悲劇は突然に
マリアと制服の面談後、車いすのマニュアルが届いた。
面談の結果について「経過観察」として説明された。役所の方でもマリアの身元を確認を急いでくれていた。
『なにか、不審事があった場合は相談するように願います』
と、付記されていた。
「なにかってなんだよ」
そうは思っていても、わからないなりにマリアを気遣った。
家の中でも、外でもマリアは楽しそうに過ごしていた。制服のアンドロイドとは違って、感情がよく表に出る。
「なんでそんなに表情がはっきりしてるの?」
「そっちの方が男性はそそるらしいのよ。痛いなら痛そうな顔、やってる最中はよがって、うれしそうな顔するの。人形みたいにしてほしいなら、そういう顔もできるよ」
そういうものかと納得した。
「いや、愛想よくしといてよ。みんなにかわいがられる方がいいだろう?」
マリアを連れて行くとお得なことが多かった。
市場管理者のおばちゃんには「かわいい男の子と女の子が並んでる! かわいい!」とはしゃいでいたし、流しのスープ屋台のおじちゃんはいつもより多めに盛ってくれた。野菜売りのお兄さんはぼくを睨みつけながら野菜を投げつけてくる。
それもこれも、マリアのおかげだ。
マリアの主人として、ぼくは背筋を伸ばすようになった。
なにかをするにつけ、二人でするようになった。
ぼくが本を読んでいれば、マリアは本をのぞき込んだ。
マリアが土をいじってれば、ぼくも一緒にいじっていた。
ベッドは少し狭いけど、二人で使った。
買い物に行くときは二人一緒だった。
目を離さないようにしていた。
なにかの異変を見逃さないようにしていた。
悲劇を予感してなのかもしれない。
兄が家にやってきた。
(過激な性描写に該当するシーンにつき削除。マリアがひどい目にあう)
これがなにかってやつなのか。




