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 結局、三人一緒に俺の家に向かうことにした。俺と谷口さんの二人だと変に緊張してしまいそうだったからだ。だって、実家とはいえ自宅だぞ?俺の部屋綺麗にしてたっけ、とかいろいろ考えて変な汗が出てくる。うん、あまり気にしないことにしよう。


「ただいま」

「お邪魔しやーす」

「お、お邪魔します」


 広くはない玄関なので、先に俺が入ってからお客様を案内する。孝昭は最近入り浸っているから勝手知ったる感じだけど。


「おかえりー。孝くんも来たの?」


 玄関で会話をするのが聞こえたからか、みお姉が二階から降りてくる。


「っ!」


 しかし、俺たち三人の顔を見た途端、驚きで固まってしまった。どうしたんだ、みお姉?

 だが、先に口を開いたのはなんと谷口さんだった。


「に、にゃーセンパイ…」

「「は?」」


 思わず孝昭と顔を見合わせながら、二人で素っ頓狂な声を出してしまった。


「はなちゃん…」


 おぉ、まさかの知り合いだったのか…。

 というか、みお姉のことをまさか『にゃー』と呼ぶ人が残っていたなんて驚きだ。

 以前話したことがあると思うが、俺の姉は昔、地元アイドルをやっていた。その時の愛称が実は『にゃー』だったのだ。何でにゃーなのかって?それはまぁ、姉の若かりし頃の話だ。あまり蒸し返さないでもらいたい。


「え?にゃーセンパイの弟さん?」


 俺と姉の顔を視線で行ったり来たりしている谷口さん。


「何ではなちゃんがゆーとに連れられて家に来てるの?」

「あ…えっと、歌を…」

「えっ?!」

「あっ…やっぱダメでした?」

「……ゆーと。ちょっとはなちゃん借りる」

「…どうぞごゆっくり」


 俺はひらひらと手を振ってみお姉に連れ去られる谷口さんを見送る。この展開についていけずに立ち尽くしたままの孝昭の肩を叩いて、二人で俺の部屋へ向かったのだった。


「曲作りしながら待ってようぜ」

「お、おぉ…」


◇◇◇


「一体どんな繋がりだろうな」


 孝昭がぼそりと呟いた。今はちょうど作詞作業中。小さな呟きだったが、ばっちり聞こえたので返答する。


「みお姉のこと『にゃーセンパイ』って呼ぶくらいだから、地元アイドルの後輩なんじゃないか?」

「いや、でも谷口さんいたことあるか?」

「うん?…そういえばたしかに…」


 元とはいえ姉が在籍していたアイドルなので、いまだにメンバーや曲などのチェックはしている。そういえば谷口さん…いたか?


「雰囲気もアイドルっぽくないというか…アイドルになりたい!って応募しそうになくないか?」

「言われてみれば…」


 少し小柄だが見た目は悪くないと思う。でも表情はあまり変わらないし、人前に出てそんなに明るく振る舞える感じはしない。アイドル向きではない雰囲気ではある。


「人前に出ると性格が変わるとか…は無さそうだもんな」

「だろ?アイドル好きとかかもな。別にオレら全然OKだけどさ。…意外と歌うまかもよ?」

「それは…ちょっと期待するかも」


 ははは、と二人で語っていたら部屋の扉がノックされた。谷口さんかみお姉かのどちらかだろう。


「どうぞー」


 俺が声をかけると、ひょこっとみお姉が顔を覗かせてちょいちょいと手を振っているのが見えた。呼ばれたので仕方なく席を立つ。

 部屋の中からは見えなかったが、みお姉の横には谷口さんもいた。


「何?」

「ちょっと聞くけどさ…ゆーとは『色の世界』で何色やってんの?」

「げっ…」


 いやいや、ちょっと待て。みお姉が『色の世界』の話を孝昭から聞いたのは、忘れ去られた過去の話だろ。あれから何にも言ってなかったから油断していたけど…今、それを聞いてくるのか?谷口さんのいる目の前で。


「色の世界を知ってるなら分かってると思うけど…その話はタブーだろ」


 あ、この返答マズった。どこかの色に在籍していることがバレるよな。なんて後から思ってもすでに遅い。


「じゃ、聞き方変える。ゆーと、あんた青で出してるでしょ?」

「………」


 何も言えねぇ。何を言っても墓穴掘りそうだし。


「無言は肯定とみなします」


 言わなくてもダメだった。


「ま、部屋の機材見れば分かるけどね。はなちゃん、どうする?」

「にゃーセンパイが良いなら、私は問題ないです」

「?」


 二人の会話についていけない。何がどうする?なんだろうか。


「どうしよっかな。うーん…えっと、ゆーと赤で曲アップしない?」

「は?」

「ゆーとのことだから青だけだと思うんだよね。だけど、赤で。曲。作って出してよ」

「何で赤なんだよ?」

「…にゃーセンパイ、それじゃ分かんないですよ。秘密にしたいのかしたくないのかどっちなんですか…」

「えー。だって、ゆーとはネーム言ってくんないのに、あたしらだけ言うのはちょっと…ズルい」

「にゃーセンパイ?」


 おお、あのみお姉が谷口さんの迫力に負けてる。俺は姉に勝てた試しがないから、谷口さんに弟子入りしたい。


「うぅ……はあ、仕方ないか。色だとタブーだけど家族だから良いよね」


 本題に入るまでが長い。ということは、大事な話とかあまり公にはしたくない内容なんだろう。みお姉はそういうところは分かりやすい。


「部屋で孝昭待ってるから、話なら早くしてくれよ」

「もう!ものすっごくビッグニュースなのに!」

「はいはい」

「はいはい、じゃないの!ちゃんと聞きなさいよ、ゆーと!あたしら赤の『ミナツキ』なんだからねっっっ!」

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