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突然だが、俺は『色の世界』に魅了されている。
『色の世界』とは何か?詳しい説明が欲しい?
仕方がない説明しよう。
『色の世界』とは音楽系ネット配信グループのひとつだ。
他にもたくさんあるのだが、俺は作曲を始めてからずっとこの『色の世界』の住人だ。
『色の世界』は名のとおりカラーリングされており、視聴者支持率対決が一応されている。
一応と言ったのは、三色しかないことと各色で住み分けがされているからだ。実質は対決になりゃしない。
この『色の世界』のカラーリングだが、青、赤、黄の三色だ。
青は作曲家たち。インストゥルメンタルが基本だが、最近では音声合成ソフトを利用して自分の曲を機械に歌わせるのが流行りだ。この青での禁止事項は人が歌ってはいけないこと。作詞の有無は関係ない。ちなみに動物はOKである。
赤は唄い手たち。歌手がメインだ。赤に居る唄い手たちに歌ってもらいたい、歌わせたい曲を作って、それを唄い手が歌った音楽が公開される。この赤では機械で音を変えすぎることが禁止事項だ。歌の部分で明らかに機械音の声が聞こえるのはNGである。
唄い手が自分で曲を作るのもNGだ。何気に一番制限がある色かもしれない。
最後に黄だが、この色が一番メジャーに出る人が多い。黄は本人が作詞作曲歌手のすべてを行うシンガー・ソングライターだ。ということは、ここの禁止事項はグループ禁止。一人でやることが条件となっている。
一人ですべてを行わなければならないため、この色が一番在籍数が少ない。だが、当たれば有名人になれるということもあり一定の人数はいる。そして入れ替わりも少ない。
すべてに共通することはオリジナル楽曲を用いることと、『覆面』であること。
顔出しは絶対にNGだし、リアルの世界で探りあうこともNGとなっている。
この世界からメジャーへ出ていって姿を見せる人もいる。そういった人達はこの『色の世界』には二度と戻れない。卒業となる。
そんな『色の世界』にどっぷりとハマるきっかけになったのは俺が中学校に入る前。小学校卒業後の春から中学生になるという春休みに出会った音楽。
それは3つ歳が離れた姉が地元アイドルとしてデビューが決まった時。
その時にメイン曲として姉に渡された曲が当時の俺にはかなり衝撃的だった。人では奏でられない音の数々、様々な和音と不協和音が折り重なりどこか耳障りなのに妙に耳に馴染む音楽。
それまでの音楽といえば、学校で聞いたクラシックとテレビで流れるポップス?程度としか思っていなかった俺はそのたくさんの音に圧倒されて魅了されてしまったのだ。
ちなみにそのメイン曲は、中高生アイドルが歌うには難しすぎたらしく、お披露目前にお蔵入りとなった。
そしてその曲に打ちのめされたせいか、姉のアイドル活動は1年足らずで幕を下ろした。負けず嫌いだからなぁ、うちの姉は。
俺のそれからというと、中学時代はバンド活動をしたり自己流で音楽の勉強をして、高校時代に『色の世界』デビューをした。
そう中学時代からどっぷりと音楽の世界に浸かっている。
あ、もちろんそれなりに勉強もしていた。
高校卒業後は普通に普通の大学に通っている。これが今の俺だ。
中学時代こそバンドを組んでオープンに音楽活動をしていたが、高校時代からは『色の世界』で覆面作曲家として活動している。
俺が在籍する色は当然ながら青。実は青の視聴者支持率No.1の座を高校3年から譲っていない。今が大学1年なのでまだ1年程度なのだが。
俺はただ曲が作れれば満足だからプロの作曲家として音楽一本でやっていくつもりはない。
だが、No.1が続くと有難いことに、そういった話も出てきてはいる。
そんなわけで、顔出しNGのまま『色の世界』でのネームを使用せずに、CM曲などの依頼を受けることもある。本当に有難いことだ。
そうだ。俺の名は櫟木悠斗。『色の世界』での名前はYu。安直すぎる?いや、中学時代に考えていたネームだから仕方ないだろう。
それ以外で使っている名前はichi。…ネーミングセンスがないというのは言わないで欲しい。でも、だいたい皆そうだと思う。
腐れ縁の友人で俺と同じく『色の世界』の住人である孝昭もAkiだし。そんなもんだろう?
本来であれば詮索してはいけないのだが、孝昭とは『色の世界』を始めた同期だ。
元々は中学の同級生であり、同じバンドのメンバーだった。バンドは中学卒業と同時に解散した。同じ高校に通うと決まった時にバンドをまた組むかと聞かれ、俺は『色の世界』の話をした。すると、孝昭もやってみたいと言ったので、俺と色は違うが一緒に始めたのだ。
孝昭の色は黄だ。ギターをやっていた孝昭はバンド時代も作曲をやっていたし、実は歌っても上手い。中学時代はギターテクを磨きたいからと言ってボーカルは辞退したが、俺は孝昭が歌っても良かったと思っている。
ちなみに俺はキーボード担当だった。歌は…聞かないで欲しい。
孝昭の場合は歌も詞も良いと思うのだが、曲が少し古くさい。一部のファンには人気だが、視聴者支持率はあまり高くない傾向だ。俺は好きな雰囲気だけど。