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小さな小さな勇者の卵

前半は主な登場人物は主人公だけですが、後半から少し盛り上がります。

 


 その眼が気に入らなかった。と、ある少年を見たものは誰もがそう言った。

 

 塵一つもなく全てを花紅柳緑に映す、角膜が透明の瞳だった。

 

 奇妙だと罵倒してくる者や、極一部嫉妬している者から表に出すなと言い寄せられたため家族は倉庫に閉じ込めた。



「ママ、テッドのエサどうする?」


「台所に野菜の芯が転がってるでしょう?それを放り込んで置けばいいのよ。」

 

 居間で食事をしながら会話している娘のドリアと母親のナースは親子揃って口いっぱいに野菜を頬張っていた。

 

 しばらくすると少し前の扉が開いた。


「おかえりなさい、レイタス。今日はどうだった?」


「駄眼だった。山の奥まで行ったがほとんどの動物が死んでいたよ。あの状態だと食べれそうにない。」


「パパ、いつになったらお肉食べれるの?」


「すまない、ドリアしばらくは無理そうだ。」


「じゃあ、アイツを食べればいいじゃん。倉庫ん中でなんもしないクソテッドをさあ!!!」


 

 

 倉庫の中にいる少年テッドは物思いにふけっていた。


「いつになったらここから出られるのだろう...」

 

 彼は赤子の時に畑で捨てられているところをレイタスに拾われ物心がついた5歳の時から畑耕し、掃除などにこき使われていた。

 

 今すぐ逃げ出したいと思った彼は脱出手段を模索し何度も試していた。天井に穴をあけ、外へ出るまではよかったが、そこから下りる方法までは考えてなかったので、やむを得ず飛び降りたが、着地する際に足を挫いているところをレイタスに見つけられ再び閉じ込められた。脱出しようとすると痛い眼に合うと痛感したため、彼は二度としなかった。

 

 そして12年経った今に至る。


 翌朝。いつにも増して聞こえる外の騒がしさにテッドは眼が覚めた。

 

 彼が住むベジッド村は山々に囲まれており山から直接狩りをしたり畑を耕したりして生計を立てているため他の村との交流はない。そのため毎朝遠くから野菜や肉の交換を求めて行商人が訪れる。

 

 だがその日は遠いところから送られてきた装飾品に喜んだり、変わった武具に興奮したような声はなかった。どうやらその原因は村長の下に届いた一通に手紙らしい。



「まさかテッドのことじゃないでしょう。誰もあんな子欲しがったりはしないわ。」


「だがこの村で片眼が違った色をしているのはアイツ以外いない。村長の手紙の内容に従ってアイツを差し出して動物を殺すことと畑を荒らすことをやめてもらわないと生活ができなくなる。」


「なら早く差し出しましょうよ。使い走りが一人減るのは少し残念だけど生活ができないに越したことはないわ。」


 手紙によると今夜、山にある楼門の前に少年を置くようにかいてあったらしい。


 レイタスはナースにそのこととテッドを見張っておくように告げると村長の所へと走った。


 テッドは倉庫の隙間から外の様子を見ていたため騒ぎの原因が自分にあると理解した。


 夜になった。村長から来たというその男にレイタス、ナースはテッドを渡した。男は馬車に乗ると楼門へと馬を走らせた。


 テッドは馬車から見える景色に少し感動していた。畑に浮かぶ点々とした緑の物体が非常にきれいだったからだ。もちろんこれらが蛍だということをテッドは知らない。楼門にはすでに村の男たちが何人か来ていた。罵倒する者もいたが中には夜遅くに子どもを一人にするのは物騒だと思う男もいたのだろう。


 男は護身用にと小刀を渡した。正直渡されたところで剣術など一切知らないし、刀を抜くより先に逃げるだろうとテッドは確信した。


 ふと右眼が熱くなるのを感じた。透明の方だ。

 

 そして映る。


 この世全ての邪の象徴と言ってもいいだろう。


 眼の前には黒の仮面をつけ、黒ずくめのコートで体を覆い、二の腕に剣を持っていた者がいた。


 片眼でしか見られないのが不思議だった。すると、そいつは短刀と長刀から血を滴らしながら急接近し斬りかかってきた。


「!?」

 

 痛...くはなかった。眼の前には暗殺者のようなものも血の跡もなかったのだから。

 

 テッドは一眼散に逃げだした。あんな場所にいられるはずがない。ただひたすら逃げた。


「待つんだ!」


「捕まえろ!」


 テッドは知らず知らずのうちに畑の中に入っていた。土、糞尿の異臭がしたがそれでも逃げ続けた。


「え?嘘だろ?」 

 

 足を踏み外し2m下に落下した。そして意識を失った。



 朝、目を覚ますとテッドは自分が落下し意識を失っていたことに気づいた。土嚢の捨て場に落ちたらしく大した怪我はなかった。そして村を見る。


 村が燃えていた。


 村に何とか着いたが、着いた頃にはそこは村ではなく一つの惨劇と化していた。


 踏み場のないくらいに倒れている人や小動物の死骸。首が無惨に切断されていたり腹を抉られ内蔵を溢しているものもあった。


 つい昨日まで楽しく暮らしていた人たちが、どのようにしてこうも無惨な姿になれるだろうか。


 生きている人を探そうとテッドは“村だった”場所をさまよい歩いた。


 途中、家も通ったが施錠されていて入れなかったが中から血の匂いがしたためもういないことを悟った。近くに咲いてある綺麗な花を一輪、そっとドアの前に供えた。


 中央の集い場に一人の男がいた。服装からして村の者ではないのだが、何故か悪い人だとは思えなかった。


 そしてこちらに気づく。ゆっくり歩いてくる。


 ようやく彼の顔が笑っていることに気づいた。それはレイタス一家のような悪人が見せる侮蔑に満ちたものではなく、善人が見せる寛容に満ち溢れたものだった。


「誰だよ、あんた。」

 

 初対面の相手に出た第一声がそれである。教育を受けていないので当然ではあるが。


「これは失礼。私はパーシヴァル・ヴァン・ルーズベルト。隣国からきた旅行客よ。朝起きたらいきなり家燃えてるわ、人死んでるわ、どうなってんのよ、ここは。」


(男・・・だよな?)


 テッドは確信した。コイツ駄眼な奴だ。と。


「宿泊客は私だけでもないらしいわね。」


 2人の周りに昨夜出会った全身黒ずくめの男が7,8人いた。


 ルーズベルトはさっきと違う笑みを彼らに向けながら言い放った。


「ごめんねえ、旅行を楽しんでるところ申し訳ないんだけど...」


「消えてくれる?」


 一瞬の出来事だった。土から剣、槍が彼らの心臓めがけて飛び出した。


 魂を失った器たちはその肢体を支えることなく倒れた。


 剣と槍、彼らが持っていた刀は土の中へ還っていった。


「早くここからでたほうがいいね。」


 彼はここまで馬車できたらしく、馬車にのせてくれるらしい。


 昨日乗った馬車よりも内装が広く綺麗で乗り心地が良いものだった。


 出会うまでの経緯、村のこと、家族のことまで色々話させられたが中でも彼が最も関心を抱いたのは眼のことだった。生まれつきであることと昨日見た片目だけの幻のことを話すと彼はこちらを見て優しく微笑んだ。


 そして、やっと見つけたと自分に言い聞かせるように小声でつぶやいた。


 よく見ると彼も両眼が異なった色をしていた。左眼が黒く右眼が赤。


 その優しそうな顔を見ていると少し眠くなってきて気づくと横になっていて意識を落としていた。


「強力な催眠術をかけていたんだが、やはりその眼の抗力で打ち消されていたのか...もう二度とあのような失敗は許されない。」


「君を目覚めさせて見せるから」


 


 目が覚めたがやはり違った場所での起床はまだ慣れそうにない。17年間ずっと倉庫で暮らしてきたものからしたら起床直後は中々落ち着かない。


「どこだよ、ここ」


 目の前にはたくさんの人が右往左往していてその中央のベンチ座っていた。


 


 横には小柄でな男の子が座っていた。


「目が覚めたかい?」


「...」


「まずは自己紹介からだね。僕はロロ。この町に住む、ごく普通の少年さ! 君は?」


 ロロは激しい手ぶりで言ってみせた。


「俺はテッド。この町に住む、ごく普通の少年さ!」


「いや違うでしょ!あとセリフと手ぶりのマネしないでえ!」


「悪い悪い。テッドでベジッド村から来た生き残りだ。」


「聞いたよ。一昨晩に魔人軍から襲撃を受けたんだよね。」


「まあな。ていうかここはなんなんだよ。」


 人口が少なく人混みとは無縁の村で育ったテッドにとってそれは驚異だった。


「ふーん、ここに来たの初めてなんだー」


 透明の眼をゆっくりと見てから彼は独り言のようにして言った。

 

 ロロは両手を広げ、


「ようこそ、ユリンピアへ! 君の祈りが成就することを願って・・・」


 彼は手を合わせていた。


「なんだよそれ。」


「初めて来た人へ歓迎の挨拶だよ。ずっとここにいるのは気が引けるし少し歩こうよ。話したいこともあるし。」


 ロロは立ち上がると、細道のほうへと歩き出した。それにテッドは続いた。


「ここはねえ、全ての人が一つの職に就かなくちゃならないことが義務付けられててね、当然君も働くことになるよ。」


 ここユリンピアは大きく3つの職がある。

 

 1つ目は生産業。野菜を育てたり、魚と獣を捕ったり、武具を生産する。


 2つ目は王国騎士団。3年間、騎士育成学校で修行して叙任試験をパスして就くことができ、剣術士、魔術師の2つに分離される。


 3つ目は政務業。聖職者を筆頭に政治を行う。就くには難関の試験をパスすることが第一条件である。


「俺は絶対農家になりたい。」


(のんびり暮らしてやる。騎士団?すんごい体したやつに、しごかれて・・・ 最悪訓練中に死ぬな)


 国を守るのが生業なのだから当然つらい練習になるだろう。


(政務業?勉強なんか御免だ。)


 倉庫で12年間暮らしてきて日中は畑を耕してきたテッドは教育など当然受けていない。雨の日なんか家畜のウ〇コをつついて大半をすごしてきたのだから。


 ロロの説明が終わるとテッドは絶対に農家になるんだと誓った。


「ま、まあそんなすぐに決めるようなことじゃないから。それに農家業したいんなら家とかも自分でどうにかしないといけないんだよ?」


「家ない人はどうすんのよ?」


「農家の人の大半は家を親戚から受け継いでるからね。家がない人は酷だけど馬小屋に・・・」


 冗談じゃない。倉庫よりもひどいじゃないか。なら残された選択肢は・・・


 騎士育成学校。


 なんだかこれからの将来が不安に感じていると、


「着いたよ!」


 いつの間にか細道から大通りに出たらしい。テッドは左右に並ぶ店というものを見たことはなかったが、物を買う場所だということは理解できた。


「なんか買うのか?」


「テッド君はどのみち選択肢が育成学校に通って騎士になるしかなかったからね。ここで必需品とか揃えようかなーって。」


「金とかないんだが。」


「お近づきの印だと思えばいいよ!」


(相変わらず能天気なやつだな。赤の他人にそこまで振舞うかよ。)


 一行は制服など生活に最低限必要なものを買い揃えると奥に進んだ。少し長い行列があった。


「なんだこの行列は?」


「さっきも言ったように学校に通うとなるとどちらかのクラスに属さなきゃならないだ。」


(剣術士と魔術師どれも大変そうだわ。)


「この行列は2つのグループに分けるためのゲートの列だよ。」


「わざわざそのゲートってやつに選べさせんのかよ。」


「違うよ、人の体の中には魔術回廊ってやつが一部の人にはあるんだよ。その人だけが魔術師クラスになれる。それ以外は剣術士クラスになる。さあテッド君はどっちなんだろうねえ~?」


(相ッ変わらず可愛い顔してんなーコイツ)


 並んでいると少し先に、手のひらから火を出している男性がいた。


(もしかして俺もあんな風に火を出せんのか? なんだ、いいじゃん魔術師クラス。俺絶対魔術師クラスになるんだ。)


 そうこうしているうちにいよいよテッドの番が来た。


「頑張ってね、テッド君!」


 ロロに見送られながらゆっくりと進んだ。


 特に何も感じなかったが、これでいいのだろうか・・・


 ゲートをくぐり終えると結果を報告する女性がIDカードを渡してきた。


「えっと、魔術回廊がありませんでしたので、剣術のクラスとなりました。こちら身分の証明にもなりますので、無くさないようにお願いします。」


 ロロが寄ってきた。


「なかったかー。まあ剣術士も中々カッコいいよ。」


「振っててしんどいだけじゃん。手からカッコいい火とかいっぱい出したかったの!」


「まあ、杖を買えばいいんだけど・・・」


「なれんのかよ!?」


「ただ普通の魔術師の空気中のマナを魔術回廊へ取り込む動作を杖で代用するわけだから当然難しいし強くなりにくいんだよね」


 マナとかよく解らない単語が出てきて理解できなかったが向いていないことだけは理解した。


 正直なめていた。もっと簡単なものだと思っていた。


「てか、騎士になるんだろ?ていうことはいつか魔術師と戦うこともあり得るんだよな?」


「そうだね。ほかにも魔獣とか場合によってはドラゴンとか。」


 何故かドラゴンの所だけトーンが違って聞こえたが、まあ今はどうだっていい。


「なら魔法で剣とか撃たれたらぜってー負けんじゃねーかよ。」


「そうだね。でも剣だって―—」


 その時だった。目の前の店のドアが吹き飛んだ。

 

 このままだと当たる―― 


「≪スプリット≫ドアよ爆ぜよ!!」


が、すぐ前まで飛んできていたドアが目の前で弾けた。


 ロロが呪文?を唱えてくれくれたおかげか命拾いした。


「・・・なんなんだよ。」


「強盗だろうね。恐らく」


 店の入り口から強盗と思われる女が出てきた。そして入口に泊めてあった馬に飛び乗って進もうとしたその時女の膝に短刀が刺さった。


「んぐ!?」


 その拍子に馬から飛び降りた。


「そこまでよ、強盗!!」


 そこには1人の女騎士がいた。背中を撫でる金髪のロングヘア、肌は雪のように白く口はリンゴのように赤い。体は露出の多い鎧で全身を覆っていた。


 ほとんどの人が思わず二度見してしまうようなその容貌にテッドは、


(おっぱい、おッき―――!!!)


 ・・・強盗は右手を広げて前に突き出し呪文を唱えると先頭に魔法陣を作って見せた。

 そしてそこから6発氷柱を発射する。


 とてもじゃないが避けれそうにない。だが次の瞬間、


「嘘でしょ?」


 強盗は唖然としていた。無理もない。全ての氷柱は当たる直前で弾け飛んだのだから。

 

 呪文を唱えたのだろうか。いや違う、その女騎士は氷柱6発を体に当たるまでの間に全て剣で正確に弾いたのだ。


 強盗はようやくそれに気づいたがもう遅い。女騎士は急接近し剣で強盗を打っ飛ばした。


 テッドも唖然としていた。正直、剣で勝てるとは思わなかった。


 刃のないほうだったので気絶している強盗を女騎士の部下たちが運んでいるのを見ていると、


「わかっただろ?剣だって勝てる。魔法は発射されてからの速度は一定だが、剣はその者の実力次第で限界を超えた速度だって出せる。努力の積み重ねをそのまま出せる、剣こそ最強の武器だよ!!!」


 つらい日々を送ることになるだろう。だがそれを乗り越えた先にあるものはテッドにとってとても美しいもののように思えた。


(もしそれを掴めるチャンスがあるのなら挑んでみたい。)


 強くそう決心した。


 だが彼はまだ知らない。いずれ自分が世界を救う存在になることを—―。







 


 









 

 

 


 

 


 

 


ありがとうございました。次回は学友が登場します。主人公が1つの信念を貫く物語です。

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