ジャンク市を知る
しばらく運ばれた。歩くのも癪だから運ばれるままだ。
ぼくは雪が降り始めてから外に出るのを控えていた。痛いくらいに冷たい風がぼくの顔をなでる。
通り過ぎる街並みに雪が添加されている。いつもは鮮やかな緑の常緑樹も白い。
誰かが踏んだ雪の上を動く兄の足が見える。
「久方ぶりの外はどうだ?」
「……まぶしいから早くお家に帰りたい」
太陽の照り返しが強い。
「だめだ。少しは光を浴びろ。母さんから頼まれたんだ。お前が生きてるか見てこいって。ついでに連れまわせってね。お前の家に行く道中に面白いものを見つけた。見せてやろうと思ってな」
「ぼくを楽しませるだって? そいつは難しいな」
連れ出されたのはジャンク市だった。
いつもは広い公園なのだが、今はいたるところにゴミと思しき品々が並んでいる。
こういったものに金を出すものがいるのか。
「冬の間はここはジャンク市をしているらしい。そこらへんのゴミステーションから使えそうなものを拾い集めてる集団らしいよ」
運ばれるぼくに兄が説明してくれた。
いつも冬は引きこもっていたからわからなかった。こんなことしている人たちがいたのだ。
ぼくも相当に小汚い恰好をしているけど、ここではぼく以上に汚らしい人がひしめき合っていた。
それを見ると、ぼくの汚い感じもそこそこに見えるのだから不思議だ。
気持ちも上向いてきた。ぼくはシンプルである。
自分よりもみすぼらしい人を見ると安心する。
この性質は人間としてできたものではない。だけど、仕方がない。ぼくは大した人間ではないのだ。
小綺麗な兄の方が浮いていた。ぼくは浮いていない。それがいい。
「思ったより楽しんでいるようじゃないか」
「ぼくよりも小汚い人が並んでいるのだから、楽しいもんだ!」
「……あまり、そういうのは口にしてくれるな」
ぼくが生活している町の人は勤勉な働き者もいれば怠け者もいる。働き者は怠け者が嫌いな人が多い。現にぼくが昼間に近所をウロチョロしているとあまり良い顔をしない。
「生きている意味はあるのか? このうんこ製造機め!」
そういう罵声をくらい、ショックのあまりに病院に行ってみると、お医者さんはそのことに憤慨してくれるフリをする。ぼくがお医者の言葉が本当か嘘か。そういうのを見極めようとすると「医者をそういう目で見るな」とお医者に怒られる。
多分、あの医者もぼくがはたらいていないのが気に食わないのだ。
もう、病院には行きたくない。
怠け者は基本的にすべてにおいて無気力だったりするので働き者のことを嫌いでも好きでもなかったりする。だけど、働き者の人達の頭脳労働のおかげでぼくは怠けていられるので少しは感謝してる。
少しだけどね。
ジャンク市で働いている(ジャンクパーツを目の前に並べて、ふてぶてしく座っていることを働くというのかはわからない。店番してる?)おっさんや、おじさんを見まわしていると、その無気力な感じがぼくを楽しませた。
「兄ちゃんはぼくの特性をよくわかっている! 今のぼくの気持ちはうなぎのぼりだ!」
兄は変わらず、ぼくをやさしく引っ張っていた。




