引きこもる準備
シティの電子図書館にレファレンスを依頼して、アンティークロボットに関する電子書籍の閲覧手続きをした。
閲覧許可がおりる前にぼくは食材の買い出しに向かった。天気予報によると、これから一層の寒波がある予定だった。それが終われば春が来る。
食材を調達しないといけない。
いつまでも流しの屋台でスープを買うわけにもいかない。
大きなバックとプリカをもって食材市場の門をくぐる。
「あら、ヨゼフ君。久しぶりに見たわ。生きてたのね!」
市場管理者のおばちゃんにあいさつをされた。目が大きくて、声が大きなおばちゃん。外をウロチョロする生身の人間は少ない。少ない人間の一人がぼくだ。彼女はいつもぼくを強くハグしてくれる。
大体みんな買い物はお手伝いロボットにさせるらしい。
おばちゃんの名前を実は知らない。
聞いたことあるんだろうけど、覚えてないのだ。
ぼくは失礼な奴だ。
「生きてました。しばらく引きこもってたんですが、食べるものがないとどうしようもなくて、出てきました」
「じゃあ、冬眠が終えた子熊さんみたいなものかな!」
おばちゃんは自分の例えが面白かったのかケタケタ笑って、ぼくを解放してくれた。
多くの食材を買い込んだ。おばちゃんに「また引きこもるのかい!?」と驚かれた。
「ぼくが引きこもったからってどうもならんですよ」
「……たまには顔見せておくれよ。毎日、表情が薄いロボットばかり見てたらさみしいんだよ」
弱々しい声を背に、ぼくは家路につく。
バックいっぱいの肉と日持ちする野菜を詰め込んでいる。
一歩踏み出す。その度にいくらか薄くなった雪に足が沈む。
明日はまた雪が降る。
それを超えたら、春が来る。
機械の町に春が近づいていた。




