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「ただいまー」


 寄り道もせずに自宅に帰る。早めに部屋の機材を寄せてスペースを作らないといけない。


「ゆーと、お帰り」

「あれ?みお姉は今から出掛けんの?」

「うん。ちょっと出掛けてくるね」


 俺が帰るとひょこっと顔を覗かせた姉は、いつも自宅で過ごす時に着ているもこもことした暑そうな服ではなかったため外出するのだなと思った。

 姉はアイドルを辞めてから少しの期間は家にこもっていたが、何か吹っ切れたように顔色が明るくなってからはこうやってどこかに出掛けることが多くなった。何をやっているのかは知らない。


 俺の姉の名は、澪菜(みおな)。他に姉がいるわけではないのだが、昔からみお姉と呼んでいる。

 元地元アイドルに選ばれただけあって顔は良い。身内びいきしているわけではなく、本当に美人なのだ。

 負けず嫌いな性格と相まって、少しキツイ雰囲気の美人だ。雰囲気だけで実際は違う。意外と押しに弱い。

 ちなみに俺とは顔はちっとも似ていない。俺は平凡な顔だ。ちょっとくらい遺伝子欲しかったな…そしたらモテていたかもしれないのに。


 姉は母親似、俺は父親似である。両親の出会いも気になるところだが、聞いたことはない。

 あ、それとさっきの会話で分かると思うが、姉弟の仲はそんなに悪くない。ただ、俺が『色の世界』で曲を配信していることは秘密だ。作曲活動をしていることはたぶん…バレている。

 まあ、そりゃ部屋にあんだけ機材を置いていればバレるよな。元地元アイドルならそういう機材を見る機会はあっただろうし。

 曲自体を聞かせたことはないから、俺がどんな曲を作っているかは知らないはずだ。


「さて、と」


 部屋に入って、まずは押し込んだはずの録音機材を取り出す。あちこちに置きっぱなしのキーボードやミキサー、パソコンを一ヶ所にまとめておく。ほとんど使っていない機材だから問題ない。いつも使用する機材はデスクの上に置かれている。

 空いたスペースにマイクスタンドを置いて、ポップガードをつける。マイクは一応あるが、おそらく自前の物を持参するだろう。

 あとはアンプを置く場所を作れば、いつ孝昭が来ても大丈夫だ。

 そんなタイミングで自宅のチャイムが鳴る。孝昭だ。何とナイスタイミング。


「おーっす」

「早いな」

「そりゃ、な。お前からの誘いなんていつ以来かなーと。ま、お邪魔しまっす」


◇◇◇


「いつもと全然違うな。今回のはかなり支持率取れるんじゃないか?」

「うーん…でもなぁ。いつものオレじゃねぇじゃん。これ出しても良いんかなーとか考えると余計に詞が出てこなくてさ」


 まだ詞は完成していないと言っていたので、先に曲だけを俺の部屋で聞いていた。


「いつもよりちょっとキーが高くないか?」

「あー…お前なら気付くよなぁ」

「?」


 何が言いたいのか分からず続きを促すがなかなか話そうとしない。


「何だよ。別に言いたくねぇならいいよ」

「いや…うーん。今回の曲はさ、ミナの音域で作ってみたんだよな」

「…は?ミナに歌ってもらいたいのか?」

「そこまでは考えてなかったけど、何となくミナが歌うならこんな感じかなーとかって」


 珍しいことを言うもんだ。しかし納得もしていた。今までと違うのは当たり前だ。歌う対象が違うから曲がいつもとは違うのだ。

 そんな当たり前のことに今さらながら気付く。


「…詞もミナが歌う前提で書いてみたら?」

「あー、そっか。それなら出るかも。ちょっと…書いてみるわ」


 思い立ったが吉日ではないが、孝昭にとって思い浮かぶ何かがあったのだろう。俺の部屋で詞を書き始めていた。

 そんな孝昭を見ながら思い出す。

 今日出会ったあの子に歌わせるなら…。俺も作曲に精を出すのであった。


 結局、孝昭が帰ったのは夜も遅くなってから。一応、俺の部屋は防音にしてあるが録音はしなかった。

 二人がそれぞれ音楽を作ることに集中してしまい、気付けば遅い時間だったからだ。

 いつの間にか姉も帰宅したようで、久々に来ていた孝昭に会いに一度だけ俺の部屋を覗きに来た。

 その時に孝昭は目の前のことに集中しすぎて、俺の姉に『色の世界』の話をぽろっとこぼしてしまった。


 やべぇ、バレた。


 姉は少しだけ強ばった顔をしていた気がしたが、俺はただひたすら『色の世界』を検索しないで欲しいとだけ願った。

 その日のうちに孝昭は詞が出来上がり、俺も初めて唄い手のことを考えた曲が出来た。アレンジを加える必要はあるが、メインのメロディは出来た。

 集中しすぎて終わった後は疲労感が半端なかったが、それを上回る達成感があった。

 二人で何だか笑ってしまった。

 さすがに遅いからとその日はそこまでで終わり、孝昭の機材類は俺の部屋に置いたままにしてまた明日続きをやろうと言って孝昭は帰った。


 疲れたからすぐに眠れるだろうと思ったが、妙な興奮でなかなか寝付けず俺は翌日を迎えた。午前は講義だ。

 孝昭も同じだったようで、二人して眠い目を擦りながら講義を受けたのだった。

ボーイズラブにはなりません。

そんな予定はちっとも無いのですが…気になったらごめんなさい。

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