この世界では、一生に得られる幸福量が定められている。
暴力・流血表現を多分に含みます。
苦手な方はブラウザバックをお願いします。
また、これを呼んだ方の気分が悪くなろうと、作者は一切の責任を負いません。
★【お読みいただく前に】★
暴力的な表現・流血表現を多分に含みます。
ご注意を了承できるかたのみお読みください。
この世界は異常である。
なぜなら、人々は一生のうちの幸福量を定められ、それが尽きると即座に死に至るからだ。快楽、娯楽、安心、心地よさ、明るさ。人間はありとあらゆる幸福を追い求めるような生き物である。だからこそ、この世界は異常である。
生き物が滅亡に向けて進化するのだから、異常と言う以外にない。
この世界では唐突に人が死ぬ。当然だ。人の幸福量なんてはたから見てわかるはずがない。今日も街の街路に血は流れ、人々は「よかった、幸せになったんだね」と的外れな祈りを捧げる。
ある高校に通う一人の男子生徒がいた。彼はクラスのマドンナに恋をしていた。思いは募り、心は昂り、彼はそれをどうにか伝えられないかと様々な手段を画策した。電話、メール、はたまた手紙か。どれも違うような気がした。
彼は結局、気持ちを直接言葉にすることを決意した。
ある日、彼は校舎の裏手にマドンナを呼び出した。
「どうしたの? 話って」
体に溢れる緊張感。それを全て思いに変える気で、彼は大声を張り上げた。
「あなたが好きです。付き合ってください!」
目の前の彼女ははっとした。まさに大和撫子と言うにふさわしい黒髪が、さぁっと風になびく。
いつも黒板を眺める漆黒の宝石が、今は自分に視線を注いでいる。そう考えるだけで、男子生徒は緊張し、これまでにないほど興奮した。
「嬉しい」
「えっ」
顔を上げれば、彼女は赤い顔に涙を浮かべていた。
「私も、好きだよ」
これは現実か? 男子生徒は本気で自分を疑った。自分はまだベッドの上で夢の中か? これは、これは……
「現実だよ」
マドンナは男子生徒の頬に触れた。
「しっかり感触あるでしょ?」
「あ、ああ、ああ、ある。現実、そっか、現実か」
「うん、現実。本当に、嬉しい。ありがとう」
お二人さん!
そんな声が上から聞こえて来た。三階の男子トイレの窓から、友達が三人見下ろしている。その手には三角錐の何かを持っている。
パン、とそれが爆ぜた。クラッカーだ。
「おめでとう!」
「おめでとう」
「やった、やった、ありがとう!!」
男子生徒は心の底から喜んだ。これから始まる彼女との楽しい日々に思いを巡らせ、思考の海を漂った。しかしそれは、すぐに中断した。そうだ、そんな妄想に浸らなくても、俺には現実の彼女ができたのだ。やった──やった!
「ねぇ」
マドンナが言った。
「今度の日曜。映画館行こうよ」
「えっ、いいの!?」
「うん──私の初デート。あげる」
なんということだろう。あア、なンという小とダろ宇? 彼女ト乃間柄をエルだけでナク、まさか、初dateの予想がぐるぐる回って一人で映画とポップコーンア祖水落海のなアで射なくmをまたああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。
パン!
と音がした。
男子生徒の頭が粉々に砕け散った。
幸福量が最大に達したのだ。
マドンナは「あっ」と小さく声を出した。まるで、お菓子を食べようと手を伸ばしたら、すでに袋が空だった時のような、酷くあっさりした声だ。
「そっか」
それから、小さく微笑んだ。
「幸せになれたんだねおめでとう」
男子生徒は死んだ。その日の午後、清掃サービスの車が校舎に飛び散った鮮血と脳漿を片付けていた。
*
同じ高校に、変わった男がいた。彼は血みどろの校舎裏を見て、顔を歪めた。
彼は死にたくなかった。たとえ不幸でも構わない。自分は寿命を全うしたいと心から望んでいた。
「俺は、これから不幸になる。絶対に不幸になって、何が何でも生き延びてやる」
彼は常にそう宣言していた。クラスメートは彼のことを避けた。なにせ、その世界では死ぬとわかっていようが幸福を求めることが当たり前だったからである。
彼はいつも一人だった。理解者なんかいやしない。その点において、彼は不幸であった。
彼はある日、一つのことを思い立った。家族がいることは、それだけで幸福なのではないか、と。彼は両親を殺した。家の地下に死体を放棄した。彼に話しかける人間が世界からいなくなった。その点において、彼は不幸であった。
彼はある日、一つのことを思い立った。体が動くことは、それだけで幸福なのではないか、と。彼は医師に立ち会ってもらい、自分の四肢を切断した。枝を刺していない雪だるまのようになった彼は、不自由な体を手に入れた。運動も、遣りたいことも、娯楽も、何もできなくなった。その点において、彼は不幸であった。
彼はある日、一つのことを思い立った。意識があることは、それだけで幸福なのではないか、と。彼は医師に睡眠薬を投入してもらった。効果の強いものだった。彼はすぐさま昏睡し、もはや生きているとは言い難い状態で生き始めた。彼に自我を生み出す意識と言うものはなかった。その点において、彼は不幸であった。
無意識の中で、男は確信した。
環境、体、意識。全てにおいて、彼を幸福にできるものはこの世に存在しなくなった。彼の計画は完璧であり、そして、医師は首を傾げた「どうしてこの若者は幸福に死ぬのを避けるのだ」と。
周囲の人には納得できなかった。
医師も、看護婦も、麻酔師も、誰もかれも首を傾げた。そして、幸福に死ねない男を卑下した。きっと、精神疾患でも患っていたのだろうと納得しだした。
それから一週間が過ぎた。
男の脳は、もはや何の心配もいらないことを理解した。
そして、男の頭ははじけ飛んだ。
病室が真っ赤になった。紅白の模様が生まれた。医師たちは、「縁起がいい」と喜んだ。彼は幸福になれたのだと、おめでとう、と何回も言った。
昏睡したことによる安堵、死ななくて済むのだという安心が、男の中に段々と募っていった結果だった。それは加速度的に量を増し、結局男を死に至らしめた。
この世界は、異常である。
死ぬか、それとも幸福を遮断するか。どちらにしても、それは生きているとは言えない物であった。
これは、ある世界線の話。あったかもしれない世界の話。
読了いただきありがとうございます。
推敲なしで一発で書き上げた息抜き小説です。
「息抜き」って言ってるのにこんなスプラッタな話が出来上がってしまって「病んでるのかな……」と一人自分の精神状態を疑っております。
普段はこんな話書いていないよ!
幻想的な話とか、王道な展開が大好きな文絵夏音です。
この作品は評価するくらいなら、拙作「晩夏と花火と少年」にコメント、評価、誤字脱字報告、アドバイスをください! なんでも喜びます!
以上。読んでくださりありがとうございました。