マリアとぼくは一緒になった
マリアは多くを語らなかった。
どうしてジャンク市に並んでいたのか。
どうして破損していたのか。
「教えてくれよ」
ぼくがせがんでも彼女はゆるく微笑むだけだった。
時間がたてばたつほど、確認するすべは失われる。半年たてばすべて忘れるだろう。
それを思うと、強く確認することもためらわれた。
マリアは長い時間を歩くことが苦手だった。
家の中を歩くくらいならなんてことなかったけど。長時間の歩行はできなかった。
「あたしが逃げないように。機能制限をかかっています」
「それは解除できるのかな」
「あたしではできません」
彼女の設計仕様書でもあればどうとでもなる。だけど、一般に流通している書籍には彼女の情報はなにもなかった。
シンクライアント端末であることも考えたら、大量生産向きの商品じゃなくて、オーダーメイドのそれだったんだろう。
マリアが出かけることもできないと困る。
役所に相談して車いすを支給してもらった。
例の群青色の制服を着た、表情が薄いお決まりのアンドロイドだ。制服さんは勤勉だ。
「お久しぶりです。ヨゼフさんからご相談がありました車いすをお持ちしました――」
車いすとは言っているけど、それにはタイヤはなくて、反重力を活用したいす型の移動装置だ。
「――シティでは、バリアフリー対応の車いすの使用をお願いしています」
試しに自分で使ってみる。なかなかに使い勝手がよくてびっくり。自分で歩くより楽なんじゃないか。
「ぼくも使いたいな」
「健常者は歩いてください」
「厳しいね」
「マニュアル等は電子メールでのちほど送付します。ご確認の上ご利用ください。それと今日はもう一つ別件でまいりました。この車いすの利用者についてなんですが」
「うん」
「アンドロイドに車いすの支給というのはレアケースです。該当のアンドロイドと面談します。ヨゼフさんは席を外してください」
突然の話だった。
「……マリア、君と話がしたいってさ。いいかい?」
食卓にも、作業台にも、書見台にもなる机の前に腰かけてるマリアは小さくうなずいた。
断ってくれたらいいのに。ぼくも相席したい。
ぼくの家なのに、ぼくはリビングから追い出された。
少しでも声が聞こえないか。と思って、寝室とリビングを隔てる扉に耳を押し付けた。
ぼそぼそと声が聞こえる程度で何も聞こえなかった。
仕方ないのでベッドでふて寝した。来客があるのに、いつの間にか眠ってしまった。
なんだかんだ言って、ぼくは役所のアンドロイドを信頼しているのだと思う。
ベッドが広い。
目が覚めたときには、制服アンドロイドは帰っていた。
見送りはマリアがしてくれたらしい。
「ごはん食べますか?」
「……もしかして作ってくれたの」
「まさか、あたしはセクサロイド、そんな機能はありませんよ。聞いてみただけ」
「いいや。もう、寝よう。ぼくのベッドは広いから。温めてくれよ」
マリアを湯たんぽにして眠った。
なんの話をしていたのかは訊けなかった。
ベッドが狭い。




