無視して、一番大事なところをみお姉の口から言ってもらうべく促す。
「ミナツキのこと?」
「それ」
「はあ?何の話してんだよ、悠斗。そもそも色の世界の話をすること自体がタブーだろ?」
「あ、孝くんマジメだねぇ。そんな良い子にはビッグニュースを教えちゃうぞっ☆
何と!『色の世界』の赤で視聴者支持率No.1『ミナツキ』はあたしらのことなのだっ!」
アニメやマンガならば「えっへん!」とでもつけたくなるようなみお姉の姿である。
「はああああぁ!??!!!?」
孝昭は思いっきり叫んだ後はこれでもかと、ぽかーんと口を開けている。先ほどのみお姉の言葉を飲み込もうとしているが、たぶん思考は真っ白だろう。だって俺もそうだったし。しかし、そんな孝昭が復活するのを待っていられず俺は続きを話す。
「で、みお姉たち…ミナツキのために赤で曲をアップしろと言われたんだ」
「あ?そんなんもうやってるし……」
あ、言った。
思わず俺はじとっとした目で孝昭を睨むと孝昭はパッと両手で口を塞いだが、聞かれてしまったよなぁ。
せっかく俺が懸命にオブラードに包んで話をしていたのに、孝昭はあっさりと言ってしまった。
「ゆーとくん?どういうことかしらね?」
「あーあー…ちゃんと話すから待ってくれ。俺たちは元々、別の色でやってたんだけど。そこは省略させてもらって。
最近、二人で赤の曲を作り始めたんだ…ミナツキ用の曲を。赤の他の唄い手ではなく、ミナツキのための曲を…」
うわっ、自分で言ってて恥ずかしくなってきた。ってか、キモイ感じじゃないか?なんて不安に思っていたのだが、孝昭の一言でどうでもよくなってしまった。
「え?マジでミナツキ?オ、オレ、ミナのファンなんっす!サインくださいっ!」
「え?やーだー孝くん。サインならいくらでも書いたげるのに」
…本当にどうでもよくなってしまった。呆れた顔でみお姉を見る谷口さんと目が合ってしまい、二人で苦笑してしまった。
みお姉と孝昭が盛り上がっているので俺も谷口さんと話をすることにした。
「ところで、谷口さんが『ツキ』ですよね?」
「そうよ」
「俺もファンなんですよ」
「?お姉さんなんだからいつでもサインもらったら良いんじゃない?お姉さんのサインが欲しいって面白い人ね」
「いえ、ツキのファン…なんです」
「………」
そんなに真っ赤な顔にならなくても良いのに。ちょっと可愛いなと思ってしまった。
「…サインは書かないわよ」
「いや、サインはいらないんですけど…歌、歌ってもらえません?」
「赤で出してるんでしょ?ミナツキで歌うわよ?」
「谷口さんのために作った曲なんで、赤には出しませんよ。そもそも赤は俺と孝昭のコンビなんで、俺単独で出す気はないんです。…俺、青のYuなんで。Yu名義で赤に出すつもりはないんですよね」
「っ!?え、ウソ!?え?あ、青の…?Yu…って、櫟木くん…だったの…」
「?そうですけど?」
あれ?ますます顔が赤くなったけどどうしたんだろう?はて?と思っていたら、パシッと手を握られたのでびっくりしてしまった。握ったのはもちろん谷口さんだ。
「わ、わ、私、Yuの曲がすごく好きなの!私で良ければ、ぜひ歌わせて!」
おぉ…まさかの逆プロポーズいただきました。て、違うか。
というか、早くから言っておけばこんなに長く遠く回り道をせずに歌ってもらえたのかな?いや、でも『色の世界』の掟は破りたくないしなぁ。今は特別な事情により知ってしまったけれど。
「歌ってもらえるのは願ったり叶ったりなんですが、ちょっと相談なんですけど。今、俺が作ったのは谷口さんの声だけを参考に作ったので、ツキ用に作り直しても良いですか?」
「???何か違うの?」
「一応、音域とか…ツキならもう少し遊び心がいれられると思うんで。んで、ご期待に添えられるよう…Yuアレンジでやってみようかと」
谷口さんの目が一際大きくなり、ぱあっと顔色が…輝いた気がした。そんな谷口さんを見て、ドキッと胸が音を立てた。
あれ?
「いくらでも待つ!楽しみにしてる!」
「は、はい」
こうして、まさかの各色が入り乱れることになったのだった。
1章?部?の区切りとなる…かな、と思っています。
まだまだ恋愛には遠いですね。もう少し続く予定です。