行政処分について
ことが終わった後は、マリアは何もなかったのようにシャワーを浴びて、横たわったぼくを介抱してくれた。
兄が泣きながら腰を振るのを見てるのは地獄だった。
「ヨゼフさんはセックスが嫌い?」
「……嫌いになりそうだ。君の持ち主はぼくの兄貴だったんだね」
「所有者がわかったから、もう秘匿する情報じゃなくなりました。あたしはあなたのお兄さんのセクサロイドです。所有権については宙ぶらりんだけど。あの人があたしを投棄した時点で情報は修正してもよかったのにね。だけど、あたしって誰かのものじゃないといけないの。だけど、ヨゼフさんにあたしをもらってなんていうのも悪くてね。こんなことになるなら申し訳なかったよ。ごめんね。ごめん」
マリアはぼくに謝罪を繰り返した。別に謝るこっちゃない。彼女はアンドロイドだ。多くの条件付けで制約されることもある。
ぼくの予想をうわまった。本当なら気づくべきだった。
兄がマリアを見る視線の色を。多くあるジャンクの中、ぼくがマリアを選んだことをどう思っただろう。
やるべきことをする。
助けてくれと頼まれたのだから、助けるのもやぶさかではない。
世界が灰色だった。
群青色の制服たちが窓口を闊歩していて、ぼくが辱められたわけじゃないのに、なんでかぼくが傷ついていた。
先日の件について、役所に相談にきていた。
マリアはその機能を十全に果たしたわけで、なにか問題があるわけでもない。
「アンドロイドのマリアはセクサロイドです。性的暴行被害として受理するようなことはできません。それに持ち主がアンドロイドをどうこうしようがそれはなにも問題がないのです」
「……話は分かった。君とぼくの仲だ。今までお互い世話になったし、世話もかけた。君がおこした不祥事もそれとなく目を瞑った。どうだろうか。便宜を図っちゃくれないか?」
「ヨゼフさん。お黙りください。献身的な私の性格を盾に脅す気ですか?」
「まさか、めっそうもない。きみはぼく以外に多くの市民を対応しているし、マリアの持ち主について、わかっていた癖にあえてぼくに教えなかっただろう。なにか、考えがあってなのか、ミスなのかわからん。これらの疑問は置いといて、ぼくとマリアにとっての最善を教えてくれよ」
いつもの制服アンドロイドは瞳孔を目まぐるしく回転させながら、ぼくの発言を処理していた。
「お考えわかりました……それでは、マリアさんお話伺っていいですか?」
ぼくの隣で座っていたマリアは返事を返した。
「どうぞ」
アンドロイドとアンドロイドが語り合う。滑稽なのか? 何かおかしいところがあるのか。
「マリアさんはどうしてみたいですか? 私が拝見したところ、あなたはどこの工房のデータベースにも記載がない、かなり特殊な仕様のアンドロイドです。自発意思があるようです。参考にします」
「殴られないで済むようになりたい。あたしが安心して過ごせるならだれでもよかったです」
だれでもよかった。こういうのを聞くとやっぱり堪える。
「それなら、もっと精神的にも金銭的にも安定した持ち主を探しましょうか?」
制服さんがぼくにとどめを刺す。みんなもっとやさしくなって。
マリアはぼくの手をやさしく握りながら言う。
「いいえ。誰でもよかったんですけど。多分、ヨゼフさんならもっと良い。そう思ってしまいました」
マリアの精いっぱいのリップサービスなのかもしれない。
「彼はそんなに良い人ではないかもしれません。まず勤労の精神が一切ありません。市民査定も最悪です。何かを成すこともないでしょう。革新的な人物でもありません。社会に貢献するようなことも皆無でしょう。今は健やかでも、精神的にいつか病めることがあるかもしれません。だって、ナチュラルベイビーですよ。低所得が約束されるような男です。いつの日か、あなたを殴ることも十分にあり得ます。殴られたらどうするんですか?」
「……横っ面張り倒して、蹴り飛ばして家を出てやります」
乱暴なことはしないようにしよう。
制服さんはマリアの言葉を前に固まっていた。薄い表情が常だった。
今はそれが少し破れて笑みが浮かんだ。
「前の面談でも思いましたけど、マリアさんって面白いモデルですね。頂戴した意見を元に、シティで協議してきます。少々お待ちください」
しばらくして行政処分が決定した。
『ヨゼフ邸の玄関扉錠の変更及びマリアの所有権の再登記、当該対象者への接近禁止通知』となった。
「お兄さまについては、専門医の診察の勧奨を行っておきます。強制性はありませんけど、彼の病的な暴力衝動についてカウンセリングで緩和できるかもしれません。お兄さまには私の方から通知を送っておきます」
行きの道は二人だったけど、今は制服さんもついて三人で家路についた。
家に着くなり、制服さんは早速鍵を付け替えた。
「ご苦労さん。温かい飲み物でも淹れるよ。飲んでってくれ。他の訪問なんてないんだろう」
最近はマリアがホットミルクを作ってくれる。彼女はなんか妙なスパイスを淹れたりしてる。
ぼくだけで飲むのは少しつらい。
「……頂きましょう」
注いだホットミルク(熱々のそれ)を一息に飲み干した制服さん。
皆熱いの平気なんだね。
制服さんは口元についたミルクを袖でぬぐい、一礼して去っていった。
見送ったあと、ぼくたちは残ったミルクを指を温めながら飲んだ。
長い一日だった。




